ep2「玲也」


その日の夜。


ピンポーン。


インターフォンがなって、

今朝頼んだ宅配便が来たんだろうと、

ドアを開けた。


「こんにちはー! サインお願いしまーす!」

「はー……い……!?」


配達員の顔を見た瞬間に、

息が止まった。


目の下に泣きぼくろ。

光輝くような色白で、まさに……


”美しいイケメン”だった。


年は、私と同じくらい……?


と、ぼけっとしながら突っ立っていると、

配達員に顔を覗き込まれた。


「あのー? サインを……」

「はっ!! あっ、はいっ」


緊張でサインする手が震えそうだった。

お、落ち着け自分……!


配達員は表札ひょうさつとサインを見比べ、

不思議そうな顔をして言った。


「あれっ……って……」

「えっ? ……あっ!」


しまった!

つい、くせでペンネームでサインしてしまった!


「もしかして、漫画家の本咲麗子さん!?」

「えっ!? は、はい」


まさか……私を知っている?


「うわぁ! 僕、大ファンなんです!!

すっげぇ〜!」


配達員は爽やかな笑顔で

興奮気味に言ってきた。


こんな美男子が、私のファン……!?


「えっ! あぁ、そんな……あはは」


謙遜けんそんしたものの、

正直飛び跳ねそうなほど嬉しかった。


「あっ、新作、楽しみにしてますんで!」

「は……はいっ!」


ゆっくりとドアが閉まる直前、

配達員の名札が目に入った。


藤井玲也ふじいれいや”……か……


パタンとドアが閉まった。


即座に受け取った配達物を開けて、

中の”ハエ叩き”と”殺虫剤”をぎゅっと抱きしめた。


「ありがとう……ゴキブリちゃん!!」


*****


翌朝。


「ふんふんふん♪」


機嫌よく鼻歌を歌いながら、

こたつの上でペンを走らせていた。

昨日まで行き詰まっていたのが嘘みたいに。


新しい男性キャラの絵。

モデルはもちろん……


昨日出会ったイケメン配達員、玲也だ。


我ながらそっくりでよく描けている。

こんな身近に”美しいイケメン”が現れるなんて。


今日は髪を高く結んでポニーテールにし、

ついでに化粧もしてみた。


枯れ切っていた乙女の心が復活したみたいだった。


ふと部屋を見渡すと、

相変わらず汚く散らかっている。

……そりゃそうだ。


「掃除するかぁ」


透明のゴミ袋を広げ、

ボツにした漫画の下書きを放り込み、

ゴミ捨て場へ向かった。


「ふんふんふん♪ ……ん?」


ゴミ捨て場に着くと、

掲示板の貼り紙が目に入った。


強盗殺人ごうとうさつじん 所持しょじしています】


そう書かれた下には、

指名手配犯の似顔絵。


くるくるパーマで、おちょぼ口……。


隣人の、のぶ雄にそっくりだ……。



ガサッ。


「ひっ!!」


物音がして振り向くと、


真後ろに……のぶ雄!!


「あっ、お、おはようございます……」


挨拶してみたものの、のぶ雄は真顔で、

私のゴミ袋の方をじっと見つめている。


まずい……

指名手配犯だと怪しんでいるのに感づいた!?


ゴミ袋を置いて、逃げるようにその場を去った。


さっきの似顔絵……

一瞬しか見れなかったから、確信は出来ない。


でも後ろは……怖くて振り返れなかった……。



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