不屈騎士の悲惨な食生活
「それじゃあ私は消えてますね。何か用があったら呼んで下さい。だけど次はくれぐれも指を鳴らさないで下さいね。それで出るのほんとに恥ずかしいんで」
店主がこちらに来るのを見てサラは能力を使い姿を消した。
今は見えないが近くで私の事を見守ってくれているのだろう。
サラはこうやって私の事をいつも守ってくれているのだ。
そのため知らない人の前では出来るだけ姿を消している。
サラが姿を見せるのは基本的に私や、私の仲間の前でだけ。
その為店主が来たので姿を消したのだ。
「ん、あれ?」
店主がテーブルに料理を並べるにつれてリーシアの顔が困惑し始めた。
リーシアはソーセージ、ポテトと唐揚げに貝のアヒージョを注文した。
だが実際に店主が持ってきたのは異臭漂う変な煮込みに、キャベツの漬物ザワークラフト、魚のフライだ。
店主が持ってきたものは品物も種類も何もかもが間違っている。
「あの...これ頼んだものと違うんですけど」
「........」
「え、あのちょっと!!」
リーシアが声をかけたが店主は無視して奥に引っ込み、両腕に私達が頼んだエールを持って戻ってきた。
ドンっ!
持ってきたエールを店主は私達のテーブルに叩きつけた。
「ちょっと、中身溢れたんですけど!」
「..........」
「ねぇ!聞いてます!?」
リーシアが声をかけるが店主は無視してカウンターに引っ込みグラスを磨き始めた。
「何あの態度!いくらなんでも酷すぎるでしょ!」
「今日はエールは間違えないで持ってきたからマシな方だな。ああ文句を言っても無駄だぞ〜。あのジジイ、ボケてるから私達の話半分ぐらいしか聞き取れないんだよ。前に抗議したら追加で料理を持ってきた。抗議したら事態が悪化する可能性の方が大きいから諦めるんだな」
「はぁ〜多少面倒でも他の店にすれば良かった。まぁ今更言ってもしょうがない。いただきます」
リーシアは届いた料理に手をつけ始めた。
私はリーシアが食べ始めたのを見て直ぐに食べるのを中断すると思っていた。
この店には欠点が幾つもある。
店が汚い、接客態度が悪い、値段が高いetc、etc。
その欠点の中でも致命的なのは料理が不味い事だ。
店主が料理を作っているのだが、ボケているせいで味付けを間違うのだ。
砂糖と塩を間違う、生焼け、変な具材を入れるなど酷いものだ。
ここでの料理を食べるのは罰ゲームを受けるのに等しい。
だから私はここにきたら料理を頼まず、飲み物しか頼まない事にしている。
料理を楽しみにしていたリーシアには悪いけど、これからもここを頻繁に使うだろうし料理の不味さは実際に実感してもらった方がいい。
それにここの不味い料理を食べて、リーシアがどんな反応をするか楽しみだしな。
私はワクワクしながらリーシアの反応を待った。
だがいくら待っても私の予想とは裏腹にリーシアは食べる速度を落とさずパクパクと料理を食べ続けている。
あれ!?
なんでまだ食べてるんだ?
もしかして...今日は奇跡的に味付けが上手くいったのか?
「ちょっともらうよ」
「ん?どうぞ元々貴方のお金で頼んだものです、好きにどうぞ」
リーシアは食べていた煮物を私の方に差し出した。
.........どう見ても不味そうだし、匂いは最悪だ。
けどリーシアがあんなに勢いよく食べてたんだし、それに見た目がグロくて、臭いが悪いものでも美味しいものはいくらでもあるし大丈夫だろ。
それじゃあ、いただきます。
私はスプーンを手に取り煮物を口にした。
うん...これは臓物と野菜の煮物だな。
血抜きが上手くいっていない上に日が経っているせいでとてつもなく血生臭い臓物。
半分腐っている野菜。
それを大量の香辛料と共に煮込んでいる。
うん辛味と生臭さと酸っぱさが同時に味わえる料理だ。
食べなきゃ良かった....吐き出さなかったのが奇跡な味だ。
私はなんとか飲み込んだ後、これを食べ続けているリーシアに信じられないような目で見た。
「おい良くこんなの平気で食べれるな、不味くないのか?」
「まぁ確かに酷い味だけど、前線じゃあもっと酷いものを食べてきましたからね。私は周りから孤立していて物資を補給してもらえませんでしたからね。倒した魔物の血を啜って口を潤し、生肉を口にしてきました。それに比べればこんな物でも充分ご馳走ですよ」
そう言うとリーシアは料理を食べるのを再開した。
その様子を見て私はこれからリーシアに美味しいものを沢山食べさせる事を心に決めた。
私の部下になったからには悲惨な生活は絶対にさせない。
私はリーシアの生活を向上させる事を決心した。
私がこれからの事を決心すると丁度リーシアは出された料理を平らげた。
「ふーすいません。もっと頼んでもいいですか?今金が無くて、今のうちに出来るだけ食い溜めしておきたいんですよ」
「好きなだけ頼みな。今日はこんな店で済まないな、次はもっといい店に連れてくよ」
「やった!それじゃあすいません!」
リーシアは店主を呼び大量の料理を追加注文した。
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