【ゴキ恋♡】〜恋のキューピットはゴキブリ!?〜

ぐぅ

ep1 「のぶ雄」


バリボリバリボリ……。



煎餅せんべいをもう1枚……と、袋に手を伸ばした時、


突如とつじょヤツは現れた。



「んぁ? ……ぎゃあああああー!!!!」



指先にいたのは、



特大のだった。



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【ゴキ恋♡】

〜恋のキューピットはゴキブリ!?〜

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朝っぱらから大絶叫をかましたこの私は、


本咲麗子ほんざきれいこ


……いや、これはペンネームだった。


本名は、西崎愛美にしざきまなみ。23歳の恋愛漫画家。

恋人は……無し!


そんな私の漫画のこだわりは、

とにかく”美しいイケメン”が登場すること。


少年漫画的なギャグ要素も強めなせいか、

読者には男性ファンも結構いる。


『本咲麗子』なんて、

うるわしそうなネームを使っておきながら、

その実態は……


足の踏み場も無い程散らかった部屋。

すっぴんでぼさっと広がった髪の毛。

の上には、中途半端な下書きの紙の山。


もう何日も創作に行き詰まっていた。

新しい男性キャラのイメージが

全然浮かばない……。


こんな自堕落じだらくな生活を送っているせいで、

すっかり”恋する乙女心”が枯れ切ってしまっていた。


こたつの上にまった下書きを眺めながら、

片手で煎餅をボリボリとむさぼり食っていた。


デジタルで作画した方が散らからずに済むのはわかってる。

でもパソコンなんかで描くと……

すぐネットサーフィンに走ってしまうのだ!!


こうしてこたつで紙と向き合って創作するのが

私にとって1番落ち着く。



そんな時に、ヤツが現れた。

しかも……かなりデカいやつ!


「ゴキブリぃぃ!! いやぁああああっ」


飛び退いた反動で、

後ろ向きにデングリ返しになって……


ゴン!!


両足が壁に激突した。


「痛ぁああああ!!」


痛過ぎる!!

痛みに耐えながら周りを見渡した。


……いない……。

いつの間にかゴキブリが消えている。


「フンッ……フンッ……」


闘牛とうぎゅう並みに鼻息を立てて、

一旦気持ちを落ち着かせた。


おのれ……ゴキブリめ……。



ゴキブリだけは昔から本っっ当に無理だった。


ジンジンとする足の痛みを感じながら、

すぐにスマホでネットショッピングを開いた。


”ハエたたき”と殺虫剤さっちゅうざい”の注文完了……っと。


その時だった。



ピンポーン。


誰がインターフォンを鳴らしたのか、

察しがついた。


「あっ、やば……お隣さんかも……」


ここは団地だんちで、部屋の壁も薄い。

あんな大声を出して暴れたのだから無理もない。

怒られるかも……。


恐る恐る玄関のドアを開けた。


……やっぱりそうだ。



ドアの前に真顔まがおで立っていたのは、


大木たいぼくのようにでかい背丈せたけ

くるくるパーマで、おちょぼぐち


隣の部屋の住人、”のぶ”だった。


本当の名前は「田中」さん。

声が野太のぶといので勝手に”のぶ雄”と名付けている。


大学生らしいけれど、

どう見ても年下に見えないほど……

老けている。


のぶ雄は野太い声で言った。


「さっき、隣の壁から、

ゴンッって大きな音がしたんで……」

「あ……ちょっと、転んじゃって……

すみません……」


ゴキブリが出た……とはあえて言わなかった。


のぶ雄はいつも真顔で、不気味だった。

視線を合わせると、身構えてしまうようなあつもある。


あまり……関わりたくない相手って感じ。


とりあえずへこへこしながら

そっとドアを閉めようとしたその時。


ガッ!!


のぶ雄はドアの隙間すきま

足をはさみ入れてきた。


「ひっ!」


そして真顔のまま、私の顔を覗き込んで言った。


「……大丈夫ですか?」


視界に広がるのぶ雄の顔面がんめん

やっぱり……不気味!!


「だ、大丈夫です!」


今度は思い切り力を入れてドアを閉め、

のぞき穴をそっと覗いた。


……のぶ雄が微動びどうだにせずまだ立っている!!


すぐにチェーンをガシャンとかけた。


あの真顔が、どうも苦手……。

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