仲間とボロ屋と魔力提供と。
第8話 ボロ屋をそーじしよう
「や、役場?」
三人の男は街で一番大きな建物の前に立っていた。
「まさか、役場でする許可を…!?」
役場を見上げる。
「ふっふっふ。私をみくびってもらっちゃあ困りますよ?そうです!ここが!僕たちの仕事場です!」
自信満々にノーマルは役場を指差す…のではなく、役場の隣の隣に立つ、ボロい家を指差した。
「ここ!頑張って許可とったんですよ!地主に!土下座したら許してくれました!ここの土地買い手が決まるまで僕たちの自由ですよ!」
自信満々に草がボーボーに生えた手入れのなされていない家を見せびらかす。
呆気に取られた俺の開いた口は塞がらなかった。
「なぁ、もっといい場所なかったのか??」
ノーマルの方を見ると彼はドヤ顔をして自分の人差し指を横に振る。
「ちっちっち!僕たち金のない愚民に屋内が当たると思ったら大間違いですよルイさん」
「自信満々に言ってんじゃねぇよ!」
ぽかっと肩を殴る。
「…まぁ、他に場所がないなら仕方ないだろ」
ハジメは遠くを見るようにその家を見る。まるで悟りを開いているようだ。
ハジメ…お前柔軟性ハンパねえな。すげぇよ…
「まあ俺も、ここしかないなら仕方ないく諦めるかぁ…。ってなるかよ!!俺はぜったい嫌だよ!ボロいし!」
だってどう見ても廃墟だもん!
「えールイさんほんとわがままですねぇ〜そう思いません?」
ノーマルはハジメに共感を求める。おれはそんなノーマルを睨んだ。
「ひぇっ。怖っ」
はぁとため息を吐き、渋々、仕方なくという体で声を出す。
「でもまあ、仮だったらいいよ。諦める。お前にはこの世界で結構良くしてもらってるし。まぁせっかく用意してもらったんだし、仮ならいいよ。
流石に、今までしてもらったことを考えると、例え仲間に引き入れる為だといえども、無下にすることはできない。
「ルイさん…ありがとうございます!」
「いやでも仮ならだからな?!いい場所見つかったら絶対そっちだから!」
ノーマルは目をキラキラさせてながらこちらを見た。
「あ、そういえば家持ってないんだよな。ルイ、泊まる場所はどうするんだ?」
ハジメはこちらを見た。
「あ、そっか。昨日今日は宿屋いたけど、俺家ないんだ。」
ハジメに言われて初めて気づいた。どうしよう。ノーマルも俺も金ねえし。
「え、みんなここに泊まりますけど。」
「…は?」
ナニイッテンダコイツ?
「えだって家賃代もったいないじゃないですか。それならタダのここ住めば、節約になりますし。」
「まじでふざけんなお前ぶっ飛ばすぞ」
「いや掃除したらある程度綺麗になりますって!大丈夫大丈夫!ほら、行きましょう?」
そういうとノーマルは俺の背中を押してボロ屋の中に入れようとする。
「うわっおい、やめろ!」
叫ぶ声はにもはや意味はなく、あっけなく俺はホコリをかぶった。
♦︎
ボロ屋の中は以外に広く二階建てだった。
「うわぁきったねー。掃除大変そー」
「だな。」
そんな呑気なことを二人で言っているといきなり爆破音が立て続けに出る。
「ブエックショイッ!エクショイッ」
「うわっ何?」
後ろを向くとノーマルが鼻水をズビズビと啜っていた。
「なんだノーマルかよ。大丈夫か?」
「ハハハ。いやぁ僕実はハウスダストアレルギーなんですよね」
そう言って赤くなった目を擦る。
「えぇ…何やってんだよ。」
「そうか。ならノーマル、一旦外出たらどうだ?ここは俺が掃除するから。」
「え?いやいやいやこの量二人じゃ大変ですよ!僕我慢できるんで、大丈夫です!」
そういうとノーマルは腕を捲った。
「無理にここにいて症状が悪化する方が困るし、外に出てほしいんだ。掃除なら大丈夫だから。」
ノーマルはそれを聞くとしょぼんとしながら玄関に向かう。途中、また爆破音が聞こえた。
「しっかし、この量を二人か。まあ三人も二人も大して変わんないけど、キツそう〜」
チラとハジメをみる。
「言っただろ?すぐ終わるよ。任せて。」
ハジメは目線をこちらに向けて目を合わせたあと、部屋の周りを見た。
そうして目を閉じる。
「エーリスボルディア」
そうハジメがそう唱えると、ボロ屋に一瞬にして水が溢れ出す。
まるであたりに海になったみたいな。そんな感じ。でも、呼吸はできる。
「は?」
思考が停止したま俺に出てきた言葉はたったの一文字だけだった。
水は出てきたかと思うとぐるぐると渦を巻く。
「おい、これどうなってんだ?!ハジメ…」
ハジメを見ると彼はこちらを見向きもせずに、部屋から出る幾つもの渦を凝視していた。
「もういいか…」
家が水に包まれる状況が1、2分続いた後、ハジメはそういうと手首をグインッと捻った。すると、あのボロ屋から溢れ出るほどあった水は、小さな水風船みたいに球状に凝縮し、目の前に現れた。その水風船みたいな水の塊はホコリやゴミに塗れ汚くなっている。
「な、なにこれえ」
ハジメを二度見、三度見する。
「これ、ボロ屋の中のチリやゴミ、あと蜘蛛の巣とか諸々汚いもの詰め込んだ水。」
「いやそういうことじゃなくてえ…」
ハッと辺りを見る。数分前見た光景とは大きく違い、黒かった床は茶色が差し込み、埃が詰まった窓枠はツルツルしていた。
「これが俺の得意魔法だ。」
ハジメはそういうとバーで見た手の甲についた紋章を俺に再び見せた。
「正確にいうと水を使う系の魔法が得意だな。一度魔法見せれてよかった。冒険に得意魔法は必要だと思うし。それになんでも屋においても俺の魔法はなにか役立つかもしれない。それじゃ、俺はこれ捨ててくる。」
そういうとハジメは水の塊を人差し指で動かすと部屋の中に消えて行った。
「あれが、得意魔法…?」
俺にはない、特別な力。
全身が震えた。今、ようやくここが魔法の世界であり、自分が如何に最悪な状況にあるのが理解できた。
「…いいな…」
綺麗になったフローリングを見つめていると後ろからガチャッとドアの開く音が聞こえた。
「い、一体何が…?ってえ?!めっちゃ綺麗!」
ノーマルはボロ屋に入ると目ん玉飛び出そうなほど目を開け、俺に尋ねた。
「本当に一体何があったんですか!?」
「これ、ハジメの得意魔法らしい…」
辺りを見まわす。
「あ、あぁ得意魔法…ですか」
納得した表情でノーマルは続けた。
「確かに、紋章は水っぽかったですもんね。」
すると部屋からハジメが戻ってくる。
「あ、ノーマル。どう?くしゃみでなさそうか?」
「あ、はい。さっきより全然マシです。」
「よかった。さっきの魔法、魔力尽きそうだったから、早めに切り上げたんだ。水で洗っただけだしまだあると思うけど。」
水を捨てたノーマルが俺らの元に帰ってくる。
やはりあの規模の魔法だと魔力の減りが早いらしい。こころなしかハジメの呼吸が乱れている気がした。
「じゃあ少し休憩したほうがいいですね。そこの部屋にソファがあるで座っててください。」
「わかった。」
ハジメはそういうとノーマルが指差した部屋に入った。
俺とノーマルは廊下にポツンと残る。
「これで君が特別だってこと、分かりかましたか?」
ノーマルは俺に尋ねた。嫌味だろうか?
「何が?俺が得意魔法使えない使えないやつだってこと?」
卑屈的に答える。
するとノーマルはポカンとしたあと大きな声で笑った。
「アハハハ!違います、違います!逆!逆!貴方が最高に使えるやつだってことです!卑屈的に捉え過ぎですよ!」
「お、俺が?」
ノーマルは涙を拭う。
「いいですか?あれほどの魔法を使うのなんて本っっっっっ当に誰でもできます。でもあれを長時間多数使用することは決して誰にでもできるわけじゃない。なぜなら魔力が足りなくなるから。魔力はレベルを上げることでたったの少量上げることができる。だけど貴方は違う。長年努力して得た魔力のその倍を一瞬で得ることができるんですよ。こんなチート能力、使えるに決まってるじゃないですか!」
ノーマルはそういうと俺の方に指を差した。
「貴方はこの世界の救世主なんですよ。ルイさん。」
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