第7話 結成

「いやねぇ、なんで???」

エンカウンターズの丸いテーブルに座る二人の男は、真ん中に鎮座する一人の青年を問い詰めた

「あの…一応言っておきますがこの人魔力0ですよ?ほんとに、ほんとーにいいんですか?」

ノーマルは怪訝そうに尋ねる。

「いいよ。入った方がいいんだろ?」

しかし青年は間髪入れず答える。

「まぁそりゃ入ってくれたら俺たちは嬉しいけど…」

今まで散々断られてきた分、逆に心配になってくるとは言えない…

「別に俺はいいよ。俺頼まれたら断れない性格だから。」

男はそういうと、ぎこちない笑顔を見せた。

ありがたい。だが、それ自分で言うのか?とは思ったが言わないでおこう。

ようやくなんとか安心できる仲間が増える…。と安心していると、

「それ自分でいうのウケますね。」

俺は無言でノーマルの足を強めに蹴った。と同時にノーマルは椅子から崩れ落ちていた。

「イッたッ?!ひどい!!」

一方の青年はやはり気に触ったのかムッとしながらも口を開く。

「…この話はもう別にいいだろ。あ、というか自己紹介してなかったな。俺の名前は『ハジメ』数字の一でハジメだ。よろしく。ノーマルと、ルイ?」

そういうとハジメは左手をテーブルに差し出した。紋章を見せているのだろう。

手の甲には雫の模様の中をぐるぐると這う線がびっしりと入っていた。

その紋章から何かおぞまくいものがハジメのなかで渦巻くような感じがした。その感覚はノーマルの紋章から感じ取れる雰囲気と少し似ている…気がする。気のせいか。

紋章に気を取られているとノーマルは珍しそうに口を開いた。

「ヘぇ〜。漢字あるってことは、自分の名前覚えてるんですね。」

「え、自分の名前覚えてるっていいことなのか?」

自分は覚えていないが、そんなに珍しい事例なのだろうか。

「この世界って最初に記憶に残っているのって大抵生前の大事な記憶だけなんです。だから自分の名前最初から覚えてる人って大体自尊心強い人とか、名前に執着がある人なんですよ。だから、すごいなーって」

「お、おい…」

そろーっと横目でハジメをみる。

「…」

ハジメは黙っていた。逆に怖い。

「あ、いや、ハジメさんが自尊心強いって言ってるわけじゃなくて、多分偶然覚えてただけなんだなーって。ハジメさん多分、自尊心ものすごく高いってわけじゃないですよね?」

ノーマルは訂正した。失礼だが俺自身も彼がそうだとはおもえば思えなかった。

「まぁ…」

ハジメは返事をする。

「だから、自分の名前覚えてるのすごく珍しいと思って。あ、でももしかしたら別の人の名前かm…」

「この話は、もういいだろ?」

ノーマルを遮ってハジメは提案する。

「俺はこのパーティに入る。だけどその前に聞きたい。具体的に何をするんだ?それだけは聞いておきたい」

至極真っ当な意見だ。もちろんそのことについて言うつもりだが…

「それは…」

ノーマルの方を見る。

俺も先程パーティを作ると知らされたばかりだから俺も知らないのだ。

でもきっとこの三人でモンスター討伐とかするのだろう。そう思っていると、

ノーマルは勢いよく机をドンッッと叩いた。

先程まで落ち込んでいた表情が消え、期待たっぷりに応える。

「僕たちで、「何でも屋」をやります!」


「「何でも屋??」」


♦︎


「おいおいちょっと待て、何でも屋ってなんだよ?」

思いがけない提案に俺とハジメは目を見開く。

「色んな人の悩みを解決して、交換で魔力を貰う寸法ですよ」

まるで知っているのが当たり前のようにノーマルは告げる。すると彼の言葉を止めてハジメは尋ねた。

「待ってくれ、魔力の譲渡なんてできるのか?」

ハジメは言った。そうだ。ノーマルは魔力の交換といっているが、普通に可能なのだろうか?自分だってできるもんならしたい。だが魔力の交換が通常可能であれば役職でのあのバカでかい機械での交換など必要がなかったはずだ。

そう考えているとノーマルはキラキラさせた目でいった。

「それがですね。できるんですよ。」

彼はそう言うと俺の方を見る。


「貴方がいれば」


「…俺?」

俺は首を傾げた。


「ん?ルイがなにをするんだ?」

ハジメは聞いた。

「普通、この世界では魔力の交換は不可能です。しかし、紋章がついた右手と左手を重ね、呪文を言うと、魔力が交換できるんですよ。」

右手と左手…ああ、だから役所の機械も手の形をしてたのか。あのときの機械の形を思い出す。

ハジメは口を鋭くした。

「できるのか?本当に」

そういうと彼はノーマルを見た。

「…試しに、やってみますか?魔力交換。」

ノーマルは頬を付きながら此方側に左手を突き出した。

「やはり実際に見てみたい。やってみてくれ。」

こくりと頷き、そろっと自身の右手を差し伸べる。そうしてノーマルの手と触れ、それをぐっと握る。

「量は200くらいにしましょう…あ、呪文、覚えてます?」

呪文…たしか、

「サドリアル…?(光よ来い)」

自信なさげにそういった瞬間辺りは暗闇に包まれた。

指先から自身の体がどんどん闇に飲まれた。


あれ、こんな暗かったっけ



視界が暗転する。

ある声が自分の中を占領した。


『ちがう、チガウ、違う!!』


『愛されたいよ…こっち見て』


『僕は、あの人に愛される為のただの道具なの?』


『ずっと、ずっとずっとずっと!記憶に残ってる…消えてくれ!消えろ!消えろ!消えろ!!消えろ!!!』


ただただ声が流れた。頭が痛いし苦しい。呼吸ができない。

…こんなはずじゃなかった。役所の時は明るくて安心できて気持ちよかった。

けど今は違う。どす暗くて、不快で吐き気がするくらい気持ちが悪い。

口元に手を当てる。

本気で吐きそうになっていると目の前に小柄な男の子が現れた。

その姿は…


「…え?」


視界が白くなっていく。


「っはぁ?!」

視界がもとにもどったのだ。空気を吸う。脳に血液を急いで回す。

その様子を見たノーマルは、焦ったように尋ねた。

「え、だ大丈夫でした?やっぱ無理でしたか?」

「いや…多分だけど、出来たよ。」

何もなければ、こんなことになるわけがない。出来ていなければ困る。

「ちょっと見てみるか。魔力開示フォルケーション

ハジメはそういうと人差し指で俺の右手の甲を指した。

すると同時にウィーンと音がし、目の前にモニタが出てくる。

「      ルイ

  マリョクリョウ 700

  レベル 1

  トクイゾクセイ ナシ       」


「あ、すげえ!200増えてる!!」

「一応モニタ出るんですね。増えてよかった…」

ホッとしていたノーマルはこちらを向いた。

「こうして、あなたのこの力を使って、あるモンスターを倒します。それが、私の目的です。これから、よろしくお願いしますね。」


そういうとノーマルはニコッと笑った。


♦︎


お前の目的…そのモンスターって一体何なんだ?」

「ここからずっと東に行った、洞窟にいるドラゴンです。」

ド、ドラゴン…?!

「ドラゴンって、なんで倒したいんだ?経験値そんな貰えないのに。」

ハジメはあっけらかんとして言った。

「…かっこよくないですか?ドラゴン倒すの。」

彼はそういうとピースを突き出した。

「…はぁ?」「確かに!!!」

バンッと机を叩いた。前のめりになり二人と目を合わせる。

「俺もドラゴン倒したい!」

「ですよね〜!」

ね?とハイタッチをする。

「ま、まあルイもいいならいいけど…」

俺ら二人とは対照的に、ハジメは引きながら答えた。

「じゃ、ドラゴンを倒すで目標決定ですね!」

ノーマルは笑顔で言った。

「そうだな、でもそれなら魔力量とレベルは相当必要なんじゃないか?」

「たしかに、大体どれくらいなんだ?」

ノーマルは少し考える。

「うーん。まあ、最低全員5000くらい欲しいですね。ちなみに今200失ったので僕の魔力量は3600です」

「俺の魔力の7倍じゃないですかやだあ」

「俺は2400くらいだから2倍だな。」

そういうとハジメは手で2をつくる。

「そこでルイさんの力による、『なんでも屋』です。今でこそ5000なんて遠い数字ですが、報酬によっては5000なんて一瞬で手に入りますし!」

「なるほど。たしかに良さそうだ。」

納得した様子でハジメはノーマルを見つめる。そして続けた。

「だがそんな簡単に魔力なんかくれるのか?」

は俺も気になっていた。

魔力量のせいで格差ができたっていうのに、そんなたやすく魔力なんかくれるのだろうか。それにノーマルがそこまで考えているのだろうか?

「うーんまあ大丈夫じゃないですか?最近では第二の人生を送る人が増えてきましたから、魔力が必要ない人だってザラにいますし。まぁそこは軽くやりましょうよ、お試しってことで。」

…考えなしなのは予想してた。

でも、

「まあ、俺たちにしかできないことなんだし、折角ならやってみるか。」

「そうだな。おれもそれでいいと思う。」

ハジメも納得したようにうなずく。

こうして俺たちは満場一致で何でも屋をやることが決まった。


これが、俺たちの結成秘話になってしまった、最初のお話だ。



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