戦いの傍観者達
「うわー、随分派手にやったな」
俺ユウはアンナ王女とリーシアが派手に戦っているのを遠く離れた場所から双眼鏡で眺めていた。
アンナ王女はリーシアと戦う時に俺達を帰らせたが、俺はアンナ王女の実力がどれほどか確認したかった。
だから離れた場所からこっそりと見ることにしたのだ。
まぁ多少は出来るようには見えたけど、9部9厘リーシアが勝つと予想していた。
それがまさかアンナ王女が勝つとはな...
俺が呆然と見ていると、袖が引かれた。
「なーユウ、いい加減それ返してえな」
「ああ悪い悪い、ほら返すよ」
俺は持っていた双眼鏡を側にいたタマモに渡した。
この双眼鏡はタマモが元々持っていた物で少しの間借りていたのだ。
ここからだとぼんやりとしか見えないので戦いが佳境に入ったところで、より詳しく見たかったからタマモに無理を言って借りたのだ。
「ったく少しの間だけって言うから仕方なく貸してあげたっちゅうのに。結局最後まで見やがって、いいとこ見逃したわ」
「悪い悪い、いい戦いだったからついつい見入っちゃったんだよ。この埋め合わせはいずれするよ」
「ったく、ほんまに頼むで。....にしてもまさかリーシアが負けるとはな、あの王女様只者やないな」
「....だな。リーシアはこの王都の中でもかなりの実力者だ。それをあそこまで一方的に倒すとは....あの王女様の王国を纏めるという大口も少しは現実味を帯びて来たんじゃないか?」
「いやーそれは無理やろ。今の王国を腐敗させている原因である貴族達にはまだまだ化け物クラスの猛者を手駒に持っとる。英雄バルザスに将軍ナダル、それに人喰いガバル。そいつらをどうにかせんと貴族を倒す事は出来んやろうな。...あの王女もかなり強いけど、それでもまだまだあいつらには勝てんやろうな」
この王国を腐らせている原因である貴族達は豊富な資金で騎士や傭兵を大量に雇っている。
貴族どもはそいつらを使って自分の邪魔者達を消しているのだ。
だからこの王国で貴族達と敵対し国を変えたいというのなら、この王国で金で動く猛者達を撃退する戦力を持たなければならない。
今までも何度か王国を変えようと情熱を持った者達が何人かいた。
だが、そいつらは金に雇われた者達によって直ぐに消された。
....悔しいがこの国で金で動く騎士や傭兵は本当に強い。
幾ら正義感や良心を持っていてもこの国では意味がない。
この国で意見を通したいなら、他者を押し退ける確かな強さが必要なのだ。
あの王女の心意気は立派だ。
だがどうせあの王女も直ぐに消されるだろ。
「...そうだな。リーシアに勝ったのは驚いたがそれでもまだまだ実力不足。あの程度で王国と敵対するなんて自殺行為だ。王族とはいっても貴族と敵対したらただでは済まないだろうな」
「やろうな、この国の貴族は自分の利権を犯す者に対して容赦せんからな。あの王女様もいずれ貴族どもに負けてまうんかな。...負けて直ぐに殺されるならまだええ。やけどアンナ様は女でしかもあの美貌や....死ぬよりも辛い目に遭う事は想像に難くないで....同じ女としてせめて苦しまないようにあっさり死ぬ事を祈るで」
「....そうだな」
このままこの国の闇と戦ったらあの王女は直ぐに死ぬ事になるだろう。
今までもこの国の闇とたたかう者達の死を何度も見てきたが...あの王女は死ぬには若すぎる。
流石にあの王女が死ぬのは少し可哀想だ。
俺はこれから王女が死ぬ事を想像して、気の毒に思い顔を顰めた。
その様子を見てタマモが心配そうに声をかけてきた。
「....ユウ大丈夫か?」
「....ああ、ちょっとアンナ王女のこれからを想像して気の毒でな。なぁタマモどうにかならないか?」
「ならユウ、あんたが王女に協力すればええ。
ユウが協力するならウチも力を貸すで。そうすれば今の勝機0も多少は勝つ可能性が出てくるやろ。ウチとユウならガバル達を始めとする、この国のクソゴミどもにも負けんで」
タマモは俺達もアンナ王女に力を貸す事を勧めてきた。
確かに俺達が保有する戦力と俺達自身の強さ。
この二つがあれば、他の貴族達もそう簡単には手出し出来なくなるだろう。
だが.....
「いや....それは出来ない。大して親しくもない一人の女のために俺は貴族どもと争うなんて今の俺には出来ない。今の俺には背負っているものが沢山あるんだ。だから...悪いが俺はあの王女を見捨てる」
「そうか....ユウがそう決めたならウチはなんも言わんよ」
俺が苦しげに王女を見捨てる発言をすると、タマモは優しげに俺の背中に手を当てて俺を慰めた。
普段は博打好きで金遣いが荒くてどうしようもないところが多いが、なんだかんだいっても優しいなこいつは。
俺はタマモに暫くのあいだ慰めてもらった。
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