第20話「自己防衛の戦い」

『襲撃を受けた』


ククさんの淡々とした一言に対して

私は瞬時に状況を理解することができなかった


「それなら今からでも麓の村に居る傭兵達に

 連絡して警護してもらうべきでは?」


トカゲ野郎さんの質問に、ククさんは首を横に振って話を続けた


「翡翠の鷹殿については信用していますが、

 彼の部下にはならず者の出が多いのです。

 男手の少ない今、そういった方々を招くのは

 略奪などが起きた時に抵抗できなくなる危険がありますので」

「信用できないのは分かるが、

 だからと言ってこのままにしておく訳にも行くまい」

「その通りです、ゆえに予定を前倒しして我々も麓に降ります。

 色々不便はあると思いますが、命に勝る宝はありませんから」


そしてククさんの計画では、家畜の牛や馬に荷車を引かせて

村の財産を持ち出せるだけ持ち出すつもりらしい。

ただ、最低限の物でも何度か往復する必要がある


計画としては不完全だが、傭兵団をなるべく頼りたくないと言う

この村の考えを尊重した結果、これが精々だと付け加えた


「あと、この計画にはレッドアッシュの皆さんの護衛は必要ありません。

 このタイミングで無事に来てくれただけで十分ですし、

 何より、村に冒険者を雇う余裕がないのです」

「そんなこと・・・」


そんなこと気にしないで、と言いかけたのを鉄髭さんに制された


「ユイちゃんや、冒険者は慈善事業ではないんじゃ。

 タダで命を懸ければ自分と、そんでレッドアッシュまで安く見られちまう。

 この嬢ちゃんはそれを気遣って、助けは不要と言ってるんじゃ」

「・・・ご理解頂き、ありがとうございます。ドワーフ殿」


そう、言われてしまっては私は何も言い返せなかった。

私はギルドの冒険者だ、それは理解しているつもりだけれど、

心の中では『それが正しい』と納得できずに居た




「ユイちゃんの気持ちは分からんでもない、よう堪えてくれたな」

「い、いえ・・・私も考え無しでした、ごめんなさい」

「村人が皆、無事に麓に移れるのを祈るしかありますまい」


会合を終え、今日の宿となる場所に荷物を置いた後、

私達は再び集まって話し合っていた


「ま、さっきの嬢ちゃんもかなりのやり手じゃて。

 何も心配することないだろうよ」

「だな、村人に指示を出す姿は堂々としていたし、

 何よりこの苦境の中、

 ただの村人なら祈ってでも助けを求めたいくらいのはずだ」

「彼女は一体、どういう人なんでしょう」

「分からんが、ただの村の娘って事ではないのは確かじゃの」


気が付けば、私はククさんと言う人の事が気になってしまっていた

いや、断じてそういう恋愛感情的な物ではなく、

ただ単純に、『違和感』に近い何かを感じていた。


「君達・・・」


そんな私達に、1人の老人が声をかけてくる

さっきの会合では見なかったその人は、

杖をつきながら、ゆっくりとした足取りで近づいてくる。

恐らく、この人が村長なのだろう、足腰が悪いって村人が言ってたし。


「君達が、クク様が言っていた冒険者ですね?」

「いかにも、貴方がこの村の長ですな」

「はい・・・実はクク様について相談しとう事がございます。

 良ければ、あぁ・・・そちらの娘さんに、

 儂の家まで来てもらえないでしょうか?」


村長のまさかのご指名に、トカゲ野郎さんと鉄髭さんが私の顔を見る。

身に覚えのない私だけど、ククさんの名前が出たことで

とりあえず、話だけでも聞こうとついていくことにした




「それで、相談というのはどういうもので・・・?」


村の奥手にあった村長宅に着くと、私はそう話を切り出した。

すると村長は部屋の奥へ行き、すぐに戻ると机の上にある物を置いた

それは手の上に乗る程度の革袋で、何かが入ってるらしい膨らみがあった。

村長がその袋を開けて中身を取り出すと、それは幾らかのお金。

どういう事かと少し戸惑っていると、村長が話を始めた


「皆さんの働きに対して割に合わないことは承知しています。

 しかしどうかお願いします。

 クク様をどうか、この村から連れ出して頂きたいのです。

 あの方は、こんな場所で過ごしていい方ではないのです。」

「・・・え、それってどういうこと?

 ククさんってめちゃくちゃ高貴な人かなんかなんですか?」

「いえ、それは儂らにも分りませんが・・・。

 そうですな、まずはこの村にクク様が来た時のことを話しましょう」


遡ること、2,3年程前の事

この村は何十人と言う規模の山賊に占拠されるという事件があった

元々砦として使われていたことから安全だと思っていたが、

それは逆に、山賊にとっても押し入って手に入れたいほどの

魅力的な物件だということでもある。

村人達はその数と、武力による脅迫によって追い出され、路頭に迷う。

そんな村人達の前に現れたのが『3人の冒険者』だった。

冒険者達は願いを聞き入れ、山賊を討伐した、その中の1人がククさんである。


「ククさんは元々冒険者だったんですか。

 だからあれほど場慣れしてるというか、なるほど・・・」

「クク様はその後、お仲間の方たちと何やら話し合ってから、

 儂の所に来て、この村に住みたいと仰ったのです。

 そしてこの村に住まわれたクク様は、儂らに様々なことを教えてくれました。

 砦を使った防衛術、武器の使い方や戦い方など、

 2度と賊に襲われない為の術を、あの方から授かりました」


いや、そこまでやってくれる優秀過ぎる人材ならむしろ置いておくべきでは?

しみじみと過去を語る村長には申し訳ないけど私はそう思ったって言うか、

そんな人物を私にどうやって連れ出せと言うのか。


「お仲間とは争って別れた訳ではありません。

 経緯も心情も分かりかねますが、クク様は今も時折、

 冒険者だった頃の自分を懐かしむことがあるのです。

 だからこそ、貴方にお願いしたいのです」

「・・・村長さんの気持ちは分かりました。

 私にできるかは分かりませんが、ククさんと話をしてみようと思います」

「何卒、何卒よろしくお願いします・・・」


村長はこう言うが、ククさんの気持ちが分からないのが問題だ。

報酬は先に貰う訳には行かない、と私は成功報酬ということにし、

その場は失礼することにした。


異変に気付いたのは、村長の家を出てからだった


「ユイさん!不味いことになりましたぞ!」

「トカゲ野郎さん?あの、まさか・・・?」


慌ただしく走り回る村人達を避けるように走って来たトカゲ野郎さんに

私はただただ、嫌な予感よどうか当たらないでくれと願うしかなかった


「あー、まぁ・・・ユイさん、そういう事ですぞ」


私の表情を察し、トカゲ野郎さんはそう答えた

つまり『岩の巨人がやって来たぞ』ということ。

一体どこの誰がどんな業を背負った所為で、

私達がこんな不幸な目に遭わなければならないのか、

この世界に神は居ないのか、いや居るか、普通に居るか。


・・・などと、会った事のないこの世界の神々を巻き込んだ

波乱万丈な我が人生に愚痴を頭の中で吐き出しつつ、

体は真っすぐある場所へ向かっていた


「これは依頼ではなく自己防衛の範囲です。

 鉄髭さんと合流して、ククさん達と一緒に戦いましょう」

「合点承知!」



こうして、私達の『自己防衛の戦い』は突然に始まるのだった





 






 

 

 

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