第4話
「……すみません兄さん義姉さん」
この一幕が終わった後、ジョンは深々と私達に頭を下げた。
「おっしゃる通りです。エド兄さんが長期に渡って国を離れるということで、酷く落ち込んでいたルミエル姉さんの寝室に夜、入っていったんです。でもそもそもはただ、言葉で慰めるだけにしようと思ってました」
「だけどその声で、お前と僕をあれは間違えたんだな」
はい、と義弟は神妙にうなづいた。
「やっと来てくれた、とばかりに寝ていた時の姿で飛びつかれて……」
まだ若かった頃だ。
自制心が吹っ飛んだのだという。
そして何度かそういう暗闇の秘め事は行われたのだと。
結果、ルミエルは妊娠したのだが。
「何で失踪していたんだ?」
「その方が妊娠したことと、子供を堕ろす理由になるかと思ったんですが」
無理でした、と彼は苦笑した。
「ネッドは」
「僕の子ですが、僕の養子として育てます」
「それはまずくないか? お前に似ていすぎるぞ」
「だから、国を離れます」
海を越え、赤道を渡った向こう側の土地で、移民局の官吏が必要とされているのだという。
「そこまで遠くならば、曖昧に親子としておくことができるでしょう。治り次第、連れていきます」
ネッドは――まだ十歳に満たない子供にとって、母親が明らかな殺意を持っていたことをまだ上手く理解できないらしい。
その時間の記憶が飛んでいるとも聞く。
身体の方は幸い、脳震盪と打撲と肩の脱臼程度で済んだ。
記憶が無いなら、遊んでいた時に事故にあったということにしてしまった方がいいレベルかもしれない。
だがそれは、父親になろうとしている男に任せることだ。
一方、母親の方は。
「あれは保養地の方へ送ることにした」
そう義父は憔悴した顔で言った。
「何だってあんなことに……」
義母もハンカチで涙を押さえていた。
どうしたの、と長男の子供達がやってきて泣いている祖母に呼びかけるが、そこは子供の居る場所ではない、とベンジャミンが連れていった。
*
それからというもの。
保養地に行った義妹からは、毎週の様に分厚い手紙が送られてくる。だがそれはもう、そのまま義実家にスライドさせるだけのものだ。いい加減転送先はこちら、としてしまおうかと考えている。
「そうだよな。胎教に悪いよ」
そう。
私は現在結婚して数年目にして、ようやく彼の子供を妊娠しているのだ。
これには今までその類いの話になかなかありつけなかった実家の父母も大喜びだった。
エドは遺跡調査の結果をまとめる作業で大忙しだが、日長家に居てくれるのは嬉しい。
そして今日は、ようやくまとめあがった第一稿を恩師の博士の元に持っていくというのだ。
「じゃ。戸締まりはしっかりしているんだよ。最近物騒だから」
「心配性ね」
そう言いながら、軽くキスをして彼を見送る。鍵を掛ける。
三十分ほどして、チリチリチリ、チリチリと三回・二回で呼び鈴の音がする。彼との合図だ。
何か忘れ物でもしたのかしら。
そして私は扉を開けた。
義妹が夫の子ができたと言ってきましたが、いやそれ無理ですから。 江戸川ばた散歩 @sanpo-edo
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