交流編

第23話「家買わされる女子高生」

これまでの話をしよう。

遠征の依頼を無事こなし、ククリエ・オルカという

とてもとても頼もしい仲間・・・本人は従者と言っている、が

まぁ仲間を迎えることができた私は

ギルドの正当な評価によって、冒険者ランク『ダガー級』を得ることができた。


ちなみに冒険者ランクは9段階あり、下から順に

『なし』

『ダガー級』

『レイピア級』

『ブロードソード級』

『グレートソード級』

『フランベルジュ級』

『センチネル級』

『ハイペリオン級』

『始まりの剣級』

・・・と、なっている。つまり私は下から2番目、

って言うか『なし』は等級に含まれるのかちょっと疑問ではある。


あ、うちのギルドマスター達は言うまでもなく

『始まりの剣級』に位置されていることもあり、

滅多にはないが、国、ひいては大陸の有事には問答無用で駆り出される立場である。


そしてここまでが私にとって朗報。

次にラピスさんから告げられた不測の事態こそが

今回私、いや私とククを悩ませることになるのだった。



「って訳で、ギルドメンバーの部屋は空きがないから。

 ククリエちゃんにはどこか宿取ってもらわなあかんね」


晴れてククはレッドアッシュのギルドメンバーになったはいいが

メンバーを増やす予定がなかったこともあって、空き部屋は全て

趣味の部屋や倉庫に使ってしまっていた。


「すみません、何の相談もなしで・・・、

 当面は私と相部屋にしたいと思います」

「うーん、せや言うても、ククリエちゃんの私物も詰めたら

 ユイちゃんの部屋に全部入りきらへんで?」

「・・・そうですよね、困りましたね・・・」


私とラピスさんがどうするか悩んでいると、勢いよく扉が開いた


「話は聞かせてもらった、私にいい考えがある」


そう言って入って来たのはシキさん。

何故かサングラスをかけて、何枚かの紙の束を持っていた。


「お嬢さん、この先またお友達を連れて帰るならさぁ・・・。

 こういうの、どうかなぁ」


軽快な歩き方で近づき、私の肩に腕を回してから手に持っている紙を見せてくる

そこに書かれているのは『売地一覧表』と言う大きな見出しと、

数件の売り物件の住所だった


「えーっと、シキさん。これはどういうあれですか?」

「ユイもめでたくダガー級になって、

 これからどんどん冒険者として沢山稼ぐ訳じゃん?

 我がミクニ・ファイナンスが融資するからさぁ、家、買って見ない?」

「駆け出しなんですけど?

 ミクニ・ファイナンスはダガー級に家を買うほど稼ぐ見込みを感じるんですか?」

「せやかて、このままククリエちゃんに宿暮らしさせるんは負担かけてまうし、

 見に行くだけ見に行ってもええんちゃうやろか?

 もちろん、うちの可愛い妹が経営するミクニ・ファイナンスは

 無金利、無期限の安心ローンや。な、シキちゃん?」

「え?えー・・・あ、うん、まぁ・・・まぁ・・・」


ラピスさんの、恐らく何の意図もない確認が逆に釘を刺すことになり

シキさんは微妙な顔で曖昧な感じで返答するのだった



「それじゃ、こちらがユイに紹介する物件なんですけども」


そうして連れられたのはギルドから歩いて数分、

少し目を凝らせばお互いの屋根が見えるかなという程度の距離にある屋敷だった

屋敷、と言えばこの世界ではピンキリまであるからもう少し詳しく言えば、

都内一等地、億は稼げる芸能人のお住まいと紹介されるレベルの豪邸、

もしくはそう言った人々がお気軽に宿泊できるレベルの別荘。


とにかく、一般人の私ではとてもとても住むには手に余るほどの住居がそこにある。


「ここは元々、リバーウッドの土地開発の過程で建てられた宿泊施設でね。

 見てわかると思うけど、富裕層向けに建てられてるから

 多少は煌びやかな意匠を凝らしてあるんだよね」

「もう一回言いますけど、私ダガー級の冒険者なんですけど。

 本当にここに住まわせようとしてます?」

「あー大丈夫大丈夫、ここは私が建てた奴、つまり私の物だから。

 とりま無理しない程度に一生払いで分割するよ」

「へー、ここってシキさんの・・・・シキさんの私物!?」


いつも帳簿と睨めっこして経費をどれだけ削減するかで頭を悩ます人に

何故こんな豪勢な建物を建てて、しかも今日まで放置しているというのか

っていうかそもそも建てるだけの財産があるってこと自体が初耳だった。


「失礼な事考えてそうだから話すけど、元々宿泊施設として

 ちゃんと使う予定だったけど人件費とか計画より採算が合わなくて、

 仕方なく私の別荘として使うつもりで置いてたんだよ。

 ・・・ちなみにちゃんと私が稼いだ金で建てたからね、

 普段事務仕事ばっかだけど、これでもそれなりに冒険者してるし。」

「まぁ・・・いつも大体事務作業ばかりで、冒険者の時のシキさんって

 あんまり見た事ないんですよね・・・初めて会った時くらいですかね」


実際、レッドアッシュの収益らしい収益と言えば

依頼の仲介料や国の補助金、あとオータムさんの稼ぎが大半で

その多くはラピスさんの意向で冒険者支援に費やされている。

そこからギルドマスターである3人は自身が生活するに不自由しない程度の

報酬で生活していると聞いたことがあった。


以上の事から察するに、この建物はシキさんの副業による産物なのだろう

・・・副業ってもう少し手堅い所から始める物なんじゃないだろうか?

社会経験の少ない元女子高生な私でさえ、そんな疑問が頭に浮かんでしまった


「元々実家の稼業で商売とか経営の知識はあったからね。

 オータムみたいにあっちこっち動き回るより、私にはこういうのが合ってるのよ」

「シキさんの実家・・・ですか?そういえばシキさんの実家ってどこなんです?」

「んー?テラスティア大陸のザルツ地方ってとこにある大きな町だよ。

 商売で財を成して・・・まぁいわゆる豪商や貴族って奴」

「え、シキさんって貴族だったんですか?

 でも今は冒険者なんですよね・・・実家を継ぐとかしなかったんですか?」


中々踏み入った私の質問に対して、シキさんは少し考えてから言った


「別に家族とは不仲って訳じゃないけど、稼業は兄が継ぐことになってたし、

 確かに冒険者なんてのに縁のない裕福な生活はできた、けど・・・」

「けど?」

「私にとってはラピス姉ちゃんとオータム、あとユイは会った事ないけど、

 師匠の4人で外の世界を見るのも悪くなかったんだよね、

 そう思ってたらいつの間にか冒険者になって、こんな風になってた」

「・・・そうなんですね」

「でも私の守る物は変わってないよ、増えたけどね。

 お姉ちゃんとオータム、そんでユイ。

 もし辛かったり、苦しいことがあったら絶対に言うんだよ、

 こんなんだけど、それなりに場数踏んで強いんだからさ」

「えーっと・・・ありがとう、ございます」

「じゃ、これ」


シキさんの言葉にちょっとだけ感動した私に、何かを手渡してきた

そこには『契約書』という題名の紙なにやら色々書かれているが、

末尾に書かれた契約主の欄には『私のものと似た字』で『私の名前』が書かれていた


「あの、あの、これって、シキさん、あの」

「50万ガメルのご成約ありがと、そんじゃ内装とか案内するから入ろうか」

「あの、すみません、あ、あ、あ、私、ダガー級」


言葉が上手く出ない私を置いて、シキさんはやや上機嫌で屋敷の中へ入って行った


『私文書偽造罪』


私でさえ知っている、この世界でさえ通用する法律違反を目の前で堂々をかまされ、

ユイ・シラオリ、元女子高生。冒険者ランクは下から2番目。

50万ガメル、元の世界なら大体5000万円の契約を交わすことになってしまった


空を見上げ、息をゆっくり吸う


「シキさ~ん、今すぐ助けてほしい辛くて苦しいことがありま~す!」


その声が届くかは分からない、けれど私の嘆きよ届けと願いながら

シキさんの後を追って、屋敷の中へ入って行くのだった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大した能力も持たずに転生した私ですが仲間がチート級に強いのでなんとか生きていけます あきづきけ @Akiduki-ke

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ