第22話「砦の守護竜」

エントレット討伐を記念し、村は総出で宴をすることになった。

その功労者である私とトカゲ野郎さんと鉄髭さんのテーブルには

絶え間なくあらゆる料理や酒等が運ばれ、

村中の人達が代わる代わる私達にお礼を言いに来るのだった。


エントレットを倒した後に残った剣のかけらは20個以上に及び、

村の人達には宴会を開いてくれた礼として全て譲ることにした。

まぁ、守りの剣の無い村にとっては換金する以外の用途はないけど

この村にはありがたい臨時収入になってくれれば良いと思う。


「隣、よろしいですか?」


村の人達の歌や踊りを見ながら果物のジュースを飲んでいると、

隣にもう1人の功労者がやってきた。


「もちろん、どうぞ」


断る理由などなく、私は近くにあった椅子を寄せてから座るように促した


「・・・ユイ様、ありがとうございました。

 皆さんのおかげで誰1人の死傷者もなく、

 こうして無事に大きな障害を乗り越えることができました」

「私は大したことしてないよ。厳密に言えば、私の持ってる魔剣の力だし」

「いいえ、その魔剣の力を使えるだけでも十分に大したことだと思いますよ。

 ・・・魔剣改世、まさかこの目で実物を見る事ができるとは・・・」


本当は今すぐにでも出してもう1度見せたい気持ちはあるけど、

あの後すぐに力を使い切って、改世はまた私の中に戻って行った

そうなると、その日は確実に出すことはできないし、

次に声を聞けるようになるには長くて3~4日かかったりする。


「さて、それでは本題に移りましょう。

 ユイ様、単刀直入に言いますが、私をユイ様の従者にして頂きたく思います」

「・・・良いの?」

「村長から話を聞きました、この移住を成したら、

 私のことを連れて行こうと思ってたんですよね」

「うん、村長からお金出してお願いされたけどさ・・・、

 結局、お金は断っちゃった。ククさんを仲間にしたいのは私の意思だからさ」

「ええ、それも伺いました。だからこそ、貴方には私の主になってほしいのです。

 私が冒険者として旅をした理由は、困っている人を助ける力になりたいから、

 そこに私欲はなく、おとぎ話の英傑の如くありたいから。

 貴方はきっと、そんな私を笑わずに受け入れてくれそうだから、です」



「笑わないよ、絶対」



私は、すぐにそう答えた。



「良いわね、微笑ましいわね」



私達の背後から、野太い声が聞こえてきた


「うおおう!?あ、え?ケンゲンさん!?」

「つれないじゃないの~、こんな楽しいことしているのに、

 私を呼んでくれないなんて・・・。

 山が騒がしいから気になってたけれど、大体の事情は分かったわ。」

「・・・翡翠の鷹殿・・・」

「良いのよ、そちらの懐事情についてはこちらも理解していたから。

 だからこそ、私はユイちゃんにお願いしたの。

 ユイちゃんからの要請なら、村を絡めて話をする必要ないでしょう?

 でも、それも必要なかったわね。」


そこまで考えて気遣ってくれたのか、と

私はケンゲンさんから預かっていた煙玉を返しながら思った。


「このご時世、いつだって命懸けでやらなければならないことがあるの。

 だからこそ、冒険者も傭兵もお金という対価を求める。

 それを求めないのは美談だけど、決して簡単なことじゃないわ」


ケンゲンさんはそう言うと、私の両肩を優しく掴んで顔を近づけてきた

何をされるのかという警戒心から体を強張らせた私に対して、

彼の眼差し?目力?からは優しさを感じ取ることが出来た


「簡単なことじゃないけど、それでもやろうとする貴方達を

 私は高く評価するわ。」

「ケンゲンさん・・・えーっと、ありがとうございます」

「さて、それでは私は失礼するわ。邪魔してごめんなさいね」


そう言うと、ケンゲンさんは身を翻して歩いていった。

突然の事で驚いたけれど、私は改めてククさんに向き合って話を続けた


「えー・・・あの、私もククさんと似ていると思うから。

 私も、憧れてるんだ、ククさんの言ってるおとぎ話の英傑っていうものに。」

「はい、しかしながら翡翠の鷹殿の仰ったように決して簡単ではありません。

 ・・・ですから、ゆっくりでも、時に上手く行かなくても構いません、

 目指しましょう、私達の描く『おとぎ話の英傑』に。

 私が貴方を支えます、この『砦の守護竜 ククリエ・オルカ』が」

「・・・『砦の守護竜』じゃとぉ!?」


酒に潰れて机に突っ伏していたはずの鉄髭さんがガバッと起き上がって

驚きの表情でこちらを見てきた。

そこで私もあることに気づいて、ククさんの頭上に視線を移した


『ククリエ・オルカ Lv12 メイン技能 セージ・フェアリーテイマー』


『クク』という名前だけでは不十分で、現れる事の無かった彼女のステータス。

Lv12、というのは鉄髭さんとトカゲ野郎さんよりLvは上だった気がする。

・・・ちなみに、私は最近セージの技能がLv3に認められたばかりだった


「おいおいおい!砦の守護竜って言えば数年前にその消息が分からなくなった、

 多くの国が追いかけ回していた天才軍師じゃねぇか!

 ・・・道理で、ただの村人の寄せ集めでエントレット相手にやり合えた訳じゃ」

「・・・かつて、『守護竜入らば砦は落とせぬ』と言われ、

 神算鬼謀を操り戦場を意のままに操ったと聞く・・・。

 まさかこんなに可憐なお嬢さんだとは誰も分かりますまい」


驚く鉄髭さんに続くように、むくりとトカゲ野郎さんが起きあがって解説を始めた。

ケンゲンさんの時もそうだったけど、

なぜこんなに2人は他の人物についてこんなにも詳しいのだろうか。


「普段、二つ名を名乗ることはしないのですが、

 主に対して自らの価値を証明するにはこれほど手軽な方法はありません。

 ですので、ユイ様が望めばいつでもこの知識・・・、

 あ、あと・・・心は勿論、み・・・身・・・も望めばいつでも・・・」

「や、や、や。落ち着いて、ククさん落ち着いて」

「そ、そうですね。時間はこれから沢山ありますし、すぐにというのは」

「や、や、や。うん、そうだね、今はそういうことにしようか」



かなり決心したような興奮気味のククさんを抑えている内に、

夜は更け、宴は終わり、そして朝となった



「村長、今までありがとうございました」

「クク様、こちらこそ今まで多くの事を学ばせていただきました。

 御恩に報いることが出来ないのが唯一の心残りにございます」

「いいえ、恩なら今この瞬間に十分受け取りました。

 この村に居なければ、良き主人に出会う事はありませんでしたから」


村長や村の人達からと別れの言葉を交わした後、

ククさん・・・いや、ククがこちらに向かって走って来た。

馬車には依頼品である村の品々と、ククの家財を乗せ終え、

いつでも出発できる状態だった


「もう大丈夫?」


私がそう聞くと、ククは頷いた


「はい、あまり惜しむと出発が遅れてしまいますから。」


ククが馬車に乗り込んだのを確認し、私はロバを動かした。

ゆっくり、ゆっくりと歩みを進める私達の姿が見えなくなるまで、

多くの村人が、別れの言葉を投げかけてくれていた。


振り返ればおおよそ1週間という、初めての長旅だった。

最初はどうなるかと不安でしかなかったけど・・・


「これからもよろしくね、クク」

「こちらこそ、よろしくお願いしますね、ユイ様」



私にとって、これ以上ない実りのある旅だったのは間違いないだろう

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