裏社会の有力者である俺を王女は手駒に欲しがるけど、俺は王女の部下には絶対ならない!

惣元 誼

第一章 大望を抱く王女

序章 集まった若き猛者たち

おいおい、凄い豪華な面子だな。

あっちにいるのは聖女様で向こうは騎士団長...他にも有名な奴が大勢いるぞ。

俺はこの部屋に集まって同席している面子を見回して、その顔ぶれに驚愕した。


「おいユウ、ちょっとええか?」


俺が部屋の面子を見て驚いていると隣に座っている顔見知りの女性が声をかけてきた。

彼女は狐獣人のタマモ。

帽子を被り尻尾は服の中に収めて獣人である事を隠している。

この王国で獣人である事がバレたら面倒な事になるからその対策として軽い変装をしている。

タマモは金髪赤眼ではるか東方に存在するという和服をモチーフにした服を着崩して着ている色気がたっぷりな女性だ。

彼女は俺と同じ年頃ながら王都で商いを営んでいる。

かなりのやり手で老舗にも負けずに莫大な利益を上げている。

彼女には莫大な資金力と確かな実力を備えている。

その為、王国も獣人とはいえタマモをぞんざいに扱えず、多大な影響力を持つ女性だ。

そんな彼女と俺は昔から深い親交があり、仲が良かった。

そんな彼女も俺と同じくこの会議に呼ばれていて俺の隣の席に座っていた。


「何だよ」


「いや、ユウもこの会議に呼ばれとったとは驚いたわ」


「ちょっとした事情があってな、それでタマモはどうして此処に?」


「いや最近ウチ先物取引に失敗して大損こいてしもうたんよ。んでその穴をどうやって埋めるか悩んでたらなんか会議に参加するだけで大金が貰えるっていうから藁にも縋る思いで来たんよ」


「はぁ〜だから先物取引なんてリスクが高いのはやめておけって忠告したんだよ。それでこんな怪しい場所に来る羽目になるなんて相変わらず、考えが足りてないな」


「うっさいわ!今回の取引は鉄板やったんだで!やけど....まさか時期外れの大雨のせいで買った作物が全部駄目になるなんてくそっ!」


「まぁ、これに懲りたらもっと手堅い商売をするんだな。じゃないといずれ痛い目を見る羽目になるぞ」


「分かっとるよ....次はもっと確実にとうもろこし辺りでも買おうかな」


だめだなこいつ全然懲りてない。

一回痛い目に遭わないとこの馬鹿は学ばないな。


「はぁ〜もういい。お前みたいなタイプは痛い目に遭わないと学ばない。一回取り返しがつくギリギリのレベルで痛い目に遭え、そうすればその楽観的思考も少しはマシになるだろ」


「おいおい酷いで、まぁ確かにウチは少し楽観的なのは否定出来へんけどな。しかし今回此処に来たのは失敗やったかもしれんな」


「かもな、この部屋に集まっているのは俺達を含めて有名人ばかりだ。そんな俺達を集めてどうするつもりなんだろうな?」


王国に大きな影響力を持つタマモを始め、聖女や王国の近衛騎士団の団長。

他にも錬金術師、闇医者、冒険者など有名な顔がちらほら見える。

どうやら表裏問わず様々な界隈で名を轟かす猛者を集めているみたいだ。


「こんな狭い部屋に実力者を大量集めて何をしようっていうんや?」


「さあな。けど何があっても平気なように警戒は怠るなよ」


「分かっとるよ」


そうして俺とタマモが話しているとドアが開き一人の女性が従者と共に入室して来た。


「すまない私が最後か、これでも急いで来たのだが」


色の濃い赤髪を肩まで揃えた凛々しい表情をした、目が覚める様な美少女だ。

簡素だが質の良さそうな衣服を身に纏い、育ちの良さが見て取れる。

年齢は見た感じ18やそこらだが大人びた表情をしているのでもう少し年上でも不思議には感じない。



この世界には位階という生物の強さを測る指針が存在している。 

魔物や人と戦うのが位階をあげる一般的な方法で位階が高い程、肉体が強く、魔力が多くて操作が上手い。

子供や家畜など戦闘能力が全然ない物が1。

そこから戦闘経験を積んでいくほど位階は上がり人はより強くなっていく。

そして位階が4にもなると一人前と呼ばれる領域に入る。


今入室して来たこの女はどんなに少なく見積もっても4位階はある。

いやもしかするとそれ以上の位階があるかも...

その入室してきた女性の雰囲気から高い実力を感じ取り部屋にいた連中は警戒心を強めた。


こいつ何者だ?

これ程の強そうな雰囲気を持っていてしかもこんなに若い奴なんて心当たりがないな...

俺が入室してきた女性の正体を推察していると、その女性は空いていた席に座った。


「さて、私の事を知らない者もいるかもしれないから自己紹介をさせてもらおう。私はアンナ、アンナ=エリザート。一応この王国の王女をやらせてもらっている。今日はよろしく」


謎の女性改め、アンナは軽い調子で俺達に挨拶をしてきた。

俺達はその挨拶を聞いてはいたが、予想だにしていなかった大物が来た事でそれどころじゃなかった。


彼女が言っている事が本当なら、彼女は俺達が住んでいるこのエリザート王国の第三王女、アンナ=エリザートだ。


そりゃあ第三王女の名前は何度か耳にした事はある。

あるが王族なんて実際に目にする事なんてない。

だから彼女が本当に第3王女かどうかは判断出来ねえよ。

けどこの王国で貴族と平民の差はかなりある。そんな王国で平民が貴族の身分詐称なぞ大罪も大罪。

それが王族の身分詐称なんてしようものならよくて無期懲役、最悪死刑だろ。

だから大勢の前で王族と豪語したからには多分本当にこの女性は王族なんだろ。


「おいおい〜、王族も参加するだなんてマジかいな。こりゃホンマにきな臭くなってきたで。軽い気持ちで参加したの後悔してきたわ...」


そんな自称王女を見ながらタマモはげんなりとしていた。

そんなタマモの様子を見たアンナ王女はタマモに声をかけた。


「ああ心配しないでいいぞタマモさん。今回は気楽な会議だ。気を楽にしてくれ」


「ああ、わ、分かったわ」


王女と同席なんかして気楽になんて出来るわけないやろ!

タマモの引き攣った表情からそんな感情がひしひしと伝わってくる。


「ああそうだ、君がこの会議に参加する条件としてこれを渡さなくてはね」


そう言うとアンナ王女は懐から一つの小袋を取り出して従者に渡した。

その袋を渡された従者はタマモにその袋を渡した。


「どうぞ」


「ああ、あんがとさん。さ〜て幾ら入って..」


そうしてタマモが袋の中を確認する為に覗くと動きが固まった。


「...........................................えマジで?えっと....こんなに貰ってええの?ウチ一度貰った金は絶対返さへんで。ほんまにほんまに貰ってええの?」


「ああ受け取ってくれ、そんな額私にとっては端金だ。それにはこの会議に参加してくれた君への報酬が入っている。私が参加して驚かせてしまったからな、前に言っていた額より少し色をつけさせて貰った」


「........えっと、まあそういう事ならこれは有り難く受け取らせて貰うで。うわ凄い額...」


後半は隣にいる俺ぐらいにしか聞こえない声量で、袋の中に入っている金額に対する感想を零した。

そんなに驚くなんてどれくらいの額が入っていんだ?

不思議に思った俺はタマモに耳打ちした。


(おいタマモもそれには幾ら位入ってたんだよ?)


(いや、やばいでユウ。この袋の中に白金貨ぎょうさん入っとるで!)


(えっ!そんなに!)


(やばいでユウ!ウチ白金貨なんて噂で聞いた事があるだけで実際には見た事ないで!やばいこんな大金持ってると考え始めたらウチ不安になってきた!)


タマモは受け取った袋を恐々と見ていた。

まぁタマモが動揺するのも無理はないな。

王国の通貨は、銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨の5種類がある。

それぞれの硬貨が100枚で上の硬貨と同様の価値になる。

大体銅貨一つでパンが買える。

一般家庭の月収銀貨30枚が平均だ。

大金を稼ぐタマモでも年収大金貨数枚いけばいい方。

そんなタマモが自身の年収の数百倍をポンっと渡されたら動揺するのも無理がない。

というかいくら王族とはいえそんな大金を気軽に渡せるなんて....

この女、どんな資金力してやがるんだ?



「さてタマモさんには会議が集まる前に渡したが、他の参加者の皆さんも後で事前に約束したお礼を渡すので安心してくれ」


動揺して震えているタマモをよそにアンナ王女は他の面子にも後でお礼を渡すと約束した。


あれっ?俺以外何かもらう約束してるの?

俺は特になんの約束もしてないんだけど....

いやいいんだよ、別にお金には困ってないし欲しいものは特にないからいいんだけど。

けどタマモがこんな大金を貰ってるのに、俺だけ何もなしなんて、なんか釈然としないな....


「おいタマモ、俺にも少しそれ分けろよ」


「.............」


「おい、こら。無視してんじゃねぇよ」


「.....................」


俺が肩を揺すって呼んでも、タマモはうんともすんとも反応しない。

こいつ....俺に金を分けたくないからガン無視してやがる!

ここまで露骨に無視するかな普通。

ちっ!

今はこれ以上呼びかけたら悪目立ちするからこの辺でやめとくけど、後で覚えてろよ。



「さて...そろそろ本題に入らせてもらうよ。今回この部屋の面子を集めたのは私エリザート=アンナだ。この部屋には私が選んだ表裏問わない若い実力者達が集まっている。そして君達に私はあるお願いをしたくて今回集めさせてもらった。しかしその事を君達に話す前に私は一つ聞きたい事がある。タマモさん、君は今この王国の現状をどう思う?」


アンナ王女は大金を貰いニヤニヤしているタマモに声をかけた。


「えっ、な、なんや?」


受け取ったお金を見てニヤニヤしていたタマモは話を聞いていなかったようで、何を聞かれたのか分からず困っていた。

仕方ないので、俺が何を聞かれたのかこっそり教えてあげた。


(タマモ今聞かれたのは、タマモが持つ王国への印象について)


(おおあんがとユウ助かったわ)


「えっとそうやなぁ...ウチは少し攻めた評価をするかもしれんで、それでも構わへんか?」


「ああ構わない、君の思っている事を正直に話してくれ」


「分かったわ王女様、それじゃあに言わせてもらうけどこの国はクソやな」


「...おう、いきなりキツイな」


「事実やからな。今は魔物、魔族の侵攻によって王国の様々な場所が甚大な被害が出とる。ちゅうのに王国の上層部は皆その現状を全く理解せんと私利私欲に走って貴族同士で自分らの利益だけを守ろうと共食いをしとる。しかもこの国の殆どの貴族らは獣人やエルフみたいな亜人を差別し、迫害しとる。この人類が一致団結せなきゃならへん時にこの国の貴族どもはホント何を考えとるんや...はぁ全くこの国のお先は真っ暗やな」


タマモは溜息混じりに王国への評価を話した。

確かにこの国の貴族は酷い。

自分達の利権を守るため相手を蹴落とし、貴族同士で潰し合いをしている。

そんな事をすれば国力を落とすなんて事は馬鹿でも分かりそうなもんだが。

だが貴族どもは自分の利権を守る事しか頭にないから国の事なんてお構いなし。

それにタマモのような獣人を代表する亜人はこの王国でかなり酷い目にあっている。

その為、この国に対して酷い評価をしたのだろう。


「おっと、少し正直に言い過ぎてしもうたかな。これじゃあウチなんか罰を受けてまうかな」


そういいながらタマモはケラケラと笑っている。

この国では貴族の権力が強く、貴族批判をしようものなら速攻で処罰される。

しかもタマモは命が軽視される獣人だ。

今は変装しているためバレてはいないが、もし捕まり獣人である事がバレ、今の発言が貴族に聞かれでもしたら死ぬよりも辛い目にあうだろう。

それなのにこうも軽い調子なのは今の発言が外に漏れてもどうとでも出来るという自信があるのだろう。

まぁ確かにタマモならどうとでも出来るだろ。

こいつには資金力だけじゃなく、確かな実力に加えてあれもある事だし。


しかしタマモの王国批判を聞いてアンナ王女は怒ると思ったが、逆に感謝をタマモに言った。


「ありがとう正直に話してくれて。そう今の王国はクソだ。このままでは遠からずこの国は魔物に滅ぼされるか内部分裂して崩壊してしまう。そうしたら何千、何万人の罪の無い民が死んでしまうだろう。私はそんな未来を変えたい、その為に今の王国に不満を持つ若き猛者達である君達を今回集めさせてもらったんだ」

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