第10話 初陣 聖地で待つ者

 俺は川辺へ移動し、魔猿の食べ残していた鳥のもも肉を食べながら魔猿の皮を剥いでいく。


 こうして改めて見ると、見た目こそ幻獣なものの形は大柄な人間のそれであった。肉を部位別に切り分けていく。魔猿の肉は鳥のものよりも、一層匂いがきつかった。


「水につけても匂いはマシにならないだろうな……。しかしこのまま食うにはさすがにキツい……」


 そういえば島の東部は炎が逆巻いていた。もしかしたらそこで肉が焼けるかもしれない。それに火のある所では幻獣も近づかないのではないか。


「……行ってみるか」


 まだ俺はこの島について何も理解できていない。島から脱出する手段を考えていくためにも、できるだけ探索の範囲は広げた方がいいだろう。もしかしたら何か役立つ物も手に入るかもしれない。


 方針を固めた俺は、ボロボロになっていた衣服を脱ぎ、切り裂いて一枚の布にする。そこに魔猿の肉や鳥の爪などを包んだ。


 俺自身は剥いだばかりの魔猿の毛皮を纏う。獣臭は酷いし、肌に触れる感触も気持ち悪いが、贅沢は言っていられない。少なくとも今着ていた服よりも頑丈なはずだ。今は生き残るために、できる事は何でもやる。


 俺は周辺に生える蔦などを利用し、毛皮に鳥の爪やくちばしを固定した。準備完了。ここからはなるべく足音を立てずに東へ向かう。


「それにしても神徹刀を家から持って来ておいて本当に良かった。並の刀だったら今頃使い物になっていないところだ」


 滅多な事では刃こぼれせず、折れない神秘の刀。霊力が無い上に、そもそも本来の使い手でもない俺にはその力を引き出す事はできないが、手入れが不要というのが何よりありがたい。幼い頃は近衛になり、皇族より神徹刀を賜る事が夢の一つだった。


「……よそう。もう戻ってこない過去の事だ」


 意識が皇国に向きそうになるのを無理やり止める。数時間も歩いた頃、俺の眼前には炎が巻き起こる平野が広がっていた。


「これは……どうなっているんだ……!?」


 草木の生えない灼熱の地。よく見ると常に炎が噴き出している所もあれば、時折炎が舞い上がる所もある。いずれにせよ生身では通れない地だった。


「まぁいい。目的はこいつだ」


 俺は布袋から魔猿の肉を取り出すと刀に刺し、そのまま炎の近くに寄ると熱で炙る。


「あっつ!」


 なるべく炎の勢いが弱い所を選んだが、それでも偶に押し寄せる火柱に身体が軽く焼かれた。だが苦労したかいもあり、俺の鼻は香ばしく焼ける肉の匂いを捉え始める。いい具合に焼けたところで一口かじりつく。


「こ、これは……!」


 うまい。塩もタレも何もない、純粋な肉の味。肉自体もとても固い。それがこんなにも美味しく感じるとは……! 


 たまらず俺は次々に肉を食べていった。腹が膨れたところで残りの肉も焼き、布袋にしまう。残りは後に取っておく。


「また肉が手に入ったらここに焼きにこよう。……となると、なるべく森と炎の大地の中間くらいを活動拠点にした方がいいか」


 そうと決まったら一旦森に引き返そう。どこかに水辺があれば良いんだが。そうして森に入ってしばらく経った頃だった。俺は自分の身体に不調を感じ始める。


「…………っ!?」


 僅かではあるが、全身に痺れを感じるのだ。この島で起こる異常事態において「気のせい」と捨て置く事はできない。必ず何か原因がある。


 一瞬肉に毒でもあったかとも思うが、その懸念は光る粒子が右目に映った時に消えた。薄暗くて気づかなかったが、森に差し込む太陽の光。その中にキラキラと光る粒子状のものがある。


「……毒かっ!?」


 上を見上げる。そこには両手を広げたくらいの、大きな蛾の様な生き物が2匹飛んでいた。


「ぐぎゃ、ぐぎゃっ!」


 印象はやはり蛾。だが中央部には顔の様な……否。顔が存在している。両目に鼻、それに口。およそ人間の顔からはほど遠いが、間違いなく顔の特徴を有していた。その人面蛾が羽ばたくたび、辺りには鱗粉がまかれる。


「くそ!」


 飛ばれていては俺の刀も届かない。俺は人面蛾をまこうと、口に布をあてながら森を駆ける。


 だが奴らは俺を獲物と捉えたのか、明らかに狙いを定めて追いかけてきていた。上空から毒の鱗粉をまき散らし、動かなくなったところを食らうのがこいつらの狩りのスタイルなのだろう。


「逃げても無駄か……! なら!」


 俺は鳥の爪を取り出すとそれを勢いよく投げる。魔猿との戦いで掴んだ、極限の状況下における集中力。それを以て狙うは顔面。まさか投擲されるとは思っていなかったのか、俺の投げた爪は見事に人面蛾の額を貫いた。


「ぐぎゃ!?」


 落ちてくる人面蛾に近づき、刀を一閃。人面蛾の身体はとても柔らかく、労せず一刀両断に成功する。


「ぐぎゃぎゃ!」


 残った人面蛾は相方が殺されて怒ったのか、上空から俺に目掛けて真っすぐに降下してくる。近くで見ると一層不気味な顔だ。大きく口を開き、中にある牙まではっきりと見える。俺をかみ殺すつもりなのだろう。


 だが鳥や魔猿と比べるとあまりにも遅い。俺は急降下する人面蛾の軌道に合わせて、素早く刀を振りぬいた。後には真っ二つに割れた人面蛾の身体が落ちる。


「ふうぅ……! 弱い……とも言えないか。あともう少し鱗粉を吸っていたら、どうなっていたか分からん。気づけたのは運がよかった……!」


 流石に毒虫を食べる気には慣れず、俺はその場を後にした。まだわずかではあるが身体に痺れは感じる。川辺に着いたら思いっきり水を飲もう。


 それからしばらくは森と炎の平野を行き来する日が続いた。だが平穏無事に過ごせた日は1日たりとも無かった。


 鳥や魔猿との戦いは命がけ、さらにはでかい蜘蛛や蛇型の幻獣との戦いもあった。ある日川辺で水を飲んでいたら全身を舌で巻かれ、気付いた時には大型のカエルの腹の中に居た事もあった。カエルの胃酸はとても強く、毛皮で覆っていない部分の皮膚には焼ける様な痛みが走る。だが身動きはとれたため、中から腹を切り裂いて脱出した。


 カエルには計2回飲み込まれたが、その2回とも舌を躱す事も感知する事もできなかった。それほどまでに早い捕食だった。


「カエルに目をつけられたら攻撃から逃れる術は現状ない。大人しく飲み込まれて中から切り裂くしかないが……臭い上に皮膚が酸で焼けるんだよな……。肉は上手いが」


 昼も夜も気が抜けない。そんな環境において俺が狂わなかったのは、常に左目の疼きを感じていられたからだ。


 左目が疼いている時、俺は常にパスカエルの事を考え、怒りに身を任せる事ができる。この怒りこそが俺を正気に繋ぎとめてくれていた。いや、もしかしたらもう狂っていたのかもしれない。





 月御門万葉という少女は、皇族の中において特殊な立ち位置にいる。皇国史上最年少、10才になったばかりして新徹刀作成に必要な霊力を持ち、更に皇族に稀に発現する特別な才にも恵まれている。月御門万葉の場合、それは予知夢だった。


 幼いながら気品があり、もの静かな佇まいでその瞳は金色。多くの者達は彼女に初めて会った時、童女ながらその強大な霊力と神秘性にまともに顔を見れず、口も聞けなくなるという。


 もっとも皇国においては、特別な間柄でもない者が、皇族の姫の顔を直接見るのは恐れ多い事として捉えられているのだが。


 初代皇王は大精霊と契約を結び、その血に霊力が宿ったと言われている。いわば皇族の血筋は、最も濃く大精霊の力を受け継いでいると言える。そのため月御門万葉の見る夢は、神託の類として受け入れられていた。


 夢は良い事も悪い事も見せてくるが、彼女自身は予知夢が見えるという能力を気に入っていた。悪い未来が見えたらその未来を変え、皇族の一人として民達を安寧に導けるから……というのもあるが、一番の理由は、朝は自分が目覚めるまで誰にも起こされず、昼寝もできるからだった。


 さすがに予知夢が見える少女が寝ている最中に、無理やり起こそうとする者は誰もいない。今まさに託宣を受けているのかもしれないのだから。


 厳しく時間管理がされている皇族において、月御門万葉は比較的自由な就寝時間を得る事ができていた。決して惰眠ではない。繰り返すが、彼女の見る夢は神託と同義なのだ。今日も彼女は、朝と言うには少し遅い時間に目を覚ました。


「おはようございます、万葉様」

「……おはようございます、由梨」

「料理番長に万葉様がお目覚めになられたと使いを出しましょう。さ、着替えますよ」


 万葉の朝が遅い事はよく知られている。冷めた朝食を皇族に出す訳にはいかないため、万葉の朝食はいつも彼女が目覚めてから大急ぎで作られる。


 その上、たまに朝食と昼食が一緒になるため、料理番長泣かせの幼女でもあった。万葉は着替えのため、腕を伸ばし由梨に身を任せる。


「……由梨。刀とは、山と森と川が近くにある、大自然の中で作られているものなのでしょうか」


 万葉の着替えを手際よくこなしながら由梨は答える。


「さて、どうでしょう。ですが刀の多くは鉄鉱山のある、左沢領の鍛冶師が鍛えております。鍛冶のための設備事情や物資の輸送も考えると、大自然の中、というのはあまり想像がつきませんね。……どうかなさいましたか?」


 答えながら由梨は違和感を感じていた。今まで万葉から刀に関する話題など一度も出たことが無いからだ。彼女が突拍子もない事を話す時には、だいたい夢が絡んでいる。


「……夢を、見ました」


 万葉の言葉を聞きながら、由梨は息を飲む。


「……大自然の鍛錬所で刀を鍛える壮年の鍛冶師。側にはお父様とよく似た顔つきの方も一緒におられました。ですが、そこに武装した者達が押し寄せるのです」

「…………!!」

「……刀を大自然の中で鍛えるというのはやはり可笑しいですね。ただの夢であれば良いのですが」


 万葉のこの言葉は、由梨を通して直ぐに御所へ伝えられる。





 白璃宮からの報せを受け、事の重大さを正しく理解した者はごく一部の者達だった。清真館では皇族を代表して月御門指月が、皇護三家当主と皇都に在住する地方領主の代官たちを緊急招集していた。


「……という夢を万葉が見たと先ほど連絡があった」

「大自然の中で鍛えられる刀に、陛下に似た顔つきのお方……!! 指月様、それは……!!」

「ああ。間違いなく左沢領にある松嶺園の事だろう」


 神徹刀はそこらの鍛錬所で作成される訳ではない。皇国北西部に松嶺園と呼ばれる場所があり、人里離れた自然あふれる場所で作られるのだ。


 ここで神徹刀が作られる様になった理由は諸説あるが、すべての神徹刀の元となった始まりの刀がこの地で生まれた。以降もこの場所で作られる刀は名刀揃いだったという、皇国の歴史上から見ても皇族とは縁深い土地でもある。


「そして父上に似た顔つきの男性は叔父上……皇王陛下の弟である月御門歴督殿だろうね。先ほど叔父上の予定を薬袋家に確認してもらったが、昨日新たな神徹刀作成のため、松嶺園へ向かったところであった」

「そんな……!!」


 つまり月御門万葉が見た夢が現実のものであれば、これから松嶺園が襲撃される可能性が高いという事だ。それも皇族である月御門歴督がいる状況で。


「事は一刻を争う。今は万葉の夢が現実のものかどうかの議論をしている時間も惜しい。多くの神徹刀を生み、皇国を守ってきた聖地の危機なのだ。ただの夢であれば後で笑えばよい。葉桐一派には直ぐに動かせる者を動員し、松嶺園へと向かってもらいたい。後詰に皇国軍を動かす許可も与える。武装した者達……おそらくは破術士かその郎党であろう。幸い人数は10人にも満たず、それほど多くは無い様だ。だが皇都の警備を緩める訳にもいかない。九曜家は皇都周辺の警戒を。薬袋家は関係各所への通達を。左沢家には事情を伝え、領内の円滑な移動を支援してもらう」


 月御門指月の指示に皆、緊張感を持って返事をしていく。軍事における発言権は葉桐家が強いが、時間の無い中で多くの部署を巻き込む事柄については、多少強引でも皇族の名の元に押し進める方が拙速であった。


 皆が月御門指月の指示の元、あわただしく行動を開始する。刀は最悪、設備の新設なり移設をすれば他の場所でも作成はできる。だが神徹刀を作成できる皇族を万が一1人でも失ってしまえば、それだけ神徹刀の普及は滞る。


 葉桐家当主である葉桐善之助は一派に緊急招集をかけ、直ぐに動かせる者を松嶺園へと向かわせた。


「……動かせたのは先日警護役を拝命したばかりの見習いも入れて10人か。一派の人材不足は深刻だな」


 葉桐善之助の呟きに答えたのは陸立錬陽だった。


「致し方ありません。私も足の負傷がなければ駆け付けたのですが……」

「いや、言っても詮無き事。後詰には皇軍100人を手配した。神徹刀持ちの近衛も一人、指月様のご厚意で派遣できたのだ。火急の割には上々であろう」


 神徹刀を持つ武人は兵百に値すると称される。それが近衛ともなれば、その実力は只の神徹刀を持つ武人の10人に相当すると言われる。


 まさに一騎当千。近衛は皇国に数えるほどしかいないし、全員が神徹刀を与えられている訳ではないが、葉桐一派の中で精鋭中の精鋭なのは変わらない。


「相手は不明、実際に現れるのかも不明だ。まさかお前の息子の初陣がこの様な形で訪れるとはな」

「それを言うならご当主の娘もでしょう。神徹刀持ちは少ないですが、近衛が一人いるのです。初陣としてはこの上なく上等でしょう」

「ふふ、違いない」


 葉桐一派の者は15才を過ぎた者の中から、適正があると判断されれば「お役目」を賜る。葉桐清香と賀川誠臣は一年程前から皇都の警備役の任に当たっていた。


 そして陸立偕。彼は15までまだ数ヶ月ある。だが剣術にあっては年上の葉桐清香、賀上誠臣に勝ち越す程の才を示し始めており、史上最年少で絶影を二進まで進めた逸材だ。今や一派の中ではその名を知らぬ者がいないくらいの実力者となっていた。


 そのため、今回は「特例」として部隊の一員に組み込まれたのだ。これは葉桐家当主から大きな期待を寄せられている事を意味している。


「手は打った。後は天に運を委ねるのみ」





 平野を10の馬が駆ける。九曜家の鏡を使った通信術により、状況は左沢領当主に共有された。左沢領各所の関所では馬が手配されており、そこで馬を乗り継いで一行は先を目指す。


 指揮をとっているのは、この隊で唯一の近衛である水篠葵だった。最後の関所で馬を乗り換え、松嶺園へはあと少し。だがここから先、馬の替えは無いため、潰さない様に河原で小休止を行う事にした。


「馬を休ませろ! この後ここから松嶺園までは休息無しでいく! 何が待っているか分からぬ故、各々気を引き締めよ!」


 水篠葵は凛としたよく通る声で指示を出す。近衛入りを果たす者は、早い者でも20代半ば。だが、彼女の歳は21。


 葵は近衛としての経験は浅いが、若くして近衛入りを認められた実力者だ。葉桐一派において近衛という地位は、厳しい教練を乗り超え、直接皇族に仕えるに値すると判断された者のみに与えられるものだ。そのため、近衛となった者には誰もが畏敬の念を向ける。彼女より年上の者であっても、この場において彼女の指示に意見する者は誰もいなかった。


(ううう~!! どうして近衛は私だけなのぉ!? 本当はもっと経験のある年上の人に引っ張ってもらいたいのにぃ!! ここで休息とっても大丈夫よね!? だって、このまま強行軍で進んで馬が潰れちゃったら元も子もないし!? ていうか、相手は何なのよ!? 私、今まで幻獣の相手中心で、対人戦の経験は少ないんですけど!? どうしてこんな時に限って動ける近衛は私だけなのよぉ!!)


 決して表には出さないが、水篠葵は道中ずっと緊張していた。これまで皇都を中心に活動していたのだ。稽古以外で人間の相手など、数える程しか経験が無い。


 南部地方領は、幻獣被害や破術士によって治安が乱れている。そこへ赴くという「お役目」が与えられる事無く、近衛入りをする者は稀であった。


(左沢領は幻獣領域と無関係だから、武人も駐屯していないしぃ! やっぱり最低限の武人はどこの領地にも駐屯させておくべきよぉ!)


 その上、この隊には「お役目」の経験が浅い、成人して一年ほどの見習いや、中にはまだ15才にすらなっていない者、それに葉桐宗家のお嬢様まで含まれている。


 葵は今、人生最大の緊張を感じていた。そんな葵の胸中など露知らず、今回の任務に加えられた偕、清香、誠臣達は水を飲みながら小声で話す。


「すげぇ。あの人、葵さんだぜ。水篠家の」


 馬上では話せなかったため、こうして偕達が会話をするのは、隊が組まれてから初めての事だった。


「女性では史上最年少で近衛入りを果たされた方ですよね」

「ええ。葵さんは私の目標なの。同じ女性として尊敬するわ!」


 話ながら偕達は遠目に葵に視線を送る。その姿は堂々としており、落ち着いている様に見えた。


「はぁ、かっこいいよなぁ。俺、葵さんみたいなかっこいい年上のお姉さんが好きなんだよ。そういや葵さんの神徹刀の能力は「絶刀」だって聞いたけど、本当かな」

「誠臣が言うと何だかいやらしいわね。でも、能力に関しては間違いないみたいよ。まぁ近衛のほとんどが身体能力超強化の「絶刀」持ちだって、お父様から聞いた事があるんだけど」

「そうなんですか……。やはり絶刀は戦闘力の向上に直接繋がるから有利なんでしょうか。僕も将来、皇族の方より神徹刀を賜れた時には、絶刀の力が発現してほしいですね」


 神徹刀は個人によって発現する御力が異なる。そして発現する力のほとんどは、刀身に御力を纏う「絶破」、刀身から御力を放射する「絶空」、純粋に身体能力を更に向上させる「絶刀」の3つのどれかになる。


 それ以外の御力に目覚める者も稀にいるが、そういった者は目覚めた御力を自分の戦い方とどう組み合わせていくのか、試行錯誤に何年もかかる。


 理玖と偕の祖父、時宗はこのいずれにも属さない御力を神徹刀「越之花霞」から引き出していた。


 そして清香の言う通り、近衛入りを果たす者の多くは神徹刀から身体能力強化系の御力「絶刀」を得ている。純粋に身体能力の向上をそのまま戦闘能力の向上につなげられる者の方が多かった。


「……これから僕たち、本当に賊と戦うんでしょうか」


 偕の言葉に清香と誠臣は目を合わせる。


「その可能性が高いらしいな。そうなるとこれが俺達の初陣か」

「……成人し、お役目をいただいた時から覚悟はできているわ。葉桐の家に生まれたからには避けられない道よ。私は、やるわ。皇国のため、この刀を振るう」

「清香さん……」


 偕達が持たされたのは神徹刀ではないが、皇国では随一の業物だ。見習いにもそれだけの物が与えられるくらい、事は重大なのだと嫌でも理解できてしまう。


 戦うという事は、命の奪い合いになるという事。偕は腰に挿した刀の重さを感じながら、清香の言葉から「武家としての責務」を改めて自覚したのだった。

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