第5話 アイツの目的

俺達は役所から出た後、再びキャリーさんの宿に泊まることにした。

キャリーさんはやつれた俺の顔を見て大丈夫かい?と声をかけてくれた。

けど、大丈夫じゃない自分は、声を絞って、

笑顔で大丈夫ですと返事することが精一杯だった。


その後すぐに部屋に直撃し、勢いよく扉を開け布団に顔を埋めた。

昨日もここで寝たはずなのに、何故か久しぶりに感じる。

そんな安心感に包まれているといつの間にか俺はすぐに意識を失ってしまっていた。


♦︎

「おはよう御座いまーす。朝ですよ。というかもうお昼です。」

自分を覚まそうとする声が聞こえる。もう三度目。流石に誰かはわかってきた。

「眠い。後五分んんん」

寝返りを打つ。やはり布団はどこの世界でも気持ちいい。

「ルイさん後五分好きですね…っていや、お昼ご飯食べに行きましょう!もう11時半ですよ!」

ゆさゆさと体を揺さぶられる。

流石に目が覚め、ベッドから顔を出した。

そこにはニコニコと腹たつくらい笑顔のノーマルがいた。

「飯って…どこいくの?」

「酒場、行きましょう。」

腹たつくらいの笑顔は今までにないくらい気持ち悪い笑顔に変わって俺の腕を引っ張っていた。


♦︎

ノーマルに無理矢理連れ出され太陽の光に照らされる暖かい外へ出る。

やはり外には箒で空を飛んでいる者、重い荷物を宙に浮かせる者さらには瞬間移動する者もいた。

「それにしても酒場って…俺一応未成年だし、それに昼からって…」

流石に異世界とはいえ、未成年飲酒は流石に躊躇ってしまう。

「あぁそれは大丈夫です。昼の方があそこ行く人多いですし、お酒飲む訳じゃないですよ。それに僕も未成年なんで。」

「え?お前未成年?!」

「はい。一応19です。あ、18から成人基準なら成人ですね。」

「えぇお前そんな若かったんだ…」

正直20はいってると思っていた。

「まあこの話は置いておいて、ほら、ここです。この酒場!」

彼の向く方を自分も覗いてみる。

「えっと…エンカウンターズ?」

「出会いって意味です。」

ニッコリとこちらを向く。

「え…お前まさかここで…?」

俺は身の危険を感じ、さっと後ろに引く。

「あ、違いますよ?そっちの出会いの方じゃありませんからね?」

「ちょ、あんま近寄らんといて…」

「まぁまぁ。一回入りましょうか」

そう言って背中を押すノーマル。

渋々中に入るとそこはカウボーイとか出てきそうななんともおしゃれな店だった。

「…ヘぇ〜おしゃれだな」

おそらく前の世界では見たことのないような店の内装に目を輝かせていると、店員にこちらへどうぞとテーブル席を用意される。

椅子に座ったノーマルはすかさずメニュー表を渡してくる。


「何、食べますか?」


真っ先に目に入ってきたのはパスタだった。それを言うとノーマルは店員を呼び注文を言う。暇なのでぼーっとしているとメニューを運ぶ店員に目についた。

「すっげえ美人…」

その店員は1000年に一度の美少女と言っても過言ではない、いやそれ以上に顔が整っていた。

「あの店員、初めて見ました。確かに凄い美人ですね。」

そんなだらだらと話していると別のウェイターが料理を運んでくる。

ACOHとはいえどもやはり食事の見た目は変わらないらしい。とても美味しそうだ。そんな出来立てで湯気のたつパスタをズルズルと食べていると、ノーマルが口を開く。

「ここに来た、理由なんですけど。」

俺はパスタを食べる手を止めた。

「ここの店は所謂冒険者達が出会う場所なんです。」

「冒険者?」

「この世界に沸くモンスターを倒すことが役目なのがbraveなのは昨日説明しましたよね?その私達braveの中でも戦うことを主とした者を冒険者って言うんです。冒険者達がグループを作ってモンスターを倒す。そのパーティのメンバーと出会う。そのなんです。ここは。」

「へぇ〜」

まじでRPGゲームみたいな設定だな〜すげえー。と呑気に聞き流し、パスタを食べようとフォークに手を伸ばすとノーマルがガシッと手を握る。

「だから、僕たちも探しましょう。仲間!」

キラキラと、細い目の間から瞳を輝かせる。

「は?」

「僕、どうしてもパーティ組みたいんです。でも皆さん入れてくれなくて。だから、なりましょう!冒険者!」

熱く俺に勧誘する。体育系の部活の勧誘みたいだ。

「いや、無理…てか嫌だし…入れてくれないって…なんかあったのか?」

ちらと彼の目を見る。少し口をつぐんでいた。

もしかしたらなにか特別な理由でもあるのだろうか。失礼な質問だったかもしれないと反省しているとノーマルは口を開いた。

「いやぁ?前のグループの人騙してお金取ったり、女性の方にセクハラしたら広まっちゃって。」

「最低じゃねぇか…」

すぐに反省したのを後悔した。人は見た目によらないとはまさにこのことだ。

というか、昨日の優しかったお前はどこに行ったんだ?虚像か?

ちょっと引いていると、ノーマルが再び悪い顔をする。

「でも、僕、あなたにたっくさん借り作りましたよね?宿まで運ぶの大変だったなぁ。宿代、高かったから金欠だし、これで協力してくれないって言われたら…」

ノーマルは朝見た気持ち悪い笑顔を俺に向ける。最初から優しくしてたのはこのためだったんだな。コイツ。ノーマルを恨みの念を込めてキッと睨んだ。しかし効果は無いようだ。

「…でも、なんでわざわざ冒険者なんかになりたいんだ?別に無理にならなくてもいいんじゃねぇのか?なんか理由あるの?」

「それはもちろん、困ってる皆さんの為に…」

「建前はいいから。」

嘘をつらつらと並べるノーマルを遮る。

「…倒したいモンスターがいるんです。」

深刻そうにノーマルは話す。

「なんで倒したいんだ?」

俺も合わせて真面目に話を聞いた。

「だって強いモンスター倒したらモテるじゃないですか」

ノーマルはヘヘッと照れながら行った。このときの衝撃と言ったらないだろう。

「そ、そんなことのために…やっぱ最低じゃねぇか。」

本当に、昨日の優しかったお前はどこに行ったんだ。死んだのか?まさか、本性がこんなにやばいやつだったとは!俺は後悔してもしきれなかった。

「とにかく!あなたは断れないんですから!ちゃんと協力してくださいよ!」

乗り気のしない提案に不貞腐れる。

するとそれを察してかノーマルは机を叩いて声を張り上げた。

「それに、最強になれるかもしれませんよ!」

ピクッ

「さ、最強に…?」

「はい!モンスターを倒すと魔力が増えますし、モンスターどんどん倒せばそこら辺のやつなんかぶっ倒せます!」

ノーマルは席を勢いよく立ち、俺の肩をガシッと掴んだ。

「レオンに!なりたくないんですか!!」

…ああ多分、コイツに出会ったのが運の尽きだったのだろう。


「…わかった。」

俺の心には薄っすらと期待、喜びそして「レオン」という文字が浮かび上がっていた。

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