53話 暴虐の限りを尽くす最強王国の王の息子に転生した僕が、隣国の姫たちに優しくしたら、結婚を迫られるんだけど……

 父上とエステル女王が寄りを戻してから約二ヶ月という歳月が経った。


『エリックの手を血で染めるわけにはいかない』


 父上はそう言って、エステル女王と手を携え、国内でヘネシス王国と戦争をするように仕向ける輩を片っ端から粛清していった。


 驚いたのは、我が国でヘネシス王国と戦争するように仕向ける連中と、ヘネシス王国で我が国と戦争するように仕向ける連中は、お互い内通していたということ。


 エステル女王の手から逃れたゴロツキどもは、我が国にまで逃げ込み、戦争を望む我が国の貴族らが彼らを匿っていた。


 ものすごい惨状だった。公爵子爵伯爵問わず、我が国に存在する数ある爵位のうち約半分が消え、数え切れないほどの人々が死んだ。その中には、オルビス湖で僕とソフィアがデートしていた時に出会ったバッハ男爵も含まれていた。そして我が国で最も権威ある商会であるアンティオキア商会の会長も。


 国体が完全に変わったと言っていいだろう。


 エステル女王は父上に寄り添い、父上は彼女に本当の愛を注いできた。もはやオリエント大陸でこの王と女王にNOを突きつけるものは一人も存在しない。


 そして僕は、約束を守るために動き出した。


 マンダネの国を助けようとしたアンティオキア商会の副会長であるベルン侯爵を会長に据えた。そして彼の爵位を侯爵から公爵にアップさせた。


 あとは、僕についてきた平民看守であるケルツさん。


 彼のおかげで僕はネフィリムのボスを倒すことができた。なので、僕は彼に侯爵という爵位と僕の領地の一部を授け、僕に仕える親衛隊の一人とした。そしてロックスリングを使う部隊を創設させ、彼をその責任者に任命した。


 あとは


 あとは……


 結婚……


 そろそろタイミング的に結婚の話を持ち出すべきだが、なかなかあの3人には言えなかった。


 というのも、山岡誠司だった時の僕は付き合っていた彼女に浮気され振られたことがあるから……


 優しい男が嫌い。


 そんなことを堂々と彼女から言われた僕はショックを受けた。それ以来、僕は彼女を作ることをやめた。


 また僕の全てを否定するようなことを言われるのが怖くて。僕は逃げていたのだ。


 異世界に転生した今も同じだ。


 いまだに我が国の王宮にはオリエント大陸の3美女は僕になんらかのサインを送ってくる。


 ソフィアもマンダネもルビアも、いつもの表情ではなく、男を誘惑するフェロモンを僕に振りまいて、切なく僕を見つめてくる。だけど、僕はまたあの時の悪夢が蘇るんじゃないかと危惧し、誤魔化してきた。


 答えはもうすでにわかりきっているのに、過去のしがらみに閉ざされて迷っている僕が惨めだった。セーラはそんな僕を受け止めてくれたが、3人は焦るような視線を僕に送り続けていた。


 このもどかしい感情を抱いたままさらに一ヶ月がたち、一人で夕食を済ませた僕は部屋に戻ってベッドに座る。


「……」


 これまで3人の姫を僕のものにするために血と汗と涙を流してきた。けれど、一番肝心なところで躓いてしまう僕は、果たして次期王として相応しいものなのだろうか。


 錯綜とした感情を顔に滲ませていると、誰かが僕の部屋をノックした。


「誰?」


 だけど誰も返事をしない。


 怪訝そうに僕がドアを見つめていると、また外から扉を叩いてきた。


「……」


 もしかして、僕の命を狙う刺客だったりするのだろうか、と、冷や汗をかきつつ、しばしドアを凝視する僕。


「いや……理のカケラさんが言ってたから暗殺はあり得ない」


 そう言ってから口を噤んで僕はドアへと歩く。


 一歩また一歩


 そして震える手でドアを開くと……



 



「エリック!!!!!!!」

「エリック!!!!!!!」

「エリック!!!!!!!」




 絶世の美女3人が露出多めの寝巻きを着たまま僕の名前を大声で叫んだ。


「うあああ!!びっくりした!」

 

 耳鳴りがするほどの大声に僕は腰が抜けて尻餅をついてしまう。僕の間抜けない姿を睥睨したソフィアとマンダネとルビアは、倒れている僕に四つんばいで詰め寄ってきた。


「エリック……一体どういうことだ!?私たちをいつまで待たせる気!?」

「そ、ソフィアちゃん……」


 柔らかい水色の髪を手で掻き上げながら鮮明な蒼色の目で僕の顔を射止めるソフィア。整った目鼻立ちの下には、女であることを主張するかのように程よい膨らみが布ごしに見えてくる。


 左から距離詰めてくるソフィアに僕は言葉を失ってしまった。すると右腕にマシュマロよりも柔らかい何かが当たった。ななななんぞや……と顔を右に向けると、


「こんなに私の心を熱くさせておいて、何も言ってくれないなんて……ひどいですよ!エリック!私はエリックの全てを受け止める準備ができていますけど、こんなに待たせるのは……許しません!もう妄想だけだと……いや!」

「マンダネちゃん!?」


 橙色の長い髪に、エメラルド色の瞳、そしてかわいい目鼻立ち。けれど、下に見える巨大な膨らみは僕の理性を混乱させるに足るほど凶暴である。その凶暴なものが僕の腕を圧迫しているのだ。


 こんなに怒っているマンダネは初めて見るかも……


 僕が身震いしていると、僕の上に覆いかぶさるような形で迫ってくる存在に気がついた。


「エリック……まさか、お義父様のように私を見捨てる気?」

「ルビア!?!?!ち、違う!ぼ、僕は……」

「これは……どうやらが必要みたいね」

「お、お仕置き!?」


 ピンク色の髪に赤色の瞳、彫刻師によって作られたかのような整った顔。そしてマンダネと同レベルの大きな胸は重力によって垂れている。お、大きい……


 にしてもお、お仕置きだなんて、穏やかではありませんね。


 物騒なことを口にするルビアはソフィアとマンダネに目で合図する。そして、


 3人は声を合わせて









「早く私と結婚しろ!」

「早く私と結婚しなさい!」

「早く私と結婚して!」




 鬼気迫る表情で放たれた言葉。


 それに対して僕は




「する!するから!ソフィアちゃんともマンダネちゃんともルビアとも結婚するから!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 声の限りに叫んで返事をした。

 

 僕の返答を聞いて3人は目をはたと見開く。そして図ったように妖艶な表情を浮かべ、僕の体にさらに密着する。


「ど、どうした?」

 

 僕が慌てふためくと、3人は頬を赤く染めてそれぞれ返事をする。


「エリックは……優しいから、私たちがちゃんとしないと、きっと他の女の子がまた……」

「そうですよ!そんな優柔不断なところが無用な誤解を助長してしまいますから!だからそうならないためにお私たちがちゃんと責任を持ってしないといけません!」

「エリック……観念なさい。私たちの心を奪ったのが運の尽きよ。エリックは私たちから逃れられない。に……ふふっ」




「ちょ、ちょっと3人とも……まずは落ち着こう……これはだめ……まだ式も挙げてないのに……こんなのは」





 もう過去のトラウマはどうでも良くなった。僕は完璧な人間ではない。良いところも悪いところも存在する軟弱な男だ。


 けれど、3人はそんな僕の全てを受け止めてくれる。そして、僕もまた彼女たちの弱いところを余すところなく包み込む。


 弱点は魅力と化し、僕らの愛と絆を強めてくれる。


 その当たり前のことを彼女らの表情を見て、今、気付かされた。


 これから僕は彼女らと結ばれていっぱい愛し合ってオリエント大陸を繁栄させていくのだろう。

 

 そんな気が遠くなるようなことを想像しながら、僕はこの3人を見ながら心の中で密かに呟く。





 暴虐の限りを尽くす最強王国の王の息子に転生した僕が、隣国の姫たちに優しくしたら、結婚を迫られるんだけど……





 外から4人を見つめるセーラの表情はいつもと違って艶やかだ。


「ふふ、エリック様。なかなか大変そうですね。でも、私はあなたの所有物。疲れた時は、この婢女を思う存分……っ!」


 だが、途中で何かに取り憑かれたかのように表情が固まってしまう。


 そして


……私にそんな資格などございません。私は取るに足りない塵芥のような存在。あってないものです。こんな私を試さないでください……」


 と、ワケのわからないことを呟きつつ、穴が開くほどエリックを凝視して切ない表情を浮かべる。頬はとっくに赤くなっており、何かを必死に我慢するような面持ちだった。


 一体セーラは理のカケラから何を聞かされたのか、


 それを知るものはセーラ以外に存在しない。





 追記



 次回で最後になりそうですね。


 最後まで必ず読んでください!

 

 あと最終回の後は新作の公開もする予定なので、もしよろしければフォローお願いします!(私のペンネームである「なるとし」をクリックしてフォローボタンを押すだけで終わります!)

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