山本冬生

あいたい

 犬は目を閉じ、ふわふわとした気持ちに体を預けようとしました。元気だった頃の自分と、幼いご主人。ふたりはいつも仲良しで、ずっといっしょにいられました。犬はあまりにも幸せで「これが夢じゃなければいいなあ」と思いました。夢でした。

 目覚めた犬は、薄れゆく自身の視界とは裏腹に、その瞳に力がこもっていきます。

 動かない体を無理やり引きずって、ご主人を探しました。ずるずる、ずるずると。ゆっくり動きました。じっとなんてしていられなかったのです。

「こっちです! 早く!」

「シロ!」

 やっと、来てくれた。

 病室で犬は、とても安堵しました。

 今では立派な青年となったご主人、犬はいまでもご主人が大好きだったのです。ふりふりと、控えめにしっぽが揺れていました。瞳から、少しずつ光が弱まっていきました。

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山本冬生 @Fuyutoyuki

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