豚の教え



 私はひとしきりあねを罵倒した。

『はひぃん……♡ ゆづきちゃんのばとうがここちよくて、おまたからお汁ぷしゅぷしゅするのぉ~……♡』


 電話の向こうから姉の淫らなあえぎ越えが聞こえてくる。

 性的な気持ちにはならず、ただただ不愉快だった。


 頭が性欲に支配されたこんな女に、対抗意識を燃やしていた時期が合ったことを、恥ずかしいと思う。


「で、なんですか豚?」


 私は忙しいのだ。


『えと……亮太君と、うまくいってる?』


 ……なんだこの豚は。

 確信をついてくるじゃないか。


「なぜ……そんなことを?」

『だって……ゆづきちゃん、わたしの電話に出たんでしょ? 普段だったらいつも狂ったように性行為してるときじゃ……』

「あ゛?」

『ひいい……! ありがとうございますぅ!』


 ……なぜお礼されるのかはさておいて。

 なるほど……頭がち●ぽな姉でも、馬鹿では無いか。


「ええ、豚の言うとおりですよ」

『お、お姉ちゃんのこと豚って……』

「なんですか? 不服でも?」

『もっと豚って言ってくだしゃい!』

「とんかつにでもなってろ豚」

『ぶひぃい!』


 ……こほん、と咳払いすると豚が続ける。


『ゆづきちゃん、どうしたの? セックスしないなんて』

「…………」


 どうしたの? だって。

 そんなの……照れくさいからにきまっている。


 でもそんな弱い部分を、この豚にさらすのはいやだった。

 マウントを取られたくないのだ。この豚に。


『そっか……愛情が芽生えて、恥ずかしくなったのかな?』


 ……は?

 な?

 は……?


「どうして……」


 思わずそうこぼしてしまう。

 だって私はまだほとんど何も言ってないのに。


『ゆづきちゃん。その気持ちは大切にしないといけないけど、秘めたままじゃ……取られちゃうよ?』


 ……豚のくせに、なんだか優しい声音で言う。

 それはそう、先に生まれたものが、後からくるもに手を差し伸べるような……そんな気遣いを感じた。


「……取られちゃうって、だれに?」

『わかってるんじゃないの?』


 ……わかってる。

 亮太君の、幼なじみだ。


 あいつは危険だ。

 一番のライバルだ。


『亮太君は……男の子だからさ。目の前に都合のいい女がいたら、そっちいっちゃうとおもう』

「都合……のいい」

『うん。流されやすいでしょ、彼?』


 ……そのわかってます感が、めちゃくちゃ気に障った。


「だ、黙れ豚! な、なにカノジョぶってるんですか!?」


 ……私が豚を罵倒しても。

 姉は……優しい声音で言う。


『もう、わたしはカノジョじゃないよ。ゆづきちゃんから、大切な人を取り上げる気はゼロだから、安心して』


 ……豚のように、あえがない。

 どこまでも安心させるような声。


 わたしの気持ちは落ち着いていた。

 ……ひさしぶりに、姉さんに、会った気がする。


『ゆづきちゃん。多分だけど、亮太君は四葉ちゃんとこいってるとおもうわ』

「! な、んで……?」

『性欲がたまってたんでしょう』


 ……確かに、今日わたしは亮太君とやっていない。

 彼はものすごい性欲を持っている。


 一日やら無いだけで辛いだろう。


「だからって……他の女のとこいかなくても……」

『ね? 何もしないとこのままじゃ、取られちゃうよ。亮太君、とっても流されやすいし。目の前に、めんどくさくない、やりたいときにやれる女がいたら……たぶん、そっちいっちゃうよ?』


 ……いやだ。


 いやだいやだいやだ!


 そんなの嫌だ!

 亮太君は、私のもの。


 私だけの亮太君だ!


「いや!」

『……うん。いやだよね。だからね……ゆづきちゃん』


 電話の向こうで、姉さんが言う。


『照れくさい気持ちはわかるけど……でも、口で伝えないとわからないよ? あなたが本当に好きになって、嫌われたくないんです。だから……拒んだだけなんです、って』


 ……一言一句違わず。

 私の心の中を。


 姉さんに……言い当てられた。

 出てくる言葉は、やっぱり。


「……どうして、わかるの?」


 すると姉さんは、苦笑しながら答えた。

 今日の天気を告げるように、当たり前のように。


『あなたのお姉ちゃんだからね』


ーーーーーーーーーーーーーーーー


【★お知らせ】



新連載はじめました。

読んでくださるとうれしいです。


【タイトル】

世界を行き来できる力を手に入れた俺が、異世界でチート無双し現実でスローライフを送った結果~いつの間にか【長野の神】になっていた!?~


【URL】

https://kakuyomu.jp/works/16817330652651126320/episodes/16817330652652450155


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る