相合傘

夏伐

相合傘

 朝は晴れていた。だが、天気予報では午後に雨が降るとテレビから流れていた。


 数度目のチャンスがやってきた。


 彼女は傘を持っていない。


「良かったら、一緒に帰る?」


 俺はなるべくさり気なく、傘の片側にスペースを作った。

 それを聞いて彼女は、笑顔で鞄から折り畳み傘を取り出した。


「ありがとう! 持ってきてるから大丈夫だよ!」


 彼女に、ショックを受けたことを感づかれないように傘で顔を隠した。そんな俺に彼女は言った。


「駅まで一緒に帰ろうか」


 いつもこうだ。俺の作戦は上手くいかない。



「あの時さ――」


 今も彼女は何度もその時の話を蒸し返す。


「相合傘したかったんでしょー?」


 子供の前で、学生時代のことを話す彼女は、あの時も今も変わらない笑顔を浮かべている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

相合傘 夏伐 @brs83875an

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説