第4話 フリスクの行方

試写会当日


高橋ユウトは、緊張と不安で一杯だった。

もちろん、ストーリーは把握しているがこの試写会は関係者・出演者と抽選であたった100名のファン達と一緒に見るため、ダイレクトに反応が返ってくるからだ。

(今日は、ソニーの偉いさんたくさん来てるからなあ、それに安野監督イマイチだからなあ。まあでもカンナちゃん今日もカワイイなあ。)


舞台で一通り、出演者の挨拶が終わった後、映画が上映された。ほとんどドラマと同じ流れだった。違った所は、ドラマはヒロセカンナちゃんがコロナにかかった為、代役の女優が立てられたのでそのシーンを取り直しただけだった。


そして、問題のシーンに近づいた。


↓↓

みかんは翌日店長に河原に呼び出され、新しい武器をテストすることになった。昨日のことがあり早く行動を起こす必要があった。新しい武器はフリスクのケースに入っており、店長はみかんに早速スマホからコードを入力する様に指示した。


......


全く反応はなかった。店長は解除コードをみかんに入力させた後、フリスクのケースを確認した。

『あれっ、ピンクのフリスクが入っていたはずだけど知らない?』『え、わかんないけど』

武器とフリスクを区別する為、着色していた。


(ここまでは、まったく同じ流れだ。問題はこの後だよなあ。)ユウトは固唾を吞んで見守った。


同じ頃、ターゲットは右手にチュールを持ち、悪人には似ても似つかない笑顔で子猫を膝の上に乗せ、

『ショコラちゃん、チュールでちゅよ』と赤ちゃん言葉で近づこうとしたが、

『あっ、やべー今日ごみの日だ、ショコラちゃんのトイレ掃除して捨てないとなあ。たまってるからなあ。』とトイレに近づいた。その瞬間、映像はスローモーションとなり、BGMはクラシック音楽が流された。火花が上がったと同時にネコ用のトイレ砂が花火の様に拡がっていき、その中にあった茶色い物体が、ターゲットの顔面に近づいて(ああ、もう間に合わない!)と思った瞬間、バーンという爆発音が鳴り響いた。


次のシーンではアップとなったウンチまみれのターゲットが一呼吸をおいて、『なんじゃーーー』と悲鳴を上げた。子猫は、一瞬ターゲットの方を見たがすぐに何事もなく楽しそうに走り回った。


ユウトは心の中で『安野ちゃん最高!』と叫んでなぜか勝ったと思った。

以降ストーリーはもうどうでもよかった。


映画の方は、この後みかんと店長に恋愛感情が芽生え、エンディングでキスシーンがあり、最後は人魚姫みたいな海の中で泡が舞い上がる意味不明な映像で終わった。

そして、エンドロールが流れ出すとスタンディングオベーションが鳴り響いた。


ユウトの横に座っていた、原作者のコージはおもむろに席を立ち、出口に向かいながらお尻のポケットからスマホを取出し、誰かに電話をしているようだった。出口の手前に到着すると、スマホをスクリーンの方へ向けてスタンディングオベーションの歓声を誰かに聞かせているようだった。


ユウトは、横のシロー先輩を見ると、こちらの方を向いて無言でサムズアップしてきた。

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