今日、永遠にサヨナラだ!

赤羽 倫果

生まれてゴメン、永遠にサヨナラだ!

 最後の朝メシ。仮初のおふくろのに迷惑かけるのも、あと少しの辛抱だ。

 使い終えたヤツを食器洗い機にぶち込んで、オレはダイニングを離れた。


 二階の部屋に戻り、ガランとした部屋でリュックサックの中身をチェック!


「準備は済んだ?」

「うん……」


 ふりむいたら、仮初のおふくろの背中は、もう見えない。


「嫌われはツラいな」


 愚痴をこぼしても仕方ない。この部屋ともお別れだ。


 4月から、本当の息子と一緒に過ごす時間が増えて嬉しいよな。邪魔者は、今日で消えるから。

 

 今までありがとう! 永遠にサヨナラだ。


「嗣春……」

「今までお世話になりました。ありがとうございます」

「……」


 仮初のオヤジも、不出来なオレが消えて、優秀なアイツが戻って来るからなのか。

 驚くほど、穏やかな表情を見せていた。


 安心してよ! 永遠にサヨナラだ。


 背後でドアの閉まる音。振り向きざまに頭を下げて、見上げた先に彼らがいるはずはなかった。


 まあ、そんなもんだよ。


 坂道をゆっくり降る降る。

 カーブを曲がってすぐのバス停前に、一台のバスが近づく。


 向かう先は、隣県にある海だ。ここに帰ることなんて、二度と許されないよな。


 だから、永遠にサヨナラだ!


 バスに揺られて、スマフォのアドレスを消す。仮初の家も、本当の家も全て。


 永遠にサヨナラだ!


 オレとアイツが『取り違えっ子』だと、双方の親が知った時、育ての親も生みの親も、優秀なアイツの親権だけ主張した。


 ボンクラなオレが放置されても仕方がない。オレが親の立場なら、同じこと考えるよ!


 話合いの結果、育ての親は外でホンモノとの親睦を深めていった。


 向こうの親はオレに会いたがらない。

 こっちの親はオレを厄介払いしたい。

 なんだか世知辛い。


 あの日、仮初のオヤジに進路について、大学進学ではなくて高卒で働くと、この家も出ると伝えたら。


「やりたいようにすればいい」


 そっけない答え方に、

「あ……りがとうございます」

 謝意を述べるだけで精一杯だった。


 仮初のおふくろに伝えても、

「お父さんがそう言うなら、それでいいわよ」

 オレへの無関心さだけ浮き彫りに。


 だから、これ以上は迷惑かけてはならないようにと。


 『永遠にサヨナラ』を決意したんだ!


 いつの間にか眠りこけていて、窓の外から海岸線が視界に入る。信号が切り替わるたびに、停まって走って、幾度か繰り返す。


 降り立った知らない場所。空は青く輝いている。


「うん海に来た感じ。サイコー」


 潮風は冷たく、白波の彼方に船が過ぎ去る。少し濡れたコンクリの階を降りて、砂上にスニーカーが沈んで、埋もれた空き缶を踏み越えて。


「冷てっ」


 ジーパンの裾が濡れても、構わずに波打ち際を乗り越えて、あと、何かあったかな?


「まっ、いいか」


 まぁ、アイツらに比べたら、ここはまだあったかいかな?



 おばさんが異変に気づいて、嗣春の携番にかけた時には、もう、繋がらなくなったらしく、慌てて就職先に連絡を入れたところ。


 『就職辞退』を、知らされたらしい。


 そこから、オヤジたち四人は手分けして、嗣春の行方を追いかけた。


 憔悴しきったオヤジたちの祈りもむなしく、隣県の海から嗣春の遺体が打ち上げられたと、連絡を受けたのは三日後だった。


 おばさん、オレのホントの母さんは、白木の卒塔婆に向かって泣きじゃくる。その後ろでオヤジたちが呆然と立ち尽くす。


 砂浜に投げ捨てられたリュックサック。

 便箋一枚には、

『みなさまのご多幸を、心よりお祈りします』

 とだけ書かれていた。


 ご多幸だと。ふざけるなよ。

 なんで、あんなマネしたんだ、バカヤロウっ!



 あれ? いつものように笑ってよ。

 そんなウソ泣きは辞めて。


 せっかく、気を利かせて『サヨナラ』したのに……。



 ナニが気に入らないのかな?





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今日、永遠にサヨナラだ! 赤羽 倫果 @TN6751SK

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