第10話 ACOHの図書館

「ここが病院ですね。ポーションや傷薬なんかが売ってます。多分、モンスター倒しに行く時なんかにお世話になるはずですから、覚えててください」


ボロ屋を出た俺たちは図書館に行く途中で、ノーマルから施設の紹介をされる。

「その隣が武器屋、…まあ説明しなくてもわかると思いますが、これも、冒険に出る時に役に立つと思います。まあ僕達お金ないんでしばらくは無理ですが。」

「だな。俺も生憎武器を買えるほどの金は全部持ってないし。」

雑談しながら、二人の後に続いていく。

やはり城下街だからだろうか?雑貨屋や、八百屋など、建物が多い。

どこに何があるのか、覚えるのは大変そうだ。

「あ、ここです。つきましたよ。」

目の前にあらわれたのは、役場よりは少し小さめの、しかし他の建物よりは一回り大きい図書館だった。

「ほへ〜」

「ここならこの世界について書かれた本がいくらか置いてあると思いますよ。ほら、行きましょう。」

そういうとノーマルはそそくさと自動ドアの方へ進み、中に入って行く。

俺とハジメは後ろから彼について行った。


♦︎

「すげ〜!流石異世界の図書館!」

扉を開けて中に入ると、重いはずの本棚がぷかぷかとシャボン玉の様に浮かび、本が人間と同じように歩いていた。


…でもあれじゃ本読めなくね?


そんな俺の思いを察したのか、ノーマルは口を開いた。

「本読めないだろって思うかもしれませんが大丈夫です。本や本棚は基本的に友好的なので、近づくと寄ってきますよ。ほらそこにある歩いてる本なんか、すぐに手に取れると思いますよ。本に近づいてみてください。」

ノーマルはトテトテと子供のように歩く本を指差す。

「お、オッケー…」

恐る恐る近づく。

「ここ結構広いから本追いかけて迷うなよ」

「大丈夫だって!俺ガキじゃねえし」

そう言いながらそろーっと本に近づく。

本はこちらに気づく?と、言われたようにこちらに寄ってき、自分の手に触れると手足がなくなり、まるで死んだかのように動かなくなる。

「おわっ…すげぇな。」

ぺらっと軽く中を覗く。

「中身は絵本、か…」

そこには簡単な絵と少ない文字が書かれてあった。

『昔々、正義感の強い男がいました。

男は村を襲う悪い竜、ファデュルを倒すため遠くの暗く怖い洞窟に向かいました。

ファデュルは男を見るとギラギラした目をして男にこう言いました。

「おまえが私を倒すものか?」

男はそれを聞くとうなづき、こう言いました。

「村を襲う悪い竜め、お前を成敗してやる。」

竜はそれを聞くとニヤッと笑みを浮かべた後に炎を吹き男に襲いかかります。

男は竜の炎を避けながら攻撃を繰り出しました。けれども竜は攻撃が効いた様子はありません。

戦いが何分も続いた後ついに疲れ果てた男は振り翳した剣をすべらして、投げてしまいました。

そして剣はファデュルの眉間に突き刺さります。

するとなんと竜はそこに倒れ込んでしまいまったのでした。そう、竜の弱点は眉間だったのです。

「私に殺される前に弱点を見破った人間は久しぶりだ。素晴らしい。何か褒美に願い事を一つだけ叶えてやろう。」

ファデュルがそういうと、男は考え、

「ならば私はこの世界の平和を望もう。この剣を、お前を殺したこの剣を、この世界の守り神にしてくれ。どんな悪をも切る正義の剣として。」

男はそういうとファデュルは了承し、剣に竜の魔力を込め、その剣を男に渡しました。

「お前が望むのならこの剣はお前達人間平穏を奪うような者を切れる剣になろう。受け取るがいい。」

男の目の前に現れたその剣は黄金に光っており、男がそれを取るとファデュルは砂のように薄くなっていきます。

「わたしはまた1000年後に目覚めるだろう。その時にはもう貴様のようなやつにやられはしない。その時までさらばだ。」

そういうと竜は洞窟から姿を消しました。

男は村へ帰ると英雄として崇められたのでした。

めでたしめでたし。』


「んあ?なんじゃこりゃ。」

大体こんな感じの内容が、少ないページの中で綴られていた。

「変な話〜まあ絵本とかだいたいこんなもんか。」

そう言いながら俺は本を閉じ、床にそっと置いた。

すると本から再び手足がニョキっとはえ、そこらを歩き回りはじめた。

「てか、歩き回ったら、読みたい時読めねぇだろ」

遠目で本を見ながら、ぼそっとつぶやいた。

「読み終わりました〜?どうですかこの図書館。凄いですよね!」

ノーマルが俺の横顔を覗き込みさらに続ける。

「あ、ちなみにさっきの本の種類は絵本です。

絵本って子供向けに作られているので動きが活発なんです。だから基本的にこの広い図書館で同じ絵本に何回も出会えることはほぼないんですよ。まさに一期一会ってやつですね!まあタイトル覚えてたら全然会えるんですけど。」

本の方を見ながら、目をキラキラさせてノーマルは語った。

「へー。なら他の本は?小説とか、歴史書とか」

「あー。そこら辺はないですね。普通に本棚にありますよ。単純に見るために追いかけるのめんどいですし。」

「絵本だけなのか。面白いな。」

そうだ。一応さっきの本の内容、ノーマルに聞いてみるか…

「ねぇノーマ「あ、ハジメさん呼んでますよ。行きましょう!」

俺の言葉は遮られ、手を引かれる。

「あっ、ちょ…」

引っ張られた先の、ハジメの方に行くと、やけに落ち着いた雰囲気の場所に着く。先程いた場所とは思えないような変わりようだ。


「ここがACOHについての本が書かれているスペースだ。新聞やら小説やらなんでも揃ってるぞ。ルイ、ちょっと見てみろ。」

そう言われて、本棚へ近づく。

気になった一つの本を手に取る。

「はじめてのACOH入門」

という何とも言えない題の本だった。

ぺらっとページをめくり、気になったところを読んでみる。

「魔法について。

 この世界では火水草光闇を基本的な魔法として使用可能である。

この五つの魔法は念じるだけで発動ができる、無口頭魔術であり、これは魔族も使用可能である。

また、私達は5属性だけでなく、得意魔法を使うことが可能である。

得意魔法とはこの5属性のうちどれかに優れている。もしくは全く別の属性(例えば雷や毒など)を使用することが可能になる、のどちらかをいう口頭魔法のことであり、魔族は使用できない。

この得意魔法の力を放つ威力は相当なものであり、魔力の消費量が他の何倍も多い。そのため、魔力の少ないvillagerに紋章が付くことはない。

また、この得意属性は覚醒者によれば、私たちbraveの前世に大いに関係があるらしい。」


これはページの本の一部の内容はだった。これ以下も魔法についての詳しい解説が載っている。見てると眠くなりそうだ。

そして俺はその中からひとつ、気になる単語を見つける。

「てか、覚醒者?」

「カ」の群を探して、ぺらっとページを捲る。

「覚醒者について

覚醒者とは前世の記憶を完全に思い出したbraveを言う。

名前の通り、前世の記憶を思い出すと、本人にとてつもない魔力が流れ、得意魔法の最上級の魔法が使えると言われている。しかし、覚醒者は大昔にしか存在せず、言い伝えだけが残されているため情報は確かではない。」

本当に情報が少ないのか、大きなページに書かれていたのはこの数行だった。

「覚醒者…また違うのが出てきた…」

覚えることが多そうだ。なんて思いながらペラペラとページを捲る。

最後のページに???と書かれた題のページがあった。

「自由な世界のACOHで唯一禁止されている禁忌の魔法、それは時空を歪める魔法だ。これは魔導書の呪文を詠唱することによって得られるいわゆる後天性得意魔法であり、この時空を歪める魔法は、元の得意魔法の力を吸い取り、全て上書きすることで、時を進めたり、遅らせる力を持つことができると言われている。呪文の刻まれた魔導書は王宮で厳密に管理し、高度なセキュリティによって守られている。この3000年ACOHの歴史の中でこの魔法が盗まれた記録はない。」

「ほへー時間を操る禁忌の魔法…俺には縁がなさそうな話だな。」

「お、禁忌呪文ですか。いいですよね〜ロマンがありますよやっぱ。」

横から俺が読む本を二人は覗いた。

「でも確か最近禁忌呪文の魔導書が入った金庫が開けられたって噂立ってなかったか?」

「え、そうなんですか?初めて知りました。」

「まぁ噂だし。俺も信じてはないけど。」

二人が話しているのを聞きながら、俺は本を閉じた。

「つーか図書館なんだから、本借りれるよな?これって借りてもいいのか?」

詳しそうなノーマルに尋ねる。

「あ、はい。大丈夫ですよ。借りる場合はあそこのカウンタに行けばできます。期限は二週間ほどですね。」

ノーマルはそういうと真ん中の方にある人が複数人並んだカウンタを指さした。

「OK。じゃあいってくるわ。だいぶ並んでるから結構待つかも。」

「わかりました。僕達はここらへんの本ぱらっと見たら出るつもりなんで。借りたら外出てきてくださいね。」

「うん。」



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異世界に転生した俺の物語 溱瞬 @sinnsyunn111

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