完結しないタイプの短編軍団
横糸圭
FPS切り抜き
apaX legendSというゲームにて、最強の海外プロargumentはアジアの大会を観戦していた。
『アジアなんて見る価値あるのか? こいつらのレベル、相当低いって聞いてるんだが』
argumentと同じチームに所属するENGELがargumentに問う。彼はargumentに誘われて大会観戦に参加している。
『いや、俺もそこまで興味はないが、一応「carrots」の仕上がりは確認しなければいけない』
『お前ひとりで見りゃいいのによぉ……』
「carrots」は日本人で出来たチームであり、以前に開かれたオフラインでの世界大会では3位という実績がある。
3人全員がとにかく撃ち合いに強く、またその中でもIGL(※注:In Game Leader、司令塔のこと)のhuhuhumimimiは世界トップクラスだ。
ENGELは興味なさそうだが、あくびをかみ殺して観戦していた。
始めは20チームいたこの試合も、残るは10チーム。安置もかなり小さくなっており、次の安置収縮で一気にチーム数が減る。
『いい位置いるなあcarrots。これはこのまま勝つだろ』
carrotsがいたのは安置の中でも唯一と言っていい高台だ。戦いが起こったときにヘイトを買いにくく、なおかつ一方的に撃てるポジションはたしかに強く見える。
だが。
『まあ勝つのはcarrotsだろうな。だが、俺がもしこのマッチに参加してたら、俺が勝ってる』
carrotsの勝ちを信じている一方で、自分にはそのcarrotsに勝つ方法が分かると言うargument。
『……どういうことだ?』
思いがけない返答にENGELは聞き返す。
『実はな勝ちパターンが1つだけあるんだよ』
そう言ってargumentは同時に配信を見ているリスナーにもわかるように画面を止めた。
『いいか。まず俺の言う勝ちパターンには前提条件がある』
『前提条件?』
『ああ。それは、「今carrotsがいる位置が一番強いっていうことを残りの9チームが理解している」という条件だ。まあこれはENGELでも分かるから、アジアの人間でもさすがに分かるだろう』
『どういうことだコラ』
怒った口調のENGEL。だがそれを無視して、argumentは続ける。
『だからみんな何としてもあのポジションを取りたい。でも取りに行けない。何故だか分かるか?』
『そりゃ自分から戦いに行ったら他のパーティーに介入されるからだろ』
『そうだ』
argumentはマップが映った画面に矢印を伸ばしていく。carrotsがいるポジションにどんどん他のチームから矢印が伸びていく。
『だから最初に戦いに行ったパーティーは不利。しかも相手がcarrotsだってことも分かってるだろうから、なおさら戦闘は起こしたくない。あいつらは戦闘力もこの
『じゃあ結局だれも戦いにいけねえじゃねえかよ。carrotsが勝つじゃねえか』
『でもその絶対的優位を覆す方法が1つだけあるんだよ』
そう言ってargumentは画面を再生し直した。
そして安置収縮までの時間を見て一息ついてから、低い声で言った。
『俺だったらこの場合――ENGEL、お前ひとりをあのポジションに特攻させる』
『は、はあ?』
そしていきなり突拍子もないことを口にした。
『いや、なんで俺がわざわざ死にいかにゃいけねえんだ。さすがに俺でもcarrots相手に1vs3は無理だっての』
『もしかしたらbeamsも連れていかせるかもな』
『2vs3でも一緒だわ‼』
声を荒げるENGELに、しかし対照的に落ち着いた顔のargument。
『勘違いするなcarrotsとの撃ち合いの勝率を上げるためじゃない。全員で攻撃しにいったように見せかけるためだ』
『見せかける、だぁ?』
分かっていないENGELに、argumentはため息を吐いた。
『だから言っただろ?1チームがいったら、漁夫が来るんだよ』
『それがなんだって…………っておい、まさか、そういうことか?』
『ああ』
なにかに気付いた顔のENGEL。でも疑問は残る。
『で、でもよぅ、2人失うのはきついんじゃねえのか?』
『いや、最終安置に関しては人数有利はあまり効いてこない。どうせ5チームくらいの乱闘になるのだから』
『そ、そうか……』
ようやく理解を見せたチームメイトに、argumentはしかしもう一度ため息を吐いた。
『ただ残念ながらそれをできるやつはいないだろうな……』
『なんでだよ。思いつくやつはいるんじゃねえの?』
『違う。そりゃ思いつくやつはいるだろうさ。でも、実行するほどぶっ飛んでるやつはいない』
argumentのため息は、そんな理想のプレーを実行できる人間がいないことへの嘆きだった。
『そもそも周りのチームの位置を把握していないと出来ない。それから他チームの物資状況、戦略、考え、心理状態、レジェンド構成。そういったものを考えてタイミングよくいかないと無駄死にするだけだ』
『そ、そんなに考える必要があるのかよ』
狼狽えるENGEL。実は、argumentから提案を聞いた段階では「俺でもやれそうだな」と思っていたのであった。
しかしargumentがそのプレーに必要と考えていたのは、そういった能力だけの話ではない。
『そして何よりも重要なのは……自分のアイデアに100%の自信がないと出来ないという点だな』
argumentは静かに語る。
『この試合は大会の4戦目。ここでそんな
『まあたしかにそうだよな。俺でもこの場面なら2位狙いにするぜ』
『まあ俺も実際大会に出てたらそっちを選ぶだろうな。なんせここで無理をする場面じゃないし』
そう言って安置収縮までの時間を確認。残りは20秒。
『まあ俺なら残り15秒くらいでやるかな……』
諦めながらマグカップに口を付けたargument。
――しかし、その時だった。
1チームだけ、まさにargumentが言っていた「残り15秒」のタイミングで動き出した。
『な――っ⁉』
1人だけ残って、2人はまっすぐcarrotsの方へ向かう。グレネードで音をだし、そのまま突っ込んでいった。
「おーっと、ここでチームirohaが突っ込んでいったぁああ⁉」
argumentの見ている公式配信で、日本人の解説者が大きな声で驚いていた。
「全然分からない⁉ 何故突っ込んでいったんだ⁉」
理解不能、説明不可能。公式配信のリスナーも『ええええぇぇええええ』と驚きのコメントで溢れていた。
しかし間違いなく。
見ていた人間の中で一番驚いていたのはargumentだった。
(誰だ⁉ 誰がこんな発想をした⁉ マジでやるやつがいるか?)
頭では否定の言葉が出てきたが、しかし。
心臓の方は、これまでになく弾んでいた。
argumentの言っていた通り、carrotsのいた位置は戦火に包まれる。
しかしそんな中で、岩陰に潜んでいる選手が1人。
『nextCat……?』
奇妙な名前の選手。だがargumentの本能は、先ほどの選択をしたのは間違いなくこの選手だと感じていた。
顔も知らない。声も聞こえない。なのにとても冷静に動いているように見えた。まるでこうなることがわかっていたかのように、体を一切出すことなく遮蔽物に隠れている。
『ククク』
『ど、どうしたargument……?』
『怖いな。怖い。ああ、怖いさ。そうか、これが才能か。いやいや、そうかそうか、やれやれだぜ』
『お前の方が怖いんだが』
ドン引きしているENGEL。だがargumentの笑いは止まらなかった。
『――とうとう、俺より上手いプレイヤーが現れやがった』
argumentの画面では、1人で敵をなぎ倒して優勝を勝ち取るnextCatの画面が映っていた。
『ENGEL』
『なんだよ』
『練習するぞ。世界大会が楽しみだ』
『……いつになくやる気じゃねえか。しょうがねえな、付き合ってやるよ』
argumentは大会観戦をやめて、ランクマッチに戦場を移した。
もちろんまだ彼のプレーを見ていたい気持ちはあったが、この熱くなった感情を落ち着けるにはゲームをプレイするしかないと分かっていた。
(いつか一緒にプレーしてみたいな。あいつと)
そして彼らは、3か月後の世界大会で1vs1で戦い歴史に残る名勝負を繰り広げた。
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言うまでもないですがapex legendsの話です。本日1月23日はアジアで大会がありました。そしてそれを見た海外プロの切り抜きを見て、小説っぽくしようかなと思って書いてみました。
apexのルールが分かっていないと多少読みづらいと思いますが、どうかご容赦ください。すみません。すべてはこの表現力0.2レベルのアルマジロ作者のせいでございます。誠に申し訳ございません。
完結しないタイプの短編軍団 横糸圭 @ke1yokoito
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