博打狂い狐の右腕

「あ〜気が重いわぁ....」


俺の前を歩いているタマモが肩を落としながら、とぼとぼと歩いている。

これからタマモの会社に行くのだが、もうそろそろ副社長が帰ってくる頃合い。

だから金の使い込みが副社長がバレてこっ酷く怒られるのが予想出来る、だからタマモは会社に行く足取りが非常に重いのだろう。


「ていうか今更やけど、ユウがあいつらの倒すの手伝ってくれたらよかったやん。あいつらも二人がかりで来てたんやし」


「だってお前俺が手伝うかって聞いたら、いらないって言ったじゃん。だからその選択はしなかったんだよ」


「いや確かにそうは言ったけど!それは黒づくめをウチがまだ認識してなかった時の話やん。黒づくめがいて状況は変わってたんやから、加勢してくれや」


「やだよ面倒臭い、俺はお前と違って疲れるから出来るだけ戦いたくないんだよ」


「え〜いけずやな〜。まぁユウはイザルを狩ってくれたんやし、それ以上は望み過ぎやったな。ああ足取りが重いわぁ〜」


タマモはそう言うとますます肩を落とし、歩く速度も落ちてきた。

....リーシアと黒づくめと戦うのが面倒くさかった、これは嘘じゃない。

けど俺がタマモに加勢しなかったのには別の理由があった。

あそこで俺が加勢すればタマモが奥の手を使わなくてもほぼほぼ勝てた。

けど...なんかあの王女の前で俺が戦うのは嫌な予感がしてならなかったんだよなぁ。

具体的な根拠は全くない、俺の勘としか言えない。

だが俺の勘は良く当たる。

だからタマモには気の毒だけど、俺は自分の勘に従ってタマモに加勢しなかった。

せめて加勢しなかった埋め合わせにタマモが怒られそうになった時に、出来るだけ庇ってあげよう。

...まぁ俺が庇ったところで副社長の怒りが収まる可能性は低い。

寧ろタマモの説教を邪魔した事で俺も怒られるかも...

ああ〜考えたら俺も行くのが億劫になってきた...

俺とタマモは少しでも怒られるのを遅らせるために出来るだけゆっくりとタマモの会社に向かった。

けど俺達は高位階者、ゆっくり歩いても普通の人よりも大分足が速い。

直ぐにタマモの会社に着いてしまった。

こんな時は高位階である自分の肉体が恨めしい...


「ああ...ついてしもうた。いつもなら慣れ親しんだ憩いの場所なのに...今はとても恐ろしく見えるわ...」


「そうか...何か心なしか建物から覚えがある威圧感をひしひしと感じるぞ。これは....副社長帰ってきてるな、しかも随分とご機嫌斜めみたいだ。これはタマモの使い込みの件は間違いなくバレてるな、ご愁傷様」


「...なぁユウ一緒にほとぼりが冷めるまでトンズラせえへんか?」


「馬鹿なこと言ってないでいい加減腹を括れ。いくら時間を開けてもあの副社長の怒りはは絶対に収まらないよ。寧ろ時間を置けば置くほど、副社長の怒りは増していくぞ。早いとか謝っちゃった方がまだ傷は浅く済む。ほらっ!無駄な悪足掻きなんかしてないでさっさと行くぞ」


「あ〜ワンチャン本気で土下座すれば許してくれないかなぁ?」



俺は会社の前で渋っているタマモを無理矢理引きずって、怖い副社長が待っているであろう会社に入って行ったのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


とんとん

俺とタマモは会社に入り、副社長の部屋のドアをノックした。


「どうぞ」


返事が聞こえたので俺達は部屋に入った。

部屋の中には一人の女性がいた。


銀髪に褐色の肌、そして普通の人間種に比べて尖った耳に整った顔立ち。

それらの特徴を持つのは亜人の中の一つエルフ族。

そのエルフ族の一種、ダークエルフ族の女性が部屋にいた。

その女性は部屋にある机に高く積んでいる書類を難しい顔をしながら処理していた。


「よお、セクリト久しぶり。気分はどうだ?」


セクリト、彼女はタマモが営んでいる闇金会社の副社長だ。

彼女はタマモとかなり長い付き合いの幼馴染らしく、俺がタマモと出会った頃には既に一緒にいた。

一応肩書き上はタマモの部下にはなってはいるけど、実際は仲の良い友人同士って感じだな。


俺が声を掛けるとセクリトは書類から目を離して、俺に視線を向けた。


「気分ね...さっきまでは良かったよ。出張の目的も上手く達成出来て儲かったからな。だが...気分良くニコニコ顔で帰ってきて会社の帳簿を見たらその笑顔も消し飛んだよ。なんだこの帳簿の穴は。おいそこにいるんだろタマモ!納得のいく説明をしてくれるんだろうな!」


「うひぃ!!」


セクリトが怒鳴るとその声を聞いたタマモがびくりと震えた。


「いや...その....話せば長くなるんやけど...」


「先に言っておくが....もし博打のために金を横領したなんて言ったらお前マジで殺すからな」


「あの...その....」


先回りされて言い訳を封じられたタマモはどう言い訳すればいいのかしどろもどろになりながら考え始めた。


さてどないしよう...正直に先物取引に使いましたって言うべきか....

いや先物取引なんて、素人のウチがやるのは博打と変わらん。

絶対に怒られる。

セクリトはもう滅茶苦茶怖い、怒られるは絶対に勘弁や。

なんとか上手い言い訳を考えな.........やばい何もいい訳が思いつかん!

ウチが黙りこくっていると、豪を煮やしたセクリトが机に腕を叩きつけた。


ダンッ!


「黙っていないで、さっさと話せ」


セクリトのあまりの迫力に慄いたウチは観念して、会社の金の使い込みの件を素直に話した。




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