第9話 let's go 図書館!

あれから、俺のテンションは有頂天だった。

「ンハ〜!確かに、そうだよな!俺ってやっぱ特別なんだ!」

「そうですね〜」

「ははっ!別に、名前レオンでもよかったかもなぁ〜!」

「そうですね〜」

「これから俺超強くなっちゃったらどうしよう〜めっちゃモテちゃうかも!!」

「そうですね〜」

「いろんなとこで活躍して、銅像とか建てられちゃうかもぉ!」

「そうですね〜」

そんな会話を約30分続けていると、何かに気がついたのかノーマルがあれっと声を出す。

「僕一応靴用意したはずなんですけど、片足違いますね?もしかして左足の靴無くしました?これまた絶妙にダッサいですね。」

俺の足をまじまじと見つめる。

「あー、本当だな。絶妙にダサい。」

ソファに座ってくつろいでいるハジメはノーマルの横からちらと覗いた。

「いや別に無くしたわけじゃねえよ。この靴俺のお気に入りなんだ。それにノーマルにもらった靴の片っ方は今カバンの中に入っている。使ってないし。」

左足の踵をトントン、と叩く。

「え、じゃあ片方どうしたんですか?」

彼はそういうと、俺の方を不思議そうに見つめた。

「片方は投げたんだ。森に。」

左足を見ながら言った。

「も、森に投げた?」

ノーマルは驚いた様子で俺の言葉を鸚鵡返しをする。

「ほら、この前森でスライムに襲われたーとかなんとか言ったろ?そん時スライムが俺の靴に纏わりついてたからそこら辺に投げたんだ。その後全力で走って逃げたからどこにあるのか探そうにもわかんねぇし。でも元の世界の俺にとってなんか大切っぽくて、もし落として無くしたら困るからこうやって履いておいてるんだ。」

あの日は本当に最低で、最悪だった。

「あぁ、そうか。お前魔力なしであの森から逃げ切ったんだもんな。大変だったな。」

ハジメは頷き、続ける。

「まあでもとりあえずダサいからその靴はこのボロ屋に保管しといて、ちゃんと合ったもの履いた方がいいと思うぞ。」

ノーマルはハジメに同調する。

「そうですね。ダサいですし、それに森にはいずれ行く予定でしたし、その時に見つかるかもしれないですよ」

「むぅ…そ、そうか。ってか!ダサいダサい言い過ぎだよお前ら!バーカ!」

頬を膨らましながら鞄から自分の靴を取り出して、お揃いの靴に履き替える。

「しっかしまぁ、よく死ななかったですね。あそこで魔法出せない人平気で死にますしね。」

うわ、サラッと怖いことを言うなよ…いやでも、自分でもよく死ななかったと思う。

「そうだよ。本当、おかげで二度死…」

—あれ、ちょっと待て。そういえば、俺ってトラックに轢かれて死んだからこの世界に来たんだよな?


だったら、「こいつら」もだよな?


「…ん?どうしたルイ?」

「おーい大丈夫ですか?しにました?」

「なあ、お前らもこの世界に来る前、死んだのか?」

彼ら二人を真剣に見る。

…元の世界の記憶を持つbraveが身近に居過ぎて忘れていたが、もしかしてこの異世界ってはやっぱり死後の…

「あぁ死んだっていうか、ですね。」

悩むを一瞬で蹴り飛ばすくらいの勢いでノーマルはケロっと答えた。

「は?き…気絶?」

気絶ということは死んだ訳じゃないのか?でもあの時確実にフラッシュバックで…

「この世界に来る条件ってのは『気絶』なんですよ。まあ、まじでそれこそ生死を彷徨うくらいの気絶限定なんで、来れる人は稀ですけど。」

隣で足をパタパタさせ、呑気にくつろぐハジメがフーンと感心そうにこちらを見る。

「そうなのか。俺もてっきり死んだからかと思ってた。」

ハジメは自身の体を見ると「まだ、生きてるんだ。」と少し微笑んでいた。

どうやら常時冷静な彼もこの情報は知らなかったようだ。

俺はと言うとそれはもう焦っていた。思いついた言葉をノーマルに対して吐き出していく。

「な、ならもう俺何日も生きてる時間なんかないはずじゃ!」

「この世界の時間と現実世界の時間の進み具合がちがうんですよ。まあ、個体差がありますし、僕も詳しくはわかりませんが。」

「…じゃあ、ここで生きてる間歳は取らないのか?」

「ここでも歳はとりますね。正確にいうとタイムリミット。この世界で私達が死ぬと、元の世界の私達も、おそらく死ぬと思います。死ぬ原因は歳以外にも、他殺、病死、自殺など、現実世界の死因になりうるものでならこの世界で死ぬことはに可能です。」

「へ、へえ…なんか、どっかのラノベみたいだな…」

そういうとキッとこちらを睨むと頭をブンブンと横に振る。

「やめてください!それは僕たち作品自体が死にますよ!」

「す、すまん…」

いってる意味がよくわからんが、なんとなくわかる気がする…

その話は一旦おいて置き、この世界の事情は、なんとなくわかった。気がする。状況が整理出来て、少しだが落ち着いてきた。

「と言うか前から思ってたが、なんでお前そんなにこの世界に詳しいんだ?そう言うのってどこでわかるんだ?」

「あーえと、この世界の情報は大体図書館で集めてるんですよ。」

ハジメが口を開く。

「図書館?」

驚いたような顔をし、一瞬だけ思考する素振りを見せると彼は「思い出した。」と嬉しそうな声で言った。

「そうだ。俺、お前のことなんかどっかで見たことあるなって思ったら、図書館で見たのか。」

ノーマルの方を指差す。

指された方は困惑した表情をしてハジメに問い掛けた。

「え、そんな僕目立つような行動してました?」

ノーマルは驚いたようで、目を大きく見開く。

「あぁ違う違う。俺も、結構図書館行くんだけど、お前いつも俺より先にいるから、印象に残っててさ。」

「え、お前ら活字得意なの?すごいな」

俺にあたっては本については漫画や絵本、小説にしたってライトノベルしかほぼ本進んで読まない人間なので活字が得意なのは羨ましい。普通に読むの面倒で諦めちゃうし。

「うーん。まあ、探したいものとかある時とかに、利用するくらいだけど。」

「なるほどな。ノーマルは?」

「えっ、ぼ、僕ですか?まあ、お話読むの好きなんで…」

なんかぽいな〜と思いながら、話を続ける。

「じゃあさ、行こうぜ。図書館。」

ハジメが「えっ」と声を出す。

「何でも屋は?やらないのか?」

「別に今日から始めたって人なんかどーせこないだろ。そんなことより街案内しやがれお前ら。」

二人を指差した後、自分に指差す。

「いいか、俺はお前らと違って大きなハンデがある。魔力が少ない、得意魔法が使えない。なら俺が最優先すべきはこの世界のモンスターと戦う時、絶対に死なないようにすること。そのためには物理攻撃の強化や体力の増強、またこの世界についての知識的な部分を頭に叩き入れるしかねーだろ。」

「ま、まあ確かに…?」

「という訳で行くぞ。ほら準備しろ馬鹿ども」

俺はそそくさと身支度を整えると、キイと微かに音がなる扉を開けた。

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