エピローグ
平和宣言を発表すると、オリエント大陸の国々は震撼した。それと同時に婚儀が挙げられた。婚儀は、僕がそれぞれの国に赴くという形で行われた。その際、僕は昔のエリックの傲慢な態度を悔い改め、僕の妻となる3人とその妻らの国々の民らを自分の体の一部のように愛すると誓った。
そして、どうやって僕は3人の姫たちと結婚することができたのか、その一連の過程を記した手記をブリンケンさんが開発した活版印刷技術を用いて出版することが決まった。
粛清のおかげか、平和宣言と結婚に反発する者たちはほとんどいなかった。
と、いうわけで、
ソフィアとマンダネ、そしてルビアは僕の妻となった。
もう逃げない。恐怖を感じても、僕は堂々次期王としての責務を果たしてみせる。
山岡誠司だった頃の僕は、ただただ優しいだけの男だった。だけど、エリックとしての僕は大人の男になったのだ。
父から権限を一部与えられた僕は、主体となってマンダネの国であるエルニア王国、ルビアの国であるヘネシス王国と国交を結んだ。その結果、我が国でとれるシャインストーンが二つの国に流れ、昔みたいに夜の輝きを取り戻した。
それに加え、僕は日本にいた頃の知識を活用して我が国、ひいてはオリエントの国々を繁栄させるために一生懸命働いた。
ギブアンドテイク。
努力した者たちに上記の言葉は大きな意味を成す。
王としての責務。そして、オリエント大陸の3大美女というとてつもなく大きいリターン。
彼女らは、僕の色に染まり、僕もまた彼女らの色に染まる。そんな幸せすぎる日々を送っていると、一年という時間が経過していた。
現在はソフィアとルビアとマンダネとエステル女王は各々の国に戻っている状態である。
僕は今、執務室におり、仕事をこなしている。
そして数時間経つと、書類の山は綺麗に片付いた。
「やっと終わった!」
と、言って大きくため息をついてから、昔を懐かしむようにまた口を開く。
「また、旅に出ようかな」
X X X
父上から許可をもらい、僕とセーラと親衛隊であるケルツと彼が率いるロックスリング部隊はイラス王国を出てハルケギニア王国へと向かっている。
距離的にはかなり近い方なのですぐ到着し、関係が良くなったハルケギニア王国の民らから歓迎を受けながら王宮の中へ……
お馴染みの貴賓用の部屋に通されると二人がやってきて僕とセーラを歓迎してくれる。
紫色の髪をした美人メイドとお腹が膨らんだ青色の髪をした少女。
「エリック……くるなら手紙くらいは送ってよ」
「あはは、ごめん……」
「もう……ふふ……一ヶ月ぶりだな」
「ああ。これまれずっと一緒だったからね。離れるとやっぱり寂しいよ」
「赤ちゃんが産まれてある程度落ち着いたら、また……あの時みたいに一緒に暮らせるから……」
「……」
僕とソフィアは顔を赤くして目を逸らした。状況を察した紫色の髪をした王宮メイド・サフィナさんはセーラを見て口を開く。
「セーラ、立派なメイドになれたのか、私が見定めてあげましょう。こちらへどうぞ」
「は、はい!」
と、二人はすすっとこの場から歩き去った。
そして残された僕とソフィアは、目で合図して、近づき、抱きしめ合う。
「これからソフィアちゃんと産まれてくる子を一生大事にする。躓くことがあっても、失敗することがあっても、僕は恐れずに前に進むから」
「私はエリックのものだ。それと同時に私はエリックの剣。私は、あなたをずっと支え続ける。だから、その愛を……」
「ソフィアちゃん……」
「エリック……」
ソフィアちゃんの膨らんだお腹と僕のお腹が当たった瞬間、
僕らの唇も重なった。
ちゅっ!
ソフィアと僕はずっと一緒だ。たとえ離れていたとしても、僕らの絆はずっと変わらない。
早く赤ちゃんが見たいものだ。
X X X
ハルケギニア王国で数日間滞在してから、僕とセーラとケルツの部隊はエルニア王国へと向かった。
国境付近に差し掛かると武装したエルニア王国の兵士が僕らを怪訝そうに見つめる。だが、僕の存在を確認してからは、口角を吊り上げ、手を振ってくれた。
「エリック王太子殿下!お久しぶりです!」
「あ!一緒に農作業をしていた方々!」
「ははは!俺たちの王国の誇りであるマンダネ姫様を妊娠させた罪な男がやってこられましたね」
「ううう……やめてください!」
「へへへ!あ、丁度小麦の収穫が行われていますので、小麦を使った料理、いっぱい堪能していってくださいな!」
「エリック様……エルニア王国産の小麦で作ったパン……ちゅるり……」
隣で、セーラが舌鼓を打ちながら僕の裾を控えめに引っ張っている。なので僕は、セーラの頭を撫で撫でしてやった。ケルツは僕たちの姿を見て、微笑んでいる。
僕らが、エルニア王国の中に入ると、見慣れた方々が僕を見た途端に走ってきて歓迎してくれる。
「エリック様だ」
「おお、本当だ!エリック様がいる!」
もちろん僕もこの方々をよく知っている。一緒に汗水流して働いた仲間であり、僕の家族だ。僕のお腹に思いっきり頭を擦り付ける亜麻色の髪をした可愛い幼女も。
「エリックお兄ちゃん!」
「ラケルちゃん!久しぶりだね」
「うん。エリックお兄ちゃんはマンダネ様と結婚したよね?」
「うん!」
「私も大人になったらエリックお兄ちゃんと結婚してマンダネ様と同じくエリックお兄ちゃんの子供を産む!」
「あ、ああ……」
この時どう返事すればいいのか迷っちゃうな……
僕たちは村人たちに挨拶をしつつ王宮へと進んだ。
途中、セーラは用事があるからと言って、エルニア王国の王宮メイドたちのいるところに行った。
僕は一人で、マンダネの部屋へと歩く。エルニア王国の親衛隊や護衛は僕の顔を見るなり、頭を上げて道を開けてくれた。
かくして彼女の部屋に前にやってきた僕は慎重にドアを開ける。
すると、
斜陽を光。そして、椅子に座っているお腹の膨らんだ女の子。彼女は自分のお腹をとても満足げに見つめて微笑んでいた。その姿は、少女ではなく、お母さんに近い印象だった。
「……もうすぐ私のお腹から出て、世の光を見ることになりますね!しんどいこともいっぱいあるかもしれませんけど、私とエリックがいますから……うん?え!?ええええええエリック!?」
「よ……」
「……もう!くるなら連絡くらいはしてくださいよ!」
「……手紙、書いたけど、僕の足の方が早かった」
「そ、そうですか?」
「うん」
「……ずっと待ってました」
「一ヶ月ぶりだね」
「はい……エリック」
「?」
「こっちおいで」
マンダネはちょいちょいと手招いた。なので僕が彼女のところに移動する。
「私のお腹に耳をくっつけてください」
「耳?」
「はい!」
マンダネに言われた僕は、一瞬首を傾げたが、すぐに彼女の膨らんだ形の良いお腹に耳をくっつける。
すると、
「聞こえますか?」
「ああ。動いている」
「あなたの子ですよ」
「同時にマンダネちゃんの子でもあるね」
「私、とても幸せです。こんな日が来るなんて……」
「マンダネが僕を助けてくれたおかげだよ」
「エリック……」
「マンダネちゃん……」
腰をかがめてマンダネのお腹に頭をくっつけていた僕を彼女が優しく抱きしめる。
「ずっと、あなたを包み込んであげます。あなたを癒してあげます。だから、その溢れんばかりの愛で、私を覆ってください」
「ああ。約束する。言葉と行動と心で示してみせるから」
「あなた、大好き」
「僕も、大好き」
暮れなずむ斜陽に照らされた僕たち3人。日が暮れても、シャインストーンの光が彼女を照らしてくれる。
シャインストーンがなくても、僕の心にマンダネという火が永遠に灯っているのだ。
X X X
数日間、エルニア王国の小麦を使った料理を堪能しつつ、マンダネにもたっぷり愛を注いだ僕は、この国を出て最終目的地であるヘネシス王国へと向かった。
国境に到着した頃は、すっかり夜だった。だけど、シャインストーンのおかげで明るい。
国境警備隊の人たちは僕らの顔を見て、ふむと頷き、門を開けてくれた。
ケルツが先頭に立って僕たちを護衛しながら前に進む。
「ケルツ」
「はい」
「ありがとうございます。やっぱりあなたに権力を与えたのは正しい選択でした」
彼は、僕を守る親衛隊員にしてロックスリング部隊の長。それに加えて新たな兵器を開発する研究者でもある。彼は賢い。彼のおかげで、我が国の国防力は大いに上昇した。
「……下品で教養のない平民看守だった俺に機会を与えてくれた王太子殿下は誰よりも賢く最も知恵のあるお方です」
そう言って、彼は黙々と僕とセーラをエスコートしてくれた。
王宮の中に入ると、セーラはまた用事があるからといって、王宮メイドの休憩場所へと歩き去った。
ルビアの部屋に行く途中、ヘネシス王国の親衛隊や護衛のものが僕を見て、道を開け、ひれ伏す。
もう彼らに憎悪という感情は見えない。
しばし歩くと、見慣れたドアが現れた。そしてその隙間から光が漏れ出る。なので、僕はゆっくりとそのドアを開けてみることにした。
すると、
「お母様……この膨らんだお腹を見てくださいまし。私ももうすぐ母になりますわ」
「偉いわね。あのルビアが、こんなに立派に……私……あまりも嬉しくて……」
「もう辛い思いはさせません。幸せになってください。お母様!」
「うん……私、とっても幸せ……」
おお……これは、入りずらい。
安堵と動揺、この矛盾した感情が渦巻いていると、二人は僕の存在に気がついた。
「え?エリック?」
「エリック王太子?」
「あはは……ご無沙汰しております」
二人はキョトンと小首を傾げて、目をはたと見開いたが、やがて、何かに思い付いたらしく、ほくそ笑んだ。
「エリック王太子、婦女子の会話を盗み聞きするなんて、関心しませんね」
「ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃ……」
「ふふ、いいですよ。あ、エリック」
「はい」
エステル女王は立ち上がって僕のところにやってくると、耳打ちする。
「ルビアが赤ちゃんを産んである程度落ち着いたら、キュロスに会いに行きますので、よろしくって伝えといてくださいね」
「あはは……お手柔らかに」
エステル女王が我が国に滞在していた間、父上、なかなか大変だったんだよね……
「それではごゆっくり……」
そう言ってエステル女王はルビアの部屋から去った。
この部屋にいる人は、ベッドに座っているルビアと立っている俺だけ。
「元気そうで何よりだよ。ルビア」
「……くるの遅いよ」
「……ごめん」
「でも、また来てくれたね。あの時みたいに」
「そうだね。あの時のルビアは怖かった」
「それ、あなたの子を
「あはは、もっとオブラートに包んで言うべきだったかな?」
「ううん。大丈夫。で、今はどう?」
「今はね……」
「今は?」
「あまりにも愛くるしくて、一日中ずっと抱きしめてあげたい」
「ひやっ!い、いきなりそんなこと言われたら、お腹の赤ちゃん驚いちゃう……」
「そ、そうだよね。ルビアは今妊婦だから、安静にしないと!」
「……でも、私はあなたの妻だから、別に好きにしていいよ……一晩中、ずっとそばにいてくれたら、赤ちゃん喜ぶと思うし」
「……わかった。じゃ、久しぶりに、い、一緒に寝よう……」
「うん……でもエッチなことは……できないから」
「あ、当たり前だよ!」
「……名前でも一緒に考えよう」
「……うん」
エリックとルビアがこんな面白おかしい話を交わしている中、王宮の最上階にあるテラスで一人のメイドが月を眺めている。
だが、そのメイドの様子は人間離れしたオーラを漂わせていた。
「誠司くん……私の誠司くん……あなたは私のもの……ずっとあなたを守る。これまで、私はあなたを144000回も救った。あなたの肉が腐り、チリになったとしても私はあなたを愛している。あなたの魂は私を喜ばせるいい香料。決して尽きることのない大きな祝福……」
言い終えると、そのメイドは、我に返った。
「あれ?理のカケラ様?誠司くんって誰ですか?」
そう問うてくるセーラだが、返事は返ってこない。だけど、セーラにがっかりする様子はなく、その細い手で自分のお腹を優しくさする。
至って普通のお腹。
けれど、
その中には、
後にイラス王国を帝国にして、全世界を支配する大帝と呼ばれる男が宿っていた。
やっと終わりました!
長いようで短かったって感じです。
長編小説を完結させたのはおそらくこれが初めてだと思います。
書籍化を目指して頑張っていますけど、改善すべき点が多々ありますね(主人公とヒロインたちによる駆け引きをもっと表現したかった。でも、そうなると40万字は優に超えそうな気が……)。
それでも、星を1600以上も頂いたので、嬉しい限りです!
よろしければ感想などをコメントや星レビューを用いて寄せていただけたら嬉しいです!
あと新作発表です!
タイトルは「特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった」です。長いな……
話の概要は、まあ、タイトルを見ればお分かりいただけると思います。
1話のURLです
https://kakuyomu.jp/works/16816927861015950543/episodes/16816927861222708194
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