第6話 おっさん

俺はうまいパスタを食べながら尋ねる。

「で?どうするの。」

「はにがでふか?(何がですか?)」

 ノーマルはこちらを不思議そうに見た。

「物食いながら喋るな。だから仲間。どうやって見つけんだ?」

 ノーマルは口に入っているパスタごくんとをのみ込んだ。

「あ〜。それのことですか」

 ノーマルは再びフォークをクルクルさせる。

「逆にこれしかないだろ。」

 その姿を見ながら頬杖をついていると、ノーマルは急に顔を上げる。

「簡単ですよ。この店で1人で暇そーにしてるボッチを勧誘しましょう。」

 ノーマルは自信満々に話す。

「勧誘って…いやに原始的だな。せっかく魔法とか使える世界にいるのに。」

「いいじゃないですか別に。部活の勧誘とかしませんでしt…あっ、あの人…」

 ノーマルが目線を遠くへ向ける。

 その目線の先には一人でぽつりとハンバーグを食べているハゲのおっさんがいた。


 …多分、今コイツと考えていることは同じだ。


「あれはいける。行くぞノーマル。」

 向き合って頷くと、急いでその人のテーブルに向かった。


 まず最初に、こういう場合は、第一印象は良くした方がいい。だから俺は伝家の宝刀愛想スマイルを繰り出すことにした。


「あのぉ〜!すみません。僕たち、冒険者のパーティを結成するために、メンバーを探してて、お兄さんいいなって思ったので声かけちゃいました。一緒に冒険しませんか?」


 おっさんは俺の話を聞くと、飲んでいた水の入ったコップを置いた。


「…僕に話しかけた理由って、ぼっちで暇そーだったからですよね」

 いきなり詰め寄ってきた、どうやら愛想スマイルが効かなかったらしい。

 このおっさん…意外に頭働くな。髪ねぇからか?

「…い、いやぁ〜?そんなことは…」

 ふいに目を逸らす。

「それに、ハゲでおじさんだからコイツなら大丈夫だろって思いましたよね」

 やべっ…

「………ははっ!」

 おっさんに詰められ、隣でショボンみたいな顔で突っ立ってるノーマルの腕をガシッと引っ張りその場から離れ小声で耳打つ。

「アイツダメだわ!感鋭すぎる!ナシナシ!」

 手でバツの形を表した。ノーマルも納得のようで、再び周りを見渡す。

「じゃ、じゃあ次!あの人とか…」

 と俺たちはまたメンバー候補を探し始めた。



 二時間後…


「誰も引っかからないんですが!??」

 ノーマルは持っていコップを机の上にドンッと打ち付けた。

「比較的いけそうな人に聞いて行ったのに惨敗だったな…なんでだ?やっぱりノーマル、お前のやり方が間違ってるんじゃねぇのか?」

「いや、僕も何回かことありますし!ちがいますよ!」

「じゃあお前の人選が…!」

 誘っては断られ、誘っては断られを繰り返し挫折した俺たちは、グダグダと言い訳を言い合っていた。するとこちらからコツコツとこちらへ向かってくる足音が聞こえる。

ハッ!まさか、自分からきたのか…!?

俺は足音のする方をパッとみた。その人は

「なんだ。ハゲのおっさんか…あ、もしかしてアンタ、考えなおしてくれたのか?」

 少し期待してみる。可能性はおっさんの髪の毛くらい薄いが。

「いやいきなり失礼ですね。パーティには入りませんよ。」

「んだよ冷やかしかー?」

 がんを飛ばす。おっさんは少し考えながらいった。

「冷やかし、という訳ではありません」

「じゃあなんだよじゃあ嘲笑いにきたのかぁ?」

 もう色々限界だった俺はもはややっつけになっていた。

「あそこでグダグダ言われたら美味しい酒も美味しく無くなってしまうので、少し『アドバイス』をしようかなと思って」

「「アドバイス?」」

 意図せずタイミングが合う。

「貴方たちが何度も勧誘しても失敗してる理由とか。」

 おっさんはうっすらと笑った。

「は?ちょっと待って、なんでアンタにそんなことわかるんだ?」

 おっさんはもったいぶりながらこういった。

「難しいことは考えず、知りたいか知りたくないかだけ教えてください」

 おっさんが俺らの勧誘の失敗を知っている理由がわからない。けど。

「聞きたい」

 その答えが既にわかっていたかの如く、おっさんは俺たちに淡々と言葉を連ねる。

「まあ、理由は簡単です。『まさかの魔力0が現れた!』って噂が一帯で広まっているんです。魔力0の人とパーティなんか組みたくないでしょう?」


 …盲点だった。あんな人が多いところで、あんな事件起きたら噂されるに決まってる。


「と、いうことはルイさんが魔力ZEROなの大体の人に知られてるってことですね」

 ノーマルが深刻そうにこちらを見つめる。

「うわ、そうじゃん。メンバー揃えられないじゃねぇか…」

自分で言うのもなんだが弱いやつとはパーティを組みたくないのはわかる。

「そうですね、どうしましょう…」

「うーん…」

 突然の高い壁に行き詰まる。

 するとハゲのおっさんが最後に、と付け加える。

「あそこの青年、まだグループ入ってないらしいですよ。一度誘ってみたらどうですか。」

 おっさんの見る方に目を移すと、背の高い男がカウンターでスープを飲んでいた。


「ノーマル。行くか。」

 何も考えず、俺は彼の方へ向かおうとすると、ノーマルは怪訝な様子で、俺に話しかける。

「行けますかね?大体ああいうカッコつけ系の人って女性がパーティにいなかったら十中八九断られますよ?」

「…いやもう行くしかないだろ。どうせ候補いないし。」

 俺は何も考えられなかった。

「…それもそうですね。」

 俺達ははおっさんの言う通り声をかけることにした。

 もうこれしか道がない。

 青年にゆっくりと近づく足はとても重く感じた。重い足をなんとかして動かそうとする。すると青年はこちらに気いたのかふいにこちらを振り向き、思わず目線を合わせる。

 ここで俺は恒例伝家の宝刀愛想スマイルを繰り出した。

「僕たち、ノーマルとルイって言うんですけど、冒険者のパーティを結成するために、メンバーを探してて、お兄さんいいなって思ったので声かけちゃいました。僕達と一緒に冒険しませんか?」

 毎度のお決まりのセリフも繰り出す。青年は俺の顔を見た後、口を開いた。

「…いいですよ」

「やっぱりそうですy…は?」

「え?」

「えっ、い、い?」

言葉が出ない俺に割り込みノーマルは慌てて聞き返す。

「…今なんていいました?」

彼は真っ直ぐ俺たちを見ていった。

「だから、入ります。そのパーティ。」


 その一言で伝家の宝刀愛想スマイルは一瞬にして崩れ去った。

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