第21話「私と似ている」

「ククさん」


ククさんは数名で組まれた村人の小隊達に冷静に指示を出している。

その背後から声をかけると、少し驚いた様子で振り向いてくれた


「何故こちらに?貴方方は客人なのですから、どうか集会所まで避難ください」

「私達も手伝うよ」

「・・・その申し出については、お気持ちだけ受け取っておきます。

 そちらのドワーフ殿が先ほど仰っていたこと、それが理由になります」

「ワシらもそのつもりだったが、こういう状況じゃ。

 これはあくまで『ワシらに対する危険の排除』ってことなんだわ」

「左様、我々はあくまで『目の前に居る敵を倒すだけ』である」


私の説得・・・いや、説得するまでもなく

トカゲ野郎さんも、鉄髭さんも私の考えに納得し、付き合うと言ってくれた

そんな私達の言葉に、今まで冷静だったククさんも少し困った様子だった。

恐らく『これは何を言っても駄目だ』と思っているのかも知れない。

・・・だとしたら、その通りだ


「タダ働きになりますよ?」

「大丈夫」

「命に係わることですよ?」

「それでも構わない」

「・・・それでも、1ガメルも求めないということですか?」


私は頷いて、そして、迷わずにこう答えた


「ここに居る人達の命は、お金よりずっと価値があると思うよ」


自分で言ってなんだけど、かなり恰好つけ過ぎたと恥ずかしくなってきた。

でもこれが私の本心で、憧れで、在りたい自分。

そう、私がTRPGで作ったキャラクターは、

いつだって困ってる人を颯爽と助ける、『私の憧れのヒーロー』だった。


「・・・もし良ければ、お名前を伺ってもいいですか?」

「私?私はユイ・シラオリって言うの。よろしくね」

「ユイ様、どうやら貴方は、私と一緒みたいですね」

「・・・えーっと?」

「ふふ、何でもありません。良き方に出会えたと思っただけですよ。

 ・・・どうか、我々を助けてください。」




岩の巨人が現れたという報告を受けてからしばらく経った。

巨人は私達が通った道を辿り、ゆっくりとだがこちらに向かっているらしい。

ククさんの指示で、私達は門を出てしばらく降りた所の、

比較的道幅が広い場所、そこで迎撃するために待ち構えていた。


坂上に整列した弓兵の援護を受けつつ、前衛組は守りに徹する。

しかし弓兵と言っても、狩りの経験があるくらいで戦いに関しては素人。

前衛を任された村人は、背後からの誤射対策に背に木製の盾を背負っていた。


「さぁ、物見の報告ではもう見えてきても・・・おお!」

「ほっほ!ありゃ何とも立派な『ストーンゴーレム』じゃ!」

「大きいですね。・・・大きすぎない?」

「おお、おお・・・立派・・・立派ですな」

「お、おう・・・デカいな・・・?」


ズンッズンッという、『並大抵の重量では出ないような音』を鳴らし、

足にはっきりと伝わる振動と共に、その巨体は現れた。

推定、10mほどあるのではないだろうか、想像以上の大きさに

私達3人はただただ驚いていた。


知ってる?

Lv11の『アイアンゴーレム』でさえ、大体5mくらいなんだよ。


「こんなもん追い返せたなんて、この村の奴らとあの嬢ちゃん、

 実はとんでもないバケモンじゃないか?」

「今更怖気づいても仕方あるまい、俺達が前に出る!

 前衛は盾と防壁を構えて備えろ!」


トカゲ野郎さんの号令を受けた村人達は、

丸太を連ねてロープで縛って作った即席の防壁を

ゴーレムの進路を妨害できるように設置し始めた。


前衛はトカゲ野郎さんと鉄髭さんが務め、

私はククさんと一緒に弓兵と前衛の指揮をすることになった


「リザードマン殿とドワーフ殿、あの方々は相当な実力があるとお見受けします。

 ですが、本当に2人に任せて良かったのでしょうか?」

「大丈夫だよ、本当に危なかったらすぐ逃げてくると思う」

「・・・ユイ様、本当にありがとうございます」

「ううん、これは私のやりたかったことだから。

 ここで逃げたらさ、村の皆を、ククさんを見捨てた事で、

 私はずっと後悔すると思う」

「・・・ユイ様、やはり貴方は私に似ている気がします」

「本当に?それは嬉しいな」

「ええ。・・・もし良ければ聞いていただけますか?

 つまらない一人の冒険者の過去話でございます」



ククさんは元々、貧しい村の出身だった。

幼い頃から本を読み、知恵と知識を得て冒険者になった

武器を使った戦いこそ向かなかったが、

戦略や交渉などで比類なき才能を発揮したことで

多少ながら名も通るようになり、2人の仲間にも恵まれた


そんな時に立ち寄ったのが、この村だった。

貧しい村に、冒険者も傭兵も雇うお金なんてあるはずもなく、

それでもククさん達は善意で助けた。


「思い出したんです、私が冒険者になった理由。

 『貧困を理由に助からない人達を助ける為』、

 仲間達は理解してくれましたが・・・迷惑はかけれないと

 私は仲間と別れて、この村に住み、持ってる知識を使って

 この村を豊かにしようと思ったのです」

「・・・そういうことがあったんだ」

「おかしな話だと笑ってください。

 富と名声を求めるべき冒険者が、無償で人助けするなんて」

「ククさんは、さ。出来る事なら冒険者に戻りたい?」


私の問いに、ククさんは少し考えた後にこう答えた


「そうですね、冒険者として旅をしていた頃が懐かしいと

 感じることはあります」

「もし、ねぇ。もしこれが終わったら、さ・・・。

 私と一緒に、レッドアッシュに来ない?」

「・・・ふふ、まさか勧誘されるとは、驚きましたね」

「本気だよ、今日会ったばかりの縁だけど・・・。

 私ね、仲間を探してるんだ。トカゲ野郎さんも鉄髭さんも仲間で友達だけどね。

 変な事言っちゃうけど、今の私、凄くククさんのことが欲しい」

「・・・ま、まさかそこまで強く口説かれるとは、驚きました・・・」


『困っている人を助けたい』

そんな私と同じ考えを持つククさんみたいな人を、

私の仲間として居てほしい、この縁を今だけの物にしたくなかった。

・・・という気持ちを直情に語った結果、

生まれて初めての『ガチ恋告白』みたいな感じになったことに気づいてしまった。

『貴方が欲しい』とか漫画や小説でもそんなに見ない台詞を、

恋愛経験ゼロの私からまさか出るとは自分でも思わなかった。


つまり何が言いたいかというと、今めちゃくちゃ恥ずかしい。


「や、ややや、や!変なアレじゃなくて、ただ、ただね!

 あの、なんていうか、その!いや、ククさんは同じ女から見ても

 素敵で可愛いって思うし、いやそういうアレじゃなくて!」

「あ、いえ、あ、あ、ぁ、実際そういう意味でも全然、

 じゃなくて、あの、ユイ様の言う事は分かっていますので、

 あと、あ、あの、私もそういった経験がないというか、

 いや違って、ユイ様も素敵な人だと思、あ、じゃなくて」


「なーにをイチャついとるんじゃ!

 援護してくれぃ、こいつ何か妙じゃ!」


鉄髭さんの大声に、私の顔の熱は一気に冷めた。

多分ククさんもそうだろう、2人して戦況を見た。


「妙だな・・・」

「あぁ、こりゃ岩じゃなくて乾いた泥じゃ、

 泥で出来た巨体の魔物なんぞ見た事ない!」


ゴーレムの姿を見ると、体中に刺さった矢、

鉄髭さんとトカゲ野郎さんの打撃によって砕けた脚部から

かなりのダメージを負っているはずだと思った


それが泥の塊だと言われ、私の勘はこう告げた


「・・・ゴーレムじゃない!2人とも、下がってください!」

「落石部隊!今です!」


私の合図に間髪入れず、ククさんは崖上に控えていた部隊に指示し、

いくつもの大岩をゴーレムめがけて転がし落とした。

結果は、見事に直撃したことでゴーレムだと思っていた魔物の

外皮は砕け、その中に隠れていた本当の姿を知ることが出来た


その姿は大樹そのもので、しかしながら人と同様に二足歩行を可能している

私の記憶が確かであれば、穏やかな性格で自分から襲うようなものじゃないはずだ


「『エントレット』、どうしてこんな所に・・・!?」


大樹の魔物『エントレット』それが、この魔物の名前だ


「分からんが、とても理性があるように思えん!

 それに今気づいたがこいつ、少しずつだがどんどん成長しておる!」


鉄髭さんの指摘通り、足や手を形成している幹に伸びた蔓が絡まり、

その蔓が少しずつ成長し、太く大きくなりつつあった

ありえない、と思った。

いくらなんでも、今この瞬間でも常に成長をし続けるなんて

普通の植物ではないにしても、生物的に異様だろう。


「このエントレット、体内に『剣のかけら』を取り込んでいるのでは・・・」


『剣のかけら』

この世界に流通する不思議な魔法アイテム

蛮族やアンデッドという、所謂『穢れた存在』を遠ざける為の手段、

『守りの剣』と呼ばれるための動力源として使われる物だが、

魔物がその剣のかけらを取り込むことで身体を強化することができる。


それを取り込んだことで強くなっていることは納得できる。

しかし・・・


「であれば、理性を失い、驚異的な回復力を持つ化け物になるまで

 かけらをたらふく食らったと言う事か」


そう、トカゲ野郎さんの言う通りだ。

エントレットは無機物でなければ獣ではなく、

妖精語に限るが『言葉を理解できる存在』だ。

果たして、そんなエントレットが際限なく取り込み続けるのだろうか


「んなこたぁ後で考えぃ、儂もトカゲ野郎も打撃武器じゃ。

 凹まし、圧し折ることはできても、すぐ回復されちまう!」

「・・・なら、私・・・いや、『私達』の出番だ」


ククさんに指揮を任せて、私はトカゲ野郎さんと鉄髭さんより前に出る

その場に居たほぼ全ての人が、私の行動を理解できずに居た。

それは勿論、ククさんもその中の1人だった


「ユイ様、危険です!」

「大丈夫だよ、私に任せて。・・・じゃなくて、私達、だね」


目を閉じ、心の中に居る『それ』に声を届ける

多くを語る必要はない、ただ、その名前を呼ぶだけだ



「行こう!『改世』!!」

『ぃよっしゃぁ!!』



右手に集まる白い光が小さく収束し、強く光を放った後にその形を成す

光の剣を強く握り、体の感覚を魔剣に委ねる。

始終を見た周囲の人達から聞こえるどよめきと歓声を背に受け

私は力強く地を蹴り、エントレットの脚部、その目前まで距離を縮めた


『オラぁ!』


横一閃、エントレットの両足を切り離すにはそれだけでよかった。

しかし切り離し、宙に浮いた胴体部分は

一瞬で足まで蔓を伸ばし、繋がり、修復される


「なら!もっと沢山腕を振ればいいんだ!」

『その通り!明日筋肉痛になっても苦しむのはユイだけだ!』

「それは嫌!」


1、2、3、4、5・・・


斬る回数が増える毎に、その剣の速さは増し続け

数え切れなくなるころには、エントレットの再生速度を上回っていた


「ユイさん!胴体の中に光る塊がありますぞ!」

「そいつが剣のかけらじゃ!そいつをぶち抜けば倒せる!」


胴体を何度も斬り続けた先、ついに無数のかけらが集まった部位に辿り着く


『やれ!ユイ、思いっきりぶっ飛ばせ!』

「・・・アァアアッ!!」


改世の言葉に応え、私は全力で剣でその塊を突いた。

強い衝撃と音を感じた時には、エントレットの胴体には大きな穴があき、

そこにさっきまであったはずの剣のかけらの集合体は、

胴体を離れ、宙を飛んだ後に地面にばら撒かれた


剣のかけらを失ったエントレットはその過剰な恩恵を失った反動からか

体は次第に朽ち果て、腐食した後に倒れた


倒れたエントレットと、立ち続けている私


その光景に、村人達は一層大きな歓声をあげるのだった





























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