第27話 初めての海

 僕たちの朝は早かった。

「昨日はロクタくんとナナ、酒盛りしたんでしょ?ズルい!」

 朝から八重さんの元気な声で、僕たちの朝は始まった。

「そうなの?ロクタ。」

 キュウはオレも誘って欲しかった!という顔して、そう言った。

「お酒と言ってもカクテルだよ。お前は甘いの、苦手だろ」

「いや、オレは女の子と飲めるならなんでもいい」

 キュウは真顔でそういうので、セクハラー!と、そう言って八重さんがきゃらきゃら笑った。ナナも僕もつられて笑う。

「それより、今日はどこ行く?」

 ナナは羨ましそうにしている八重さんとキュウを他所よそに、今日の計画を立て始めた。

「海に行きたい!」

 八重さんは勢いよく、そう言った。

「海かー。どお?」

 ナナは僕とキュウの顔を見て、そう言う。

「僕、実は海に行ったことない」

 僕は海と聞いて、そう言った。

 そう。僕は海に行ったことがない。

 それは父の死に関係していた。

 父は僕が小学4年生の時に突然、亡くなった。死因は溺死…と言うんだろうか。

 父親が乗った船が沈没して、死んでしました。

 母の話では、父は父の友達と船旅を楽しんでいた時の出来事だったそうだ。

 実は未だに遺体は見つかっていない。

「海、嫌い?」

 ナナの問いかけに首を横に振った。

「海が嫌いとかないよ。母さんが海に行けなくなったから、僕も海へ行けなかっただけ。別に海を恨んだりはない。自然を恨んだりしても意味ないし。海はきれいだし、見たいとは素直に思うよ」

「じゃ、行こうか?海」

 八重さんは、明るくそう言い、海に行くことになった。そして僕たちが水着やらなんやら準備を始めた。まあ準備はナナ達に任せて、僕は朝食作りを始めたんだけど。

 僕たちが、そうこうしているうちに、玄関が開いた。

 訪問者は、この別荘を管理してくださってる由紀子さんだった。同時に息子の燿司ようじくんと双子の少女の姿もあった。

「おはよ!昨日はごめんなさいね」

 由紀子さんは、昨日の火事で帰ったことを詫びながら、現れた。

「みんな、朝早いのね。昨日はよく眠れた?朝食を持って来たわよ」

 由紀子さんは朝ごはんが入ったバスケットを手にしていた。

 朝食を準備している僕を見て、すごーい、と由紀子さんが言った。

「これ、あなたが作ったの?」

 テーブルに並んだスクランブルエッグやサラダ、焼きたてのパンなどを見て、そう言った。

「すみません。勝手にあるもの使って」

 僕がそう謝ると、由紀子さんは、いいのいいのと言った。

「ほんと、すごい。美味しそう!」

 双子の少女も声をあげた。

「あ、すみません。私、燿司ようじの双子の妹で、ミチルって、言います」

 ミチルちゃんはそう挨拶して、ペコリと頭を下げた。顔は燿司ようじくんと同じだけど、性格は違いそうだった。話し方もゆったりしている。

「ほんとだ、おまえ、料理人?」

 燿司ようじくんも料理に感心して、そう言った。

「そうよ、とっても美味しいんだから、ロクタくんの料理」

 八重さんが自慢げに言う。僕は照れながら

「一緒にどうですか?」と言った。

「いいの?」

 ミチルちゃんと、燿司ようじくんが同時にそう言った。やはり双子だ。息がぴったりだった。

 それから、由紀子さんが持ってきてくれた朝食もテーブルに並べて、大勢での朝食になった。

 ちょっとしたパーティーのようになり、楽しい雰囲気となった。

「午後からどうするの?」

 由紀子さんの問いかけに、八重さんが海に行きます!って答えた。

「え、おれも行っていいよね?」

 燿司ようじくんがそう言う。

 燿司ようじくんが誰に言ったのかわからないまま、でもみんな頷いた。

「ズル。私も行くよ!」

 なぜかミチルちゃんも加わることになった。

「じゃあ、海まで運転しようか?」

 由紀子さんがそう言ってくれた。

 八重さんが運転手さんを呼ぶつもりだったが、みんなで出かけたら人数も増えるし、由紀子さんの車は7人乗れるから一台で海まで行ける。

 結論、僕たちは由紀子さん家族と海へと出かけることとなった。

 

 


 

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優しさの距離 秋野りよお @oct988

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