鈴
私の所属する
冬の始まる十二月、肌寒さを感じる早朝に私は家の玄関扉を開けた。
「おっはよ」トレードマークの桜色のヘアピンを着けた幼馴染みの
一花と私の家は同じ町内にある。だから、一緒に登校することもある。
「おはよう」と応じ、歩き出す。「珍しいね。眠れなかった?」
「そうじゃなくてね」一花は少しだけ恥ずかしそうに笑った。「ゲームをやめるタイミングがなくて、気がついたら朝の五時になってて、そのまま寝ないで今なんよ」
「なるほど」それで早めに学校に行くことにしたのね。
いかにもギャルらしい見た目の割に一花はゲーマーだ。
話を広げるために、「なんのゲームやってたの?」と訊いてみる。
一花の顔が輝いた。そして、今ハマっているらしいRPGの魅力について語り始めた。
一時間目が終わり、トイレに行くと、一花に会った。
「あ。
尿意はあるが、一花が話したそうにしているので我慢する。私は個室に入りながら、つまりは用を足しながらのお喋りはしたくない人なのだ。
「無断で欠席してるってこと?」そうでなければ問題視はしないだろうけど、一応確認。
「そうそう」一花が頷く。
「サボってるだけなんじゃない?」昴の自由奔放な立ち振舞いを思い浮かべ、そう推測してみた。
「昴、ああ見えて結構まじめだから連絡も入れずに休むなんてことは今までなかった」一花は心配そうな表情を浮かべた。「あたしもメッセージ送ってみたけど、返信来ないし、具合悪いのかな……」
まだ昴に未練があるのだろうか。
「考えすぎじゃない?」
「そうかな」と言った一花はすぐに、「そうだよね」と続けた。
しかし、昴は昼休みを過ぎてもすべての授業が終わっても現れることはなかった。
私も、『急に休んでどうしたの?』というメッセージを送ったのだけれど、部活が終わった今も返事はない。
「……」
まぁいいか。
私にデメリットはない。
手早く着替えを済ませ、部室を後にする。
翌日の昼休み、教室で総菜パンを食べていると、「鈴ー、お客さんが来たよ」とクラスメイトに言われた。
油っこいパンをむしゃむしゃと
食べかけのパンを袋に戻し、机に置く。席を立ち、中の下に向かう。「何?」
私は──意図しているわけではないが──冷たい、怖いと言われることがしばしばある。不機嫌そうに見えるらしい。が、実際に不機嫌なことは滅多にない。今回もそう。むしろ退屈していたから丁度よかったとさえ思っている。
「昴のことなんだけど」と中は始めた。「昨日の朝から行方不明なんだ。鈴は何か知らない?」
昨日、昴に送ったメッセージに対する返事は今なお来ていない。
中の口ぶりから判断するに、私だけが無視されているのではなく、全員、連絡がつかないようだ。
「知らない」私は答えた。
「そっか」中は
「さぁ?」と私が言うと、私たちの会話を聞いていたクラスメイトたちが、「冷た」「かわいそ」と呟いた。
しかし、中は私がこういう人間だとよく理解しているので、「うん。分かった。ごはん中にありがとね」と気を悪くした様子もなく言った。
「別にいい」話の終わりが見えてきて、少し残念な気持ちが湧いてくる。「ほかに何かある?」
「ううん」と中は首を振った。「大丈夫」
「そう」
そして、中は自分の教室に帰っていった。
翌日。
三時間目の世界史の授業が行われている私たちの教室に、
村瀬先生はドアを開けるや否や、「すみません。
大航海時代について熱く語っていた菊池先生は、村瀬先生の蒼白な顔が目に入っていないのか、好色めいた表情を浮かべ、けれど、「どうされました?」と気取った口調で訊ねた。
近くに座る女子の、「きっしょ」というささやきが聞こえた。
菊池先生はお腹の出た独身の男性教師で、私たちの身体に粘ついた視線を送ったり、好みの女子生徒を
ちなみに今は村瀬先生の胸が気になるようだ。ちらちらと彼女の胸を見ている。
「生徒の前ではちょっと……」村瀬先生は廊下で話したいようだ。
「おや、もしかして私にもようやく春が来たのかな?」と冗談めかして言った菊池先生は、教室を出てドアを閉めた。
次の瞬間、「うげぇ」「最悪」「あいつ絶対素人童貞だわ」と女子たちが嫌悪に満ちた声を洩らした。
「殺人!?」突然、菊池先生の大声が教室を揺らした。
はぁ? と訝りながらドアの窓に目を向けると、先ほどよりも焦った顔で口元に人差し指を当てる村瀬先生が見えた。
「二組の生徒が殺されてたってどういうことですか?!」やはり菊池先生は村瀬先生の気持ちを汲み取ることはできないようだった。
教室が騒然となっていく。
二組は中たちの、つまりは昴のクラスだ。
まさかね、と思う一方で、連絡が取れないのはそういうことだったのか、と納得する自分もいる。
すなわち、昴は殺された。おそらく正解だろう。
案の定、昴は殺されていた。授業は急遽中止になり、警察の指示で私たちは教室で待機することになった。
現場検証だか実況見分だかの初動捜査が一段落するまではじっとしていろということらしい。
特にやることもないから、私は足と腕を組み、目をつぶっていた。
すると、スマートフォンが震えた。メッセージが来たようだ。
『昴は三日前の部活には参加していた。八時半ごろに部活が終わってからどうしたのかは誰も知らない』
彼女には、『最後に昴を見たのはいつ? あなただけじゃなくて野球部の人やクラスメイトの証言も集めてほしい』とお願いしていた。クラスも部活も違う私では情報を集めづらい。だから、瑠衣に頼んでいたのだ。
『分かった。ありがとう』と返信し、スマートフォンを机に置く。
目撃情報から考えると、昴の死亡推定時刻は三日前──十二月五日(月曜日)──の夜八時半から登校時間である翌朝の八時ごろの間ということになりそうだ。
さて、次は現場の状況を知りたい。
教室の隅にある教員用の大きな机に座る担任の村瀬先生を見る。憔悴したような、不安そうな顔で黙している。
村瀬先生は比較的まじめな人間だ。警察から情報の一部について箝口令が敷かれていた場合、それを洩らすことはないだろう。一応、訊いてはみるつもりだが、期待はできない。
となると、ターゲットは……。
何はともあれ、教室での軟禁を解除してもらわないことには話にならない。
今は待つしかない。
結局、教室から解放されたのは午後の三時を過ぎたころだった。当然、すべての部活は例外なく休みになった。
速やかにまっすぐ帰るように、と村瀬先生に言われたが、無視して二年三組の教室を訪ねた。
帰ろうとしている先輩方から奇異の目を向けられる。一年生が二年生の教室に来ること自体珍しいのに、こんな時に来るとはどういうことだ? とでも思っているのだろう。
どうでもいいことだ。気にせずに、「失礼します」と述べ、教室に足を踏み入れる。
「おやおや」二年三組の担任である菊池先生が嬉しそうに口元を綻ばせた。「鈴さんじゃないですか。わざわざこんなところまでどうしました?」菊池先生の観察するような視線が私の顔と胸を往復する。
彼が私の乳房を舐め回す様を想像してしまい、悪寒が走ったが、表情には出さないように努める。
自慢ではないが、私の顔は非常に整っている。今まで生きてきて、「美人」「可愛い」と言われた回数は数えきれないし、告白された回数も同年代の女子の平均を大きく上回っていると思う。言い換えれば、多くの男にとって私の顔は大変好ましく見えるということで、それは菊池先生も例外ではない。私も彼の依怙贔屓リストに載っているのだ。
菊池先生の下まで早足で行き、「お忙しいところすみません。相談がありまして、少しお時間を頂けないでしょうか?」と上目遣いを織り交ぜつつ言う。
「おお!」と菊池先生は喜んだような声を上げた。「もちろんいいですよ」
「はい。ありがとうございます。それで、できればほかの人に聞かれない場所で話したいのですが……」
「おお?!」とまた気色の悪い声を発した。「『二人きりで話したい』と、そういうことですな?」
「……はい」
「分かりました。本当は今日はやめておかなきゃならないのですが、ほかならぬ鈴さんの頼みですからね。特別ですよ」
「ありがとうございます」
「では、生徒指導室に行きましょう。あそこならば鈴さんもきっと満足できます」
そう言って菊池先生は教室の戸に向かって歩き出した。わたしも後に続く。
先輩方の珍獣を見るような目がおかしくて、鼻で笑ってしまった。
生徒指導室の机に着くと、私はすぐに口を開いた。「
この要求は菊池先生の期待していたものではなかったようで、「へぁ?」と奇妙な鳴き声を発し、「遺体発見時?」とオウム返しをした。
「はい。場所は野球部の旧部室だと聞いています。それは本当ですか?」
昔の運動部の部室はグラウンドの端にある。旧部室は今も取り壊されずに残されていて、折れたトンボやバット、ボロボロになって使わなくなったボールなどが仕舞われている。要するに、ゴミ置き場と化しているということだ。
「あ、ああ」菊池先生は頷いた。「だが、それがなんだというのです? 鈴さんには関係ないでしょう? ──は!」まさか、と私の顔をまじまじと見る。「あなたが犯人なんですか?! それで、僕の愛人になることと引き換えに隠蔽工作を手伝わせようとしている……」菊池先生は、ごくりと唾を飲み込んだ。
「違います。友人を殺した犯人を私自身の手で捕まえたいだけです」
「なんだ」菊池先生はがっかりした顔を見せた。「どうせそんなことだろうと思ってましたよ」そして、はぁ、と恨みがましささえ窺わせるため息をついた。
「菊池先生に迷惑は掛けません。教えていただけませんか?」
「うーむ……」菊池先生は腕を組んで唸った。「仕方ないですね」
「ありがとうございま──」
「ただし! 条件があります!」菊池先生は、にぃ、と唇を曲げた。
嫌な予感しかしない。
早く言え、と目で促すと、菊池先生はウキウキとした様子で口を開いた。「鈴さんのブラジャーを下さい」
「は?」
「あ、もちろん今着けてるやつですよ?」
「……」絶句してしまう。
曲がりなりにも教師をしている人間の言っていい台詞だろうか?
「鈴さん」菊池先生は優しげな口調で諭すように言う。「教師としてあなたのためを思って言いますが、世の中は甘くないのです。何かを得ようと思ったらそれ相応の代償が必要です。鈴さんは僕のことを変態クソデブキモ童貞だと思っているかもしれませんが、それは誤解です」
「じゃあ、下着はあげなくてもいいですよね?」
「結論を急いではいけません」菊池先生はピシャリと言った。「僕は鈴さんに世の中の厳しさを学んでほしいのです。だから、恥を忍んで、心を鬼にして変態的な条件を提示したのです」
「……菊池先生」
「分かっていただけましたか?」
「クソみたいな屁理屈をこねないで素直に土下座したら条件を飲んでもいいですよ」
菊池先生は、すくっと立ち上がり、機敏な動きで膝を突き、床に額を付けた。「ブラジャーとパンツを下さい。お願いします」
「……」
なんと醜い生き物だろうか。これが私と同じ種だとは考えたくない。
私が言葉を失っていると、「あ、あれ? 鈴さん?」と菊池先生は顔を上げて不安そうな上目遣いで私の顔を窺った。
「勝手に顔を上げないでください」
「は、はいっ。すみませんっ」どことなく楽しそうなのが非常に腹立たしい。
「今後は私の言うことに従ってもらいます。いいですね?」
「もちろんですっ!」
「もし私に不利益をもたらすようなことがあれば、『菊池先生に強姦されて下着を奪われた』と校長に言いますからね?」
「わ、分かりました!」
「それから、パンツはあげません。最初に提示したのはブラジャーだけでしたし、文句はないですよね?」
「……」菊池先生は口をつぐんでしまった。
先ほどまでの従順さはどこへ行ってしまったのだろうか。
「返事は?」
「はい……」菊池先生はしょんぼりと答えた。
今日の午前十一時ごろに体育教師の
片引き戸が壊れているのかもしれないと思い、スライドさせるのではなく、正面から押すように力を込めた。すると、片引き戸はレールから外れ、中の様子が目に飛び込んできた。
室内には制服姿で血溜まりにうつ伏せに倒れ伏す一人の生徒がいた。
仰天した青木先生は職員室に駆け込み、事情を説明。確認のために今度は数人で旧部室を訪れた。
幾分か冷静になった青木先生が室内を観察すると、片引き戸のレール上にノック用のバットを発見した。戸が開かなかったのはノック用のバットが
倒れた生徒は、触れずに目視で確認したところ、首に傷を負っており、制服の背中部分にも穴が空いていた。つまり、現場に凶器は残されていなかったものの、その箇所を刃物で刺された可能性が高いということだ。また、血液は乾燥しており、ある程度の時間が経っているように見えたそうだ。
ブラジャーを手に入れた菊池先生は
「だいたい分かりました」私は頷いた。
「それはよかった。じゃあ、そろそろいいかな? 僕はこれからやらなければいけないことがあるんだ」菊池先生はそう言って私のブラジャーを顔に当て、味わうように大きく息を吸い込んだ。
もはや完全に開き直っている。自分に直接的な害がないことには寛容な私でなければ、第二の玲瓏高校殺人事件が起きてしまってもおかしくはない変態的な行動だ。
「私も一秒でも早く菊池先生から離れたいんですが、質問があります」うっとりと恍惚の表情を滴らせる菊池先生に軽蔑の視線を送りつつ言う。「旧部室の中には争ったような形跡はありましたか?」
「うん? 例えば?」
「物が散乱していたとか衣服が乱れていたとか」
「あそこは元々ごちゃごちゃしているから物に関してはなんとも言えませんが、衣服は乱れていなかったようですよ」
「なるほど」予想どおりだ。続いて、「ほかに何か気がついたことはありますか? 不自然に感じたこととか」と問う。
「そんなこと言われても分かりませんよ。僕は教師であって刑事じゃあないんでね」高校生のブラジャーを頭に被っている姿を見るに、もはや教師ですらないと思う。
訊きたいことはすべて訊けた。菊池先生にはもう用はないので、「分かりました。もう行っていいですよ」と告げる。
しかし、菊池先生はすぐには席を立たずにブラジャーのタグを見ながらしみじみと言った。「それにしても、鈴さんってこんなに小さかったんですね。致命的な欠点があって、なんだか親近感が湧きますよ」
「……」
ぶち殺してやろうか?
生徒指導室を後にした私は、瑠衣に電話を掛けた。
急に掛けてしまったが、彼女はすぐに出てくれた。『どうしたの』
「話を聞きたいから、今から家に行っていい?」
『いい』
と言われたので瑠衣の家を訪れた。瑠衣の部屋に通され、クッションに座る。
瑠衣は沈んでいる。心中穏やかではいられないのは容易に想像がつく。
「訊きたいことっていうのは、五日の夜八時半以降の一花のアリバイのことよ」
「……」瑠衣の瞳が揺れた。
私は、一花が五日の夜に昴を殺したのではないかと疑っている。瑠衣の反応を見るに、彼女も同じ考えなのではないだろうか。
瑠衣は、「知らない」と答えた。「その時に一花が何をしていたかは分からない」
瑠衣の言い方や表情を観察しているが、嘘をついているようには見えない。悲しみと動揺が彼女を支配しているように感じる。
「分かった。ありがと」
次は中に話を聞く。
「五日の夜から六日の朝までの一花の行動は分からないよ」中は眉間に皺を作りながらそう言った。
「そうよね」
「ねぇ、鈴」中は探るような視線を投げかけてきた。「鈴は一花を疑ってるの?」
「念のためだよ」
「……やめようよ」中は絞り出すように言う。「一花がそんなことするわけない。きっと鈴の勘違いだよ」
「それは本心からの言葉?」
「……そうだよ」中は眉間の皺を深くさせた。
「そう」受け流すように応え、「参考にしておく」と続けた。
しかし、翌朝のテレビニュースは、四日前──五日の夜に一花が昴を殺したという私の推理に反する事実を伝えていた。
『玲瓏高校の天馬昴さんが殺害された事件についてです』清潔感を演出することに生き甲斐を感じていそうな男性アナウンサーが言う。『警察関係者の話によると、十二月六日の早朝五時過ぎ、天馬さんが日課のランニングをしている姿が目撃されていたそうです。六日から天馬さんと連絡がつかなかったこと、目撃証言及び遺体の状態から六日の早朝五時以降夕方五時までの間に殺害されたと見て捜査を進めているようです』
今日は臨時休校だ。ということは朝練もないわけで、したがって朝食は母さんと一緒に食べている。
母さんが口を開く。「この子、前、うちに来たことがあったわよねぇ?」
この子とは昴のことだ。以前、瑠衣と一緒に家に来たことがある。
「あったね」私は頷いた。
「せっかくお友達になれたのに残念ねぇ」呟くように言った母さんは食パンにかじりついた。
「そうだね」残念だよ、と一応口にしつつ思考を進める。
六日の早朝五時過ぎに昴がランニングをしていたのなら、一花が五日の夜に昴を殺害したとするのは間違いということになる。
また、一花は六日の朝六時二十分には私と一緒に登校していた。仮に一花が犯人だとすると、早朝五時からの一時間二十分の間に旧部室で昴を殺して自宅に戻り、殺人の後始末をしたか、もしくは、登校後夕方五時までの間に昴を旧部室に呼び出して殺したということになる。
いずれも無理があるように思う。
早朝殺害パターンは、その時間に昴と二人で学校にいるという状況がそもそも想定しづらいし、学校に入れるかも怪しい。なんらかの警備システムに引っかかる可能性すらあると思う。
登校後殺害パターンも同じく不自然すぎる。昴と連絡がつかなくなったのが、六日の朝から。生きていたのなら連絡の取れなかった理由が不明瞭だし、連絡はしないのに学校の旧部室には秘かに来ていたというのもおかしい。
ただ、抵抗した形跡がなかったことから、顔見知りが昴を旧部室に呼び出して不意打ち的に刺し殺したと考えるのが自然ではあると思う。
だから、昴の顔見知りで動機があり、かつ六日にやや不自然な行動をしていた一花が最も疑わしいと思ったのだが、もしかしたら違うのだろうか。
「……」熱いコーヒーを口に運ぶ。
ここまでの考察は、警察が推定したとされる死亡時刻が真であると仮定した場合のものだ。
私は、報道された死亡推定時刻は間違っていると考えている。私の推理が正しかったとしたら、すべての事実に合理的な説明ができるからだ。
しかし、確信に至るには情報が足りない。集めなければ……。
午前十時ごろ、私は自転車を漕いでいた。昴の家に向かっているのだ。
空は高く、風は乾燥している。寒いが、天気は悪くないので比較的過ごしやすいと言っても差し支えないだろう。
昴の家には十五分ほどで到着した。自転車を停め、古めかしい家の玄関チャイムを鳴らす。
程なくして玄関扉が開けられた──昴の祖母が生気のない顔で現れた。
「突然お伺いしてしまい、申し訳ありません」あらかじめ電話で独自の調査のために訪問する旨伝えていたが、心証を良くするためにも丁寧に非礼を詫びておく。「このたびは御愁傷様です。心よりお悔やみ申し上げます」
「……ありがとね」昴の祖母は儚げに微笑んだ。「上がってちょうだい」
「はい。失礼します」
今日、ここを訪れたのは、幾つかの質問をするためだ。
応接室らしき部屋に案内された。ソファが四つあり、そのうちの一つには昴の祖父が座っていた。
先ほどしたのと同じように、死を悲しみ、同情する言葉を口にする。
昴の祖父は、「痛み入ります」と言ってから手で向かいのソファを示し、座るように促した。
私が腰を下ろすと昴の祖母も座った。
「それで、訊きたいことというのは?」昴の祖父は単刀直入に訊ねた。
「はい。まず一つ目は、昴さんを最後に見たのはいつなのか、ということです」
「……本当に警察みたいだな」昴の祖父は感心半分、呆れ半分という様子で言った。「刑事にも話したが、五日の朝、学校に行く前に見たのが最後だ」
「では、昴さんから最後に連絡があったのはいつですか?」
これには昴の祖母が答えた。「五日の夜九時前に昴から私のスマートフォンにメッセージがあったわ」
「それを見せていただくことは可能ですか?」
「ええ。構いませんよ」ちょっと待ってて、と言って、昴の祖母は応接室を出た。少ししてスマートフォンを持って戻ってきた。「これよ」
スマートフォンには、『今日は友達の家に泊まって、明日はそのまま学校に行く』というメッセージが表示されていた。時刻は二十時五十分とある。
また、それに対する昴の祖母の返信は、『瑠衣ちゃんの所? あまり迷惑掛けないようにね』だ。
「昴さんはご自宅の鍵は持っていたのですか?」
「ええ。持っていたわ」でも、と昴の祖母は怪訝そうな表情を浮かべる。「刑事さんが言うには、昴は鍵を持っていなかったみたいで、今もまだ見つかっていないそうよ」
「なるほど。分かりました」
昴の祖母はスマートフォンをテーブルに置いた。
私は続ける。「次の質問です。五日の夜八時半から翌朝五時までの間に何か変わったことはなかったですか?」
「変わったこと?」昴の祖父が聞き返した。
「はい。例えば、深夜に不審な物音を聞いたりとか」
「そう言われても夜は寝てたからなぁ」昴の祖父は、自身の妻に顔を向けた。「なんかあったか?」
昴の祖母は首を振った。「分からないわ」
「分かりました。大丈夫です」私は冷静な声色で言った。
大丈夫。充分だ。ありがとう。
昴の家を後にした私は、玲瓏高校から北北西に伸びる川の土手道を、自転車を押して歩いていた。
次のターゲットはシベリアンハスキーの飼い主だ。
以前、昴は、「俺、毎朝、川の土手道をランニングしてんだけど、散歩してるシベリアンハスキーに毎回吠えられんだよ。それで、なんとなく苦手なんだよ、あの強面ヤクザ顔」と言っていた。
テレビニュースで報道されていた目撃者はこの犬の飼い主ではないだろうか、と思ったのだ。
この事件、六日の早朝五時過ぎの昴の目撃証言が最も重要な要素だと私は考えている。だから、飼い主と直接話したいのだ。
とはいえ、川沿いの住宅街を回るだけで都合良く見つかってくれるかは分からない。最悪、昴のランニングと同じ時間にこの土手道で待ち伏せる必要があるかもしれない。
というのは杞憂に終わった。大きな犬小屋のある住宅があったから立ち止まると、凛々しい顔のシベリアンハスキーが犬小屋から出てきて、「なんの用だ?」という視線を寄越してきたのだ。
私は臆することなくインターフォンを押した。
いきなり知らない女子高生が訪ねてきたら普通は不審に思うかもしれないが、そう思われたとしても大した実害はないので気にはならない。
『はい』インターフォンが中年女性の声を発した。
「突然の訪問申し訳ありません。私、玲瓏高校の
『玲瓏高校……』察したのか、インターフォンは噛みしめるように呟いた。
「はい。殺害された友人の無念を晴らすために事件の調査をしています。お話を聞かせていただけないでしょうか?」
『……少々お待ちください』ややためらいがちに言った。
少しして玄関扉が開き、眼鏡を掛けたふくよかな中年女性が出てきた。
「お忙しい中、お時間を割いていただき、ありがとうございます」先手を打つように頭を下げる。
「いえ」眼鏡の女性は言う。「そんなに
「ありがとうございます」私はハキハキと続ける。「早速ですが、質問させていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ。何を答えればいいのかしら?」
「六日の被害者の目撃情報を集めているのですが」私はスマートフォンを取り出して昴の画像を見せた。「この人物について何か知りませんか?」
眼鏡の女性は訝るような表情を浮かべた。「……あなた、私が早朝にこの子を見たのを知っててここに来たんじゃないの?」
「被害者の昴から『シベリアンハスキーと毎朝すれ違う』という趣旨の話は聞いていたので、テレビニュースで言っていた目撃者のご自宅かもしれないと推測はしていましたが、確信まではしていませんでした」
「ああ、そういうこと」眼鏡の女性は納得の表情を見せた。
はい、と頷いてから質問に戻る。「目撃したのは六日の何時ごろでしょうか?」
「朝の五時十分くらいだったわ」
「場所はあの土手道ですか?」と川のほうを指差す。
「ええ。そうよ」
「被害者の昴とは会話をしたことはありますか?」
「ほとんどないわね。挨拶くらいはしていたけれど、結構なハイペースで走っていたし、話しかけるタイミングはなかったわ」
「では、六日の、ランニングをしている昴の服装はどのようなものでしたか?」
「黄色いウィンドブレイカーに半ズボンとタイツだったわね」眼鏡の女性はすらすらと答えた。
「顔は見ましたか?」
「帽子を被っていたし、ネックウォーマーで鼻まで覆っていたからちゃんと見たわけじゃないわ」
「それでは、どうやってそれが昴だと判断したのですか?」
「え? それは分かるでしょう?」眼鏡の女性はきょとんとした。「目元だとか背格好から判断はつくわよ。あの子、かなり背が高くてスタイルもいいから流石に間違えないわ」それから、「いつものウィンドブレイカーを着てたしね」と言い足した。
「なるほど」と頷いてから、ところで、と犬小屋に視線をやる。「あのワンちゃんは六日にも昴に吠えていましたか?」
「それはもちろ……」言葉を止めた眼鏡の女性は、眼球を左上に向けて思案顔になった。「どうだったかしら? いつもは吠えるんだけど、あの日は静かだったような気もするわ」でも、と置き、続ける。「はっきりとは憶えていないわ。ごめんなさい」
予想どおりだ。口角が吊り上がりそうになるが、
「私は役に立てたかしら?」
「はい。とても助かりました。ご協力ありがとうございました」
「どういたしまして」眼鏡の女性はそう言ってから、「頑張ってね」と口にした。
「はい。ありがとうございます」
本当にありがとう。
幼馴染みの話をしよう。
私には一人又は三人の幼馴染みがいる。戸籍上の名前は
一花は普通ではない。解離性同一性障害、簡単に言うと多重人格なのだ。
一花の中には人格が三人分ある。すなわち、ゲームと派手なメイクが好きな一花、食いしん坊でおっとりした瑠衣、内気で内罰的な中の三人だ。
彼女たちの人格相互の関係には一定のルールがある。
ルール①〈肉体を操作する人格の交代は、原則として一定時間連続で睡眠を取ることを契機に一花→中→瑠衣の順番で行われる。また、肉体を操作している人格以外は原則として睡眠状態になる〉
つまり、基本的には一日ごとに人格が交代するということだ。学校にはカミングアウト済みで、桜色のヘアピンをしていたら一花、水色のヘアピンをしていたら瑠衣、何もつけないか後ろで縛っていたら中というふうに周りからも肉体操作人格が分かるようにしている。
ルール②〈ルール①にかかわらず、人格間で人格交代の同意があれば肉体を操作する人格を交代することができる〉
中は、試合の時に一花か瑠衣が肉体を操作する順番だった場合、彼女たちに頼んで肉体の操作権を譲ってもらっているそうだ。
ルール③〈肉体を操作する人格が、ほかの人格とコミュニケーションを取りたい場合は呼びかける。それに応えて目を覚ましてくれれば、心の中でほかの人格と会話をすることができる〉
ただ、眠っているのに起こされるのはあまりいい気分はしないらしく、あらかじめ起こされることに同意していた場合以外は、肉体を操作する人格が呼びかけることは少ないそうだ。
ルール④〈肉体を操作する人格と五感の共有についての同意があれば、肉体を操作する人格以外の覚醒中の人格も肉体が感知したものを感知できる〉
肉体の操作人格は必ず一つであるが、視覚や聴覚などの共有は可能ということだ。
これらのルールと判明している事実から導かれる真実は一つしかない。
だから、一花と会って話がしたい。
今日──十二月九日(金曜日)──は順当にいっていれば一花の日だ。今日はファミリーホームのバイトはないはずだから、急に電話を掛けてもおそらく出てくれるだろう。
私は一花に電話を掛けようとスマートフォンを取り出した。
『やることがなくて暇だから、こもれびに来てるんだよね。だから、夜まで待って。九時には帰ってるから』
一花に電話でそう言われたので夜に彼女の家を訪れると、彼女はいつもと変わらぬ笑顔で私を迎え入れた。
二階にある一花の部屋に入り、ドアを閉める。
「いやー、疲れたよ」一花はおどけるように言った。「チビッ子たちのテンションについていくのしんどいわー」年かねぇ、と笑う。
「一花」私は平静な声音で呼びかけた。
一花が私の目を見つめた。「なぁに?」
「昴を殺したのはあなたでしょう?」
「……何言ってんの?」一花は怒ったように声を尖らせた。
しかし、構わずに続ける。「昴の殺害を計画したあなたは、下準備として五日より前に心張り棒に丁度いい長さのノック用バットを旧部室に持ち込んでおき、更に旧部室の鍵を掛けないまま鍵を返却した」
旧部室を訪れる人はそう多くはないし、犯行前の時点で施錠していないことに気づかれてもデメリットはない。鍵を忘れていた、と言えばいいだけだからだ。
「ちょっと、いきなり何?」一花は困惑しているように見えなくもない。
「五日の部活が終わった夜八時半過ぎ、いつも最後に着替えをしている昴を旧部室に誘った」
昴と中はほかの部員たちが使い終わった後に部室を使っている。
つまり、部員たちから目撃されるリスクはかなり抑えられるということだ。
「……」一花は口を閉ざした。
「そして、不意を突く形で昴を刺殺。昴のスマートフォンを使って、彼の祖母に『今日は友達の家に泊まって、明日はそのまま学校に行く』という嘘のメッセージを送った。その後、開けた状態の片引き戸の、室内側のレールにノック用バットを立て掛けるようにセットし、昴の自宅の鍵を持って旧部室を出て片引き戸を閉める。ノック用バットが上手くはまってストッパーになっていることを確認した後、何食わぬ顔で高校を後にする」
心張り棒を使ったのは、遺体の発見を遅らせて死亡推定時刻を曖昧にするためだろう。
唇を舐めてから再び口を開く。「凶器を川に捨てるなりどこかに埋めるなりして処理してから、昴のランニングウェアを入手するために深夜のうちに昴の家に向かった。盗んだ鍵を使って昴の家に侵入してランニングウェアを入手した後は自宅に戻り、昴が日課としてランニングをしていた時間になるのを眠らずに待った。時間になったら盗んだランニングウェアに着替えて昴に変装し、彼がいつも走っているコースを走って、あえて目撃される」六日の早朝五時過ぎごろに昴は生きていたと誤認させるためだ。そして、六日の朝六時二十分に私と共に学校に向かうことで、一花が昴を殺すのは無理があると思わせられる。「変装によるアリバイ工作なんて古風なことをするね」
「……ふふ」ややあってから一花が自嘲するように微笑んだ。「あーあ、バレちゃったかぁ。あたしと昴のスタイルってほとんど同じだからイケると思ったんだけどなぁ」
昴は、身体は女、精神は男の性同一性障害だ。二人とも百七十センチを越える、女子にしては高い身長の無駄な贅肉のない身体にEカップの大きな胸をぶら下げていて、体つきはかなり似ている。昴と中は玲瓏高校女子硬式野球部の巨乳投手コンビとして一部では有名だったらしい。
「一応、訊くけれど、動機は何?」答えは予測しつつも、私は訊ねた。
一花の瞳が電灯の光を反射する。「自分以外の人間が、自分の身体を使って自分の好きな人といちゃいちゃするとこを想像してみて。最悪じゃない? あたしはそれを間近で見続けなきゃいけなかったんだよ? 死にたくなるでしょ? スマホを見れば昴との長い通話履歴が残ってるし、たまに『少し瑠衣に代わってくれ』って頼まれるしさぁ……」一花は大きなため息をついた。そして、「だから殺した」と夜の砂漠を思わせる、冷たく乾燥した声音で言った。
「そう」私は小さく応えた。
「あたし、どうなるのかなぁ」一花は独り言のように言った。
「警察もバカじゃない。六日の目撃情報が証拠として弱いことには気づいているはず。そうであるならば、昴の祖母に送られたメッセージが犯人によるものだと疑っているでしょうね。つまり、メッセージを送った時間である五日の二十時五十分ごろが本当の犯行時刻だと考えているということ」
警察がメディアに洩らした死亡推定時刻と捜査方針は、実際の捜査を隠すためのミスリードを演出するためだろう。犯人を油断させて捜査しやすくし、また、自殺などの早まった行動を取らせないようにしたいのだと推測できる。
更に畳み掛ける。「決定的な証拠がなければ起訴はされないかもしれないけれど、昴を殺す動機があって、かつ昴に変装できる一花のことは徹底的に調べるでしょうね。例えば新たな目撃者が現れれば高確率で逮捕される。そうしたら自白させようと容赦のない取り調べが行われる」
一花は眉間に皺を寄せて泣きそうな顔になった。不安そうに瞳を揺らしている。
順調だ。思いどおりになっていて笑ってしまいそうだ。次のカードを切ろうと口を開きかけた時、「鈴」と名前を呼ばれた。暗い声だった。
「何?」
「……けてよ」声が小さすぎてほとんど聞き取れなかった。けれど、次は聞こえた。「大智の時みたいに助けてよ!」
「!」私は目を見開いた。
気づいていたのか。
「大智を殺したの、鈴なんでしょ? あたしが健太たちのおもちゃにならなくて済むように殺してくれたんでしょ?」一花は、床のクッションに座る私ににじり寄り、私の腕を掴んだ、痛みを感じるくらい強く。「あの日、大智と一緒にいたっていう同年代の男の子は、
「……」
そのとおりだ。
双子の兄である弦と私は、小学五年生のころはほとんど同じ身長だった。私は、性差が成人ほどでないことを利用して捜査を撹乱することを思いついた。
それが、兄の服と自転車を使った男装だ。当時は髪が短かったことも都合が良かった。
昼間ならば難しいかもしれないが、夜ならば騙せるだろうと判断した私は行動に移した。
廃業したパチンコ店に大智を誘い出すのには、自分の顔が非常に整っていること──小学生のころの私は今以上にモテていて、大智も私のことを憎からず思っていた──を利用した。
私から誘われたことを誰かに言われたら困るから、塾から帰る大智を尾行し、彼が横断歩道で停まったところで偶然を装って接触して、「お化けが出るっていう噂を確かめたいけど一人じゃ怖いから、一緒に来てほしい」とお願いしたのだ。驚いてはいたが、すぐに承諾してくれた。
そして、鋭く研いだハサミで大智を刺し殺した。心臓だけでなくぺニスも刺したのは牽制のためだ。性的な怨みによる犯行であることを匂わせることで、一花に手出ししにくくさせたかったのだ。
「いつから私が犯人だと思っていたの?」私は問うた。
「気づいたのは最近。事件の後、鈴のハサミが別のやつに替わってたのを思い出して、もしかして鈴がハサミで殺してくれたんじゃないか、って思った」
私はあることに気がついた。私の起こした事件と一花の起こした事件が似ているのだ。変装を用いたトリックと刺殺という点が共通している。
まさか、という思いで一花の瞳を見ると、彼女のそれは狂気に濡れていた。てらてらと妖しい光をたたえている。一花ははにかむように顔を歪めた。「鈴のやり方を参考にしたの」
「……」身体の芯が熱を帯びていく。
「……ねぇ、鈴」一花は声を落として言う。「助けて。あたし捕まりたくない。あたし悪いことなんて何もしてない。悪いのは全部昴だよ」ねぇ、鈴、鈴、と私の腕を揺する。「鈴ならなんとかできるでしょう」ねぇ、鈴、助けて、と私の腕を握る力を強める。
「痛い。放して」
「あ、ごめん」一花は怯えたような、ある種の卑屈さを孕んだ表情を浮かべた。
私に嫌われるのを恐れているのだろう。なんて愛おしいのだろうか。
堪らず、一花を抱きしめる。
「え……」一花の困惑した声が私の耳に触れた。
「いいよ」一花の耳に唇を寄せ、ささやく。「五日の二十時五十分には一花は私と一緒にいたって嘘をついてあげる。そうすればあなたにはアリバイができる」
私の腕の中で一花が
「でも、これからはあなたは私だけのもの。それが条件」
元々、私はアリバイ工作を提案するつもりだった。なぜなら一花が欲しいから。一花だけじゃない。瑠衣も中も支配したい。
昔からおもしろいと思っていた。一人分の身体の中に三人分の人格があるなんて、こんなに興味深いことはない。私だけのおもちゃにしたかった。依存させ、支配したかった。
けれど、一花たちは──自覚はないかもしれないが──私に対して壁を作っていた。彼女たちが心の底から信用しているのは自分自身であるほかの人格たちだけだったのだ。
どれほど優しくしても彼女たちは私にすべてを委ねてはくれなかった。
だから、一花が昴を殺したと気づいた時は興奮した。共犯者になれば、何ものにも代えがたい強固な絆が得られると思ったのだ。上手くやれば、弱みにつけ込む形で一花たちを奴隷化できるかもしれない。
私は歓喜し、感謝した。よくぞ昴を殺してくれた、と。
膣がじゅくじゅくと体液を分泌している。
抱きしめた一花の肉体が熱い。呼吸のたびに彼女の身体が僅かに波打つ。
「一花」私は言う。「答えを聞かせて」
数秒の後、一花は口を開いた。「──分かった。それでもいい」
ありがとう、一花。
大好きだよ、瑠衣。
安心して、中。
私はあなたたちを愛してる。
だから、もっとその狂った心を見せて。
だから、私だけを愛して。
ねぇ、愛して。
愛して。
(了)
ロベリア 虫野律(むしのりつ) @picosukemaru
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