騎士リーシア

「ふーん...つまりアンナはんは今の王国に不満がある奴らを今回この部屋に集めたっちゅうわけか」


アンナ王女が自身の目的を話した後、タマモは改めて部屋の中を見回し集まった面子を確認し始めた。


「そう言われて改めて部屋を見ると確かに、今の王国に不満がある奴らばっかしやな。そこにいる聖女様は人種差別に反対して教会とバチバチやっとる事で有名やし。そんで聖女様の隣に座っとる騎士様は騎士の中では珍しく真面目に仕事をする事で有名や」


タマモは向こう側に座っている聖女と隣の騎士に視線を向けた。

視線を向けられた騎士は機嫌が悪そうに荒い息を漏らした。


「ふん、普通は不真面目な奴が悪目立ちするものだが...私みたいに真面目に仕事をしているだけで目立つとは世も末だな」


「まぁ大多数の騎士が適当に働いとる中で市民の平和を真面目に守っとるのはアンタやその他少数の変わり者くらいやからな。目立つのもしゃあないで」


騎士はタマモの話を聞き舌打ちをして、不機嫌そうに顔を顰めた。

タマモが言っている事は正しい。

騎士は王国の安全を守る治安維持や、魔物の駆除が主な仕事だ。

だが今やその仕事は形骸化されてしまっている。

殆どの騎士は実質貴族の私兵にされ、貴族の身の安全を守るため家や身辺警護をしている。

そりゃあ治安維持や魔物の駆除などは辛いし、身の危険もあるので普通はやりたくない。

それに貴族の私兵ならお金も普通よりも大量に貰えるので騎士達はこぞって貴族の私兵に志願する。

その為現在王国は治安維持や魔物駆除を行う騎士の数が足りず、王国の治安は悪化してきている。

だがどこの世界にも変わり者はいるものだ。

この騎士のように今時珍しく市民の平和を守るために活動をしている者も少数だが、確かに存在している。

そういういまや騎士達の中で変わり者扱いされる者達は見返りなしで市民を助けるため一般人人気はめっちゃ高い。

だけど貴族にはいう事を聞かせる事が出来ない厄介者としてめちゃくちゃ嫌われている。

その為彼女の様に真面目に仕事をする騎士達は、貴族が裏から手を回して危険な魔物がうようよいるような危険地帯に派遣され、その殆どが帰らぬ者となる。

だが偶に、ごく稀にだがそんな危険地帯に出向させられても無事に帰還し王都の治安維持を守る事を辞めない頑固者がいる。


彼女もそういう頑固者の一人。

幾度も貴族に危険な場所に飛ばされたが、その度に現場で貴族を黙らせる莫大な戦果を上げて何度も王都に帰ってきた。

彼女はリーシア=バル。

手入れの行き届いた艶のある金髪を後ろに纏めた凛々しい表情をした美人だ。

騎士の甲冑の上から魔物の素材で作った外套を羽織っている。

今時珍しい真面目に仕事をする騎士だ。


「それで王女様は私らを集めてどうするつもりなんですか?私も暇じゃないんでね、さっさと要件を言ってもらえると助かります」


リーシアは少し棘がある話し方で王女に要件を聞いた。

リーシアも貴族には痛い目に遭わされているから王女に対して警戒心を露わにしているんだろう。


「まぁ、そうツンケンな態度を取らないでくれよ、少し雑談して場を温めてから本題に入ろうと思ってたんだよ」


「そういう気遣いは無用です。さっさと本題に入ってください。折角の非番なんだ、こんな会議なんて早く終わらせてさっさと帰って寝たいんですよ」


「....まぁそういうなら私の小粋な雑談はまたの機会にとっておくとして、じゃあ本題に入るとするかな」


そこで王女は一息ついて部屋に集まっている面子を見渡した。


「さてここに今日集まってもらったのは王国に表裏問わずに名を轟かす若き猛者達だ。これから私はこの王国を救うために国を腐らせている者どもを排除する行動を始める。だが王国を救うためには私が今持っている戦力だけじゃあ全然足りない。そこで君達には私の下についてもらい、私の目的を果たすために力を貸してもらう」


「「「........」」」


王女の発言を聞き、部屋に集まっている俺達は唖然とした表情で王女を見た。

王女は俺達全員に自分の下につけ、つまり部下になれと言った。

何眠たい事抜かしてんだこいつ。

王族だからといってもこの女は成人を迎えたばかりの小娘。

そんな経験も実力もなにもかも劣るような小娘になんで俺が従わなければならないんだよ。

そう思っているのは俺だけじゃなかったようで、周りも今の発言に対して気分を害したようで空気が重くなった。

その重たい空気の中、リーシアが口を開いた。


「....悪いんだが王女様。アンタが王国を纏めるためにどんな活動をしようと勝手だ。だが私は王国の平和を守るのに貴族の力を借りる気はさらさらない。それなのになんで私が貴方の下につかなければならないですか?」


「ふっ、そりゃあ私がリーシア貴方よりも強いからだ」


「なんだと!!!」


王女の発言に対してリーシアは怒り、勢いよく立ち上がり、王女に近寄り睨みつけた。

流石は王国でも有名な騎士リーシア。

溢れ出る威圧感が並じゃない、低位階の者がこの威圧感を浴びたら体が竦み動けなくなるだろう。

だがそんな威圧感を伴うリーシアの睨みを受けているというのに、アンナ王女は余裕ある態度でリーシアを睨み返した。


アンナ王女が睨み返してくるとはリーシアも予想外だったようで少し動揺したが、直ぐに持ち直して睨み続けた。


「ただ強いだけじゃないぞ私にはこの王国を救うための計画もあるし、その後の展望もしっかりある。そんな芸当リーシアお前に出来るのか?」


「うっ!それは.....」


「せいぜい今のリーシアなか出来るのは数人の騎士と共に魔物を倒したり、治安維持を少しするぐらいしか出来ないだろ。だが、私の下につけば今とは違った景色を見せてやる、だから私の下につけ」


「うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさ〜い!!!!そこまで大口を叩くなら、貴方がどれ程のものなのか私に見せてみろよ!」


リーシアは語気を荒げて羽織っていた外套を地面に叩きつけた。


「よっしゃちょうどいい、貴方みたいな頑固な脳筋タイプには言葉で説得しても効果が薄いだろ。私の事を認めさせるためには一度戦う必要があると思っていたんだ」


「ごちゃごちゃうるさい!王族だからと言って歳下のくせに舐めた事抜かしやがって!私は魔物との前線で幾度も死線をくぐり抜けた。若手騎士の中では最強と謳われ、騎士の最後の希望と呼ばれているリーシアだぞ!たかが第3王女がなんぼのもんじゃい!!」


アンナ王女は自身の力を証明するためにリーシアと戦う事になった。

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