僕たち私たちのこれから

MASANBO

第1話

 国民の義務とは?


 そう問いかけられたら学があるものは問題なく答えられるだろう。


 ―――『納税の義務』『教育を受けさせる義務』である。


 さらに歴史とかを少し詳しく学ぶものであれば、かつて『勤労の義務』があったと応えるだろう。


『勤労』これが義務であったとは、小学生は知れば驚くことであろう。そう。もはや勤労とは義務ではない。『権利』なのだ。

 総人口80億以上のこの世界。もはや労働需要量に比べ労働供給量が過剰となってしまった世界では、勤労は義務とするにはあまりにも非現実である。

 たとえ働きたいと望もうとも国は、企業はその望みに応えてくれない。

 別に禁止されているわけではない。起業するのは相変わらず自由であり、それにかかる資金もいらない。そのため、企業で一発逆転する人間は相変わらず一定数いる。

 だが、大部分はもはや働いていないのだ。

 では生活は?問題ない。食っていくこと、そしてある程度の娯楽を享受することに関して心配することはない。


『ベーシックインカム』


 国民全体に一定程度の給付を与える制度。簡単に言えば国に金をくれる制度である。その額は一人あたり15万円。


 15万円は多いように思える。そのため、かつての人々はこれでは働きたいともう人間が少なくなると言う批判があったが、それは全くもって的外れである。


 なぜなら『』を少なくするための制度と言える部分があるからだ。


 当然だ。国民全員が働くほどの仕事はないし、何より全員に働かれるのは迷惑なのだ。役にも立たない人間を働かせるほどこの国は暇で、酔狂な場所ではない。


 役に立てる者だけが働けば良い。もちろんこれは変動的。何かあれば有能から無能へ、無能から有能へと変わることなんてものはザラ。時代の価値観が変わることで新たに生まれた職種により、今までは働いていない人が働き始めることがあり、同時に働いていた人が無職になるのはこの国の常だ。


 そのため一見固定化された階級社会のように思えるかもしれないが、それは違う。


『変動型階級社会』なのだ。


 つまり下克上は常に起こりうる社会と言える。

 もっともそれはやはりある程度やる気、努力を行う人間に限られるだろう。


 トランプゲーム。大富豪で最貧民が大富豪に勝とうとするのは難しいように。下克上は難しく時の運もいる。それなのに働かなくて良いからと言ってダラダラしている人間はやはり無職のままである。


 そう今の日本は、個々人の中の精神構造によって己の立場が変わっていくように思える。

 別に働かなくたって差別はされない。何せその人数が多いのだから。

 ただ、それで怠けている人間とそうでない人間ではやはり待遇は違う。

 意欲があるときは、無償で機会を設けてくれることもあるし、何より周囲の目が違う。


 だからこそ精神構造によって階級ができる社会。俺はそう思っている。


 だが、やはり働いている人間の方が、尊敬され素晴らしい人間だ。俺はそのことに対して一ミリも疑問を抱いていない。


 俺はまだまだ学生の身分。働くことはまだできていない。


 だが、俺は近い将来働く。

 働かなくたって生きていける。食べていける。楽しく。ゲームをしながら過ごすことも可能だ。

 だが、それでは俺が生まれた意味は?それは果たして良い人間。すなわち尊厳ある人間と言えるのだろう?

 俺は否だと思う。

 俺が働きたい理由はまさにそれだ。


 尊敬される。いや、自分の中だけでもいい。尊敬できる人間でありたのだ。


 ―――だからこそ俺は働くことを決意して、それは正しいと思っている。


 ―――だからこそ。俺は、彼女の生き方にひどく動揺したのだ。


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