第5話魔を斬る者
「美羽さん下がってください!!」
「え?」
ぐいっ!
ざくっ!
ユカは言いながら私を引っ張って出てきた野良犬に斬りかかる。
しかし既に体が膨れ上がりその野良犬はあの化け物に変わる。
『ぐろぉっ!!』
「くっ!」
どんっ!
ユカは私を押し飛ばしながらその一撃を刀で受けるけど、体格差があり過ぎる。
「ちょっ! ユカっ!!」
ぼきっ!
ここからでも聞こえる何かが折れる音。
そしてユカは首を変な方向に向けながら大きく垣根まで飛ばされてしまった。
『ぐろぉおおおおぉぉぉぉっ!』
あの化け物は吠えながらユカの飛ばされた方を見てから今度は私を見る。
そしてよだれを垂らしながらこちらに歩み寄る。
「う、うそ…… ユカ……」
押し飛ばされて足をくじいたようだった。
動こうとしてもまともに立てない。
しかしユカが押し飛ばしてくれなかったら二人ともあの化け物に吹き飛ばされていた。
ずしゃっ!
あの化け物が私の前に踏み出して来る。
ガタガタと足が震え、無理やり立ち上がろうとしても足に力が入らないし痛みで思うように動く事すらできない。
「い、いやぁ、来ないでぇ……」
しかしあの化け物は笑うかのようにその咢を開いて私に襲いかかって来る!
もう駄目だ、私も美紀のように食い殺されるんだ!!
「いやぁーっ!!」
「まったく、ここにあったとは意外です。マーヤ、感知出来たのならもっと速く言ってください」
漸っ!!
ごとっ!
聞こえたその声に私は首を切り落とされ倒れ行く化け物の後ろにユカが日本刀を振り終わった姿を見た。
「ユカっ!」
「まさかあなたの中に在ったとは…… もう少し分身が遅れれば危なかった。マーヤ、サポートはここまででいいです。後は私で出来ますので」
そう言いながらユカは私の胸にその手を挿し込む。
ずんっ!!
「えっ!?」
「あなたの中に探索器が在ったとは意外でした。しかしこれで『世界の壁』の隙間を埋められる」
ずぼっ!
「これで私の目的も果たせました」
言いながら私の中からビー玉くらいの七色に輝く水晶球を取り出す。
それが私の見た最後だった。
* * * * *
「君、君、大丈夫か!?」
「……ぇ?」
救急隊員のような人に揺り起こされ私は気が付いた。
見れば警察もいたようで周りには他にも救急隊員がいた。
少しぼうっとする頭で私は起き上がる。
そして思い出し慌てて自分の胸を見る。
「何とも無い?」
「君、意識はしっかりしているのかい?」
救急隊員にそう言われ痛む足を押さえる。
そして周りを見るけど私しかいない。
「ユカは……」
しかしその時既に私は理解していた。
あの探索器が私の中にあってそれが今までの問題を引き起こしていたと言う事を。
ユカはそれを私の中から引き出し役目を終えた。
私はただ痛む足を押さえ涙するしか無かったのだった。
◇ ◇ ◇
あれから私はもうユカを見る事は無かった。
いつもの日常が戻り、今まで何事もなかったような日々が流れる。
私はまたあの歩行者天国であのお饅頭の店を見る。
「ユカ……」
たった数日の事だったけど私の中ではあの事は本当に有った事。
決して幻でも何でもない事実。
家電量販店の裏を通り駅に向かおうとした。
と、そこでお好み焼き専門店「二番」の前で何処かで見た女子高生を見つける。
「良い匂いですね。しかし広島『風』というのが少々気になります。広島のお好み焼きこそがお好み焼きだと言うのに。しかし今は手持ちが……」
私は思わずそんな彼女に駆け寄るのだった。
―― 魔を斬る者 ――
完
魔を斬る者 さいとう みさき @saitoumisaki
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