第12話 終話

「───って感じのことがあってさー」


「すごく流したわね…」



いちごオレを飲む久遠と澪の前に座っているのは莉琉だ

両肘を机に突きながら掌に顎を乗せ、幸せそうな顔でそれを飲む2人はどこからどう見ても双子だ



「じゃあ澪はこっちの住人になるのよね?」


「らしいねー」


「戸籍とか仕事とかは?」


「なんか、夜斗が用意してくれるらしい…です」


「…久遠と同じ見た目の子に敬語使われると違和感あるわね」



莉琉は届いたコーヒーを飲みながらため息をついた



「そういえば向こうにここの系列のカフェができたらしいけど、知ってた?」


「知ってるわ。ここは逆にコーヒーは力を入れないらしいわね」


「あっそうなの?まぁ系列ならそうなるよね」


「いくの?久遠。まだ私パン食べ終わってないけど」


「待つよ待つからそんな捨てられた子猫みたいな目をしないで」



今度は久遠がため息をつく番だった



「…お前らどこにでも現れるよな」


「へ?主?」


「あら、司令官」


「あ、夜斗!」



ワイシャツに黒ズボン、そしてエプロンを装備した夜斗が手にお盆を乗せたまま久遠たちを出迎えた

席に案内されて腰を下ろす3人



「開店セールで10%オフとなっておりまーす」


「…違和感しかないよ、夜斗」


「…どっちかっていうとあいつだろ」



夜斗が指差したのは同じくウェイター姿の紗羅だ

わたわたとお盆を運び、途中で何もないところで転びそうになりながら無事男性たちの元へコーヒーと料理を運ぶ

奥では霊斗と来夏が言い争いながら着々と料理を作り続けていた



「ここって夜斗のお店?」


「いや、霊斗の店。来夏と紗羅はここで働いて、来夏は俺の家に住ませる」


「…妻いるのに?」


「仕方ないだろ、その妻が泊めろってうるさかったんだ。…つーか、来夏も来月から妻だよ」


「「「え?」」」



ため息をつきながらカウンターへ歩み寄り、来夏を呼ぶ

そして連れてきた来夏の左薬指には銀に光る指輪があった



「久遠にも渡しただろ、この指輪。鏡の国の住人をこの世界に馴染ませるためのものだが、来夏がごねにごねて重婚せざるを得なくなったんだよ…。一夫多妻は認可されたしな、俺が如月にいる時に」


「…え?待ってこの指輪ってそんな効果あったの?」


「だから私死ななくなったのかぁ…」


「気づいてなかったんかい。ちなみに、澪と来夏と紗羅は鏡の国と同じ名前で戸籍登録してある。まぁ、そんくらいチョロまかすのは造作もなかったぜ」



夜斗はそんな物騒なことを言いながら笑う

来夏も左手を口元に当てて笑みを浮かべた



「だからね、澪ちゃん。貴女が私を様付けで呼ぶと違和感しかないんです。呼び捨てで、姉のように振る舞ってください?」


「え…?そ、そんなことできないよ。来夏様は来夏様なんだから」


「来夏お姉ちゃん、でしょ?」


「うぅ…。く、久遠…」


「私にはどうしようもできないかな。あ、夜斗。アイスパンケーキとアールグレイ」


「私は…そうね、レモンケーキとアイスミルクティーでいいわ」


「へいへい。霊斗!」


「聞こえるとるわ!」



霊斗の応答を待って夜斗はまたホールの仕事に戻った

そして来夏と澪の押し問答は30分以上続き、折れた澪が来夏を「お姉ちゃん」と呼称するまで終わることはなかった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

桜坂久遠の苦悩─如月さんは知っている外伝─ さむがりなひと @mukyo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る