【3千】自作「私が生きてるだけで偉い理由」で私が賞金欲しくない理由
平蕾知初雪
蕎麦が欲しい、蕎麦が欲しい、蕎麦が欲しい
――ただ蕎麦が欲しかった。
カクヨムの「幸せしみるショートストーリーコンテスト」に応募した。蕎麦が欲しかったからである。
既に投稿したエッセイに書いたことなので詳細は省くが、平たく言うと私は病気でお腹が弱い。さらに虹の色ほど持病があって、長時間の電車通勤が困難な時期があったり、とにかくコンスタントに会社勤めをするということが難しい。ちょっちチョベリバな五黄の寅である。
投稿したエッセイ「私が生きてるだけで偉い理由」には思いがけずあたたかいコメントや沢山の星を頂き、誠にありがとうございました。
たまたまエッセイというジャンルが希少で目立ったのかもしれないが、1月下旬になってランキング上位に上がってくるとは思っていなかったので驚いた。
ランキングが4位以内ともなると、時期的にどうしても考えずにはいられないことがある。
「受賞」だ。
前回のエッセイの最後に、私はとある告白をした。別名義で執筆したホラー小説がコンテストで最優秀賞を受賞したこと。エッセイではいい感じに幸せをしみしみさせる必要もあり詳細は書かなかったのだが、実は私はこの作品のせいで信じられないような不幸に見舞われた。
嫌がらせを受けたとか権利問題で揉めたとか、そういうある程度予想のつく不幸ではないので是非びっくりしてください。
体調不良により会社を辞めてから、私は生活保護を利用することにした。僅かながら別の収入があるため、具体的には月に約4万円を受給している。
生活保護にはいくつかルールがあるが、収入があるといちいち申請しなければならないということは、案外知られていないかもしれない。
例え商品券でも、フリマアプリで荒稼ぎした収入でさえ申告する決まりとなっている。そういうお小遣いは貰った分だけ次回分の受給金から引かれるのだが、まあそれは仕方ない。
計算方法はややこしくて忘れたが、労働による収入だけは、きちんと申告すれば働いた分だけ潤う仕組みになっているらしい。
実際、私が以前ちょっとしたグラフィックデザインの仕事をしたときのケース。クライアントからは12,000円を振り込まれたが、印刷所への入稿と支払いを私がおこなったので、手取りは4,000円だった。その際は労働収入と見なされ、私のもとに4,000円がほぼほぼ残ったと記憶している。少額過ぎて引かれなかったのかもしれない。
で、私は小心者、もとい真面目な人間なので、コンテストの賞金を得た際にはきちんと申請した。
正直に言うと、いくらか引かれるかもしれず、少し迷った。
というのも、賞金は現金ではなくアマゾンギフト券での支給だったからだ。しかし私の作品はもはやWEBという大海原へ流れてしまった。デジタルタトゥーというのもあるし、数年後に申告していなかったことがトラブルの元になっても困る。結局、素直に申告した。
賞金は5万円だった。結論から言うと、私のもとには8,000円しか残らなかった。残りの42,000円は、なんか、どこかへ消えたのである。今思い返しても不思議だ。
残りの42,000円は私の未来の受給金から引かれた。が、私はもともと月に4万円しか受給していないので赤字である。この話をケースワーカーさんとしているとき、もはや42,000円が概念と化していてかなり混乱した。
「じゃあ3ヶ月に分割しましょう、月々10,000円と少し引くということで」
優しいケースワーカーさんの妥協案であったが、なんかローン組んで少しずつ返すみたいになってる。私の賞金なのに。概念……。
そして私は3ヵ月、酷い貧困にあえぐ日々を強いられた。当然だ、アマゾンギフト券で家賃や光熱費は払えない。アマゾンギフト券を奪われることはなかったが、受給金という現金が消えたことで、私はシンプルに貧乏になった。
まさかコンテストで受賞すべきではないなんて、そんな。
体重も減ったがそれ以上に心が痩せた気がした。むなしくて寂しい。ジリ貧の苦しい3ヵ月が過ぎると「私は最優秀賞だった! 私には賞与を受け取る資格があった! 悔しい! 悔しい~!!」と布団の上でゴロゴロしていたが、未だにその思いは消えない。
後日、ケースワーカーさんに参加中のコンテストのことを相談をしてみた。去年の末のことである。
前提として、私は既に診断書を提出している通り、求職活動もままならず、就労自体が困難な状態だ。在宅で、多少体調が悪いときでも自分のペースでできる仕事を欲している。だから小説を書いたりコンテストで目立つことは、WEBコラムや配信動画用脚本などの長期的な仕事を得るとか、何かはわからないが何かに繋げるための求職活動だというようなことも説明した。
しかしコンテストの賞金というのは「報酬」という扱いになる。これは自治体に文句を付けたら変わるようなものではなく、東京都のルールでそうと定められているらしい。
つまり私が勝ち取った賞金は、宝くじでたまたま当たった当せん金と同じ扱いなのだ。それって、うそやん……ちょっと、知事! 知事ーッ!!
私はケースワーカーさんに、最も重要なことを尋ねてみた。
「もしコンテストで賞金30万円を獲得したらどうなるんですか?」
「おそらく前回と同じになります。8,000円だけ手元に残って、後は……」
あまり計算したくないが、もし30万円が手元に転がり込んでしまったら、何ヶ月受給金ストップされるんだろう。
ちなみに、今のところ私の執筆活動には関係のない話ではあるが、もし賞金が100万円レベルになるとさらに悲惨なことになる。
なんと、生活保護の打ち切りが検討されてしまうのだ。
「100万円も貰ったらいいじゃん」と思う方もいらっしゃるかもしれない。しかしながら私が生活保護を受けているのは、ただ4万円を得るためではないのだ。
私が恩恵に与かっているのは、現金よりむしろ医療費控除である。控除というより免除というのかもしれない。
私の場合は生活保護を利用するにあたり、まず国民健康保険を外された。今は保険証に代わって自治体が発行する医療券というものを使っている。医療費もかからないし、おまけに調剤薬局でも使える。医療券にも多少の不便はあるが、生活保護が打ち切られることと100万円。スタンプラリーやってんのか? と思うほど通院通院明日も通院の私である。秤にかけたら、医療券のほうが100万円よりずっと重い。0がもう1つ多ければともかく、100万円200万円は儚いよ。
私の愛しい緑のたぬき。これは賞金がどうなるのか不明瞭ながらに応募したのだった。たとえ受賞し、賞金が一銭も私の元に残らなくても、蕎麦だけは残るからである。現物支給最高。最後に蕎麦が勝つ。
もし私が今後コンテストで受賞したとき、賞金を辞退できるなら辞退するかもしれない。こんなに貧乏なのに。
「賞金を辞退すると蕎麦もキャンセルになるよ」と言われたら少しばかり迷うが、あっやだ、それは本当にいやだわ。
しかし、ケースワーカーさんから帰り際に聞いたことには。
「依頼されたという形であれば労働収入になりますから、8,000円以上残ります」
ではもし私が賞金を伴う賞に見事選出された暁には、なんかこう、いい感じに「弊社HPに掲載させてください」とか、依頼形式の文面を入れてください。それだけで私は地獄みたいな貧乏生活から逃れることができるのです。
今回の「幸せしみるショートストーリー」で受賞を逃したとしても、私の抱えるジレンマは当分続く。小説を書き続け、高みを目指して挑戦を続ける限り、この地獄は続いてしまうのだ。
だから最近はボロボロの身体をなんとか起こして展示会へ出展するための絵なんか描いている。だって絵は買いたいって依頼があったら売れるんだもん。体力的に辛いので大量生産も大量受注もできないが、売れなくとも1枚でも描けばポストカードにでもして小銭には変えられる。だから今だ!! というコンディションのときは無理をしてでも絵を描く。
近年は1年に1枚くらいしか制作していなかったというのに、ここ数日の私は金策のためかなり頑張っていると思う。
少しずつ少しずつ、痩せています。
【3千】自作「私が生きてるだけで偉い理由」で私が賞金欲しくない理由 平蕾知初雪 @tsulalakilikili
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