お客がいなく、潰れないのが不思議なバー

「立てるか?無理そうなら肩かすよ?」


戦いから少し経ち、そろそろ移動しようと思い私はリーシアに声をかけた。

リーシアを説得するのに拳で語り合う作戦は上手くいった。

上手くいったのはいいんだが、予想よりも手強かったから少しやり過ぎてしまった。

顔は腫れ、手応えから肋骨や足の骨は何本か折れている。

その上、止めの膝蹴りがもろに入ったからもしかしたら内臓を痛めているかもしれない。

今直ぐにでも治療を受けた方がいい。

私はリーシアに肩を貸そうとした。

するとリーシアは私の申し出を断った。


「ああ、これくらいの怪我なら平気ですよ。よいしょと!」


リーシアはボロボロにも関わらず元気そうに立ち上がった。

私はその光景を見て驚いた。


「すごいな。一応殺さないように気を使いはしたけどそれでも普通の人なら入院間違いなしの大怪我だったはず。それなのにそんな風にピンピンしているなんて、それに傷もみるみる治っている...君の能力は随分と強力だな」


リーシアの顔の腫れや生傷がみるみるなおっている。

その上さっきまでは折れた箇所を庇っていたのに、今は庇っていない。

多分骨折も治っているな。

この短時間でここまで体の傷を治すなんて随分と強力な能力だ。


私が能力を褒めるとリーシアは苦笑した。


「ふふっ、それでも貴方には手も足も出ませんでしたけどね。それに私のこの回復も無制限に出来る訳じゃない、それに治せる怪我にも限度があってせいぜい骨折程度までしか治せません。それに回復魔法と違って自分にしか使えず他人には使えませんからね。私の能力は少し使い勝手が悪い弱い能力ですよ」


「いやいや謙遜するな。骨折を治せるような回復魔法を使える奴なんて少ない。自分しか癒せなくても君の能力は充分強力だよ。それに君の能力の本質は回復力じゃないだろ?」


「ん、それははどういう意味ですか?」


「君の能力の能力は溜めだろ?回復力は君の能力の一部にすぎない」


「.......!!!」


私が聞くとリーシアはびくりと体が震え、顔が強張った。

なんとか誤魔化そうと少しの間、言い訳を考えていたが私には通じない事を顔を見て悟り肩を落とした。


「はぁ〜どうして私の能力の事を知っているんですか?今の攻防だけで分かる筈がないし、騎士達には私の能力は自動回復で通しているからそこからバレるはずもない。私の能力の本質を知っている人なんて殆どいない。どうやって私の能力の本質を知ったんですか?」


「勿論教えるのは構わないけど、ここじゃあね〜。いくら人通りが少ないとはいってもここは外だから誰かに聞かれる危険がある。それに他にも色々と大事な話があるから話の続きは落ち着いた場所に移ってからしよう」


「...分かった」


私はリーシアを連れて王都内にいくつか保有している隠れ家の一つに向かった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


王都内の郊外に一軒のバーがある。

バーの名前はタハーザ

過去にはそこそこの繁盛店だったが今は見る影もない。

店構えはボロボロ、酒やつまみの値段は高く、接客態度は最悪。

その上掃除も適当にしているため店中の至る所に埃が積もり、ネズミやゴキブリがよく出現する不潔さ。

噂では何度か食中毒も出た事があるらしい。

店主も半分ボケているので私が話した事を直ぐに忘れる。

注文をしたら4分の3の確率で間違える、むしろまともに注文が通る方が珍しい。

こんな注文もまともに通らない、店が汚い、値段が高いといういい点を探す方が難しい店に来るような客は私ぐらいだ。

私以外の客が入ってきたら直ぐに分かるし、店主に話を聞かれても忘れるから問題ない。

ここは密談するのにもってこいな場所なのだ。


「うげ、足元ベタベタしてる....他に店なかったんですか?」


「私は王都内にいくつか隠れ家を持っているけど、他は全部少し遠かったからな。近いのはここしかなかったんだよ。それとも1時間ほどかかっても構わないならもっとマシな店を紹介出来るよ。どうする移動するか?」


「いや、いいよ。今から移動するのは面倒臭い。ここで我慢しますよ」


リーシアは私の説明を聞くと、嫌々椅子に腰掛けた。

私はメニュー手に取りリーシアに差し出した。


「さぁ好きに注文していいよ、ここは私の奢りだ。好きに飲み食いしてくれ」


「やった!ごちになります!」


リーシアは差し出したメニューを受け取ると少しの間読んだ。

そして注文を決めると、店主に声をかけた。


「すみません、ソーセージとポテトと唐揚げ。それに貝のアヒージョ、アンナ様は何か頼みますか?」


「私はエールだけでいい。どうせまともに注文なんか通らないし(ぼそっ)」


「ん?何か言いましたか?」


「いんや何も言ってないよ」


「そうですか、じゃあ私もエールでいいや。あとエール二つお願いします」


「......」


リーシアの注文を聞いた店主は返事もせずに厨房に引っ込んだ。


「なんだよ....感じ悪いな。返事くらいしろよな」


「あの店主半分ボケてるからな、仕方ないよ」


「そうですか、まぁそんな事はどうでもいい。貴方には私の能力の事やこれからの事など色々と聞きたい事がある。全て答えてもらいますよ」

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