落ちた、落ちた。何が落ちた?

黒糖はるる

落ちた、落ちた。何が落ちた?


A:おいおい、どこいっちゃったんだよ……。


B:ん、どうした?随分焦っているみたいじゃないか。


A:ああ、丁度いいところにいた。ちょっと手伝ってくれ。


B:は?急に何だよ。少しは説明しようって努力くらいしろ。


A:それは、その。……落としちまったんだよ、アレを。


B:アレ?


A:そう、アレ。



 それは突然、オレ達の日常を粉微塵に破壊した。


「これより我が国はトロン将軍の指揮下に置かれる!全国民は将軍と共に生き、共に死ぬのだ!」


 王様が何の前触れもなく退陣し、国を司る全ての決定権をトロン将軍が握ることになった。

 当然、オレを含めた国民全員が困惑した。これまで心優しい王家の血筋の者が国を導いてきたのに、いきなりちゃぶ台をひっくり返されたのだ。皆、これからどうなるのかと慌てふためいていた。


「まず全国民は番号で管理、生活状況から位置情報までチップで管理するため、これより順次インプラント手術を行っていく!」


 一体何があってこんなことになってしまったのか。訳が分からないまま、事態はどんどん先へと進んでいく。


 置いてけぼりにされていく国民。

 その国民をいいように扱っていく軍人とトロン将軍。


 だがオレは――



B:いや、アレって何だよ。


A:分かってよ!?何となく察してってば!


B:そんなになくしたらまずい物だったのか?


A:……うん、まぁ。


B:それならみんなで手分けして探さないとな!


A:わーっ!ちょっと待って、話を大きくしないで!冗談抜きで大変なことになるから!滅茶苦茶怒られるから!


B:怒られる……?あー……。


A:分かってくれた?


B:お前、アレを落としたのかよ。そりゃあ、確実に怒られますねぇ……。


A:な?頼むよ、ホント。黙っていてくれ、そして手伝ってくれ。お願いします!


B:仕方ないな……。それに早くしないとどうしようもなくなってしまうからな。


A:ありがとう……うぅ。感謝感激雨あられですぅ……っ。


B:あーっ!暑苦しい!さっさと探すぞ!



 トロン将軍は顔こそ怖いものの、悪事を働くような人間じゃなかったはずだ。それなのに今の将軍はどこかおかしい。


「貴様ら国民の働きぶりは我々が監視している!そしてその内容は逐一トロン将軍に届けられている!つまり、貴様らが陰で怠けている姿すらもお見通しという訳だ!」


 軍人を使役して、オレ達の生活を完全に監視下に置いている。

 犯罪の抑制に役立ってくれているのは結構なことだが、普段の生活や仕事ぶりまでチェックされるとなったらたまったものではない。

 そして何よりも、あらゆる情報をシャットアウトされたことが痛い。

 インターネットは当然のように使用不可、テレビやラジオも将軍が管理している局に一本化されてしまっている。


 まるで独裁国家。しかも前時代的な内容だ。いくら小国だからといっても限度があるだろうと言いたい。


 だがしかし、そんなくそったれな国家も今日でおしまいだ。

 一年前の弾圧から、オレはずっと今日のような日を待っていたのだ。


 多くの個人情報や思考が筒抜けの中、オレとその仲間達は秘密裏に示し合わせて反乱を起こすことにしていた。

 計画と呼べるようなしっかりとしたプランは存在しない。ただ、オレ達が先頭に立って国民を引き連れて将軍の居城に乗り込む。そして将軍を倒しかつての王族を主として再び迎え入れるのだ。


 あの日の、オレ達が享受していた平和を取り戻すために。


「みんな突き進めーっ!オレ達だけじゃない、他の地区でも国民は立ち上がっている!今、世界はオレ達に味方しているんだーっ!」


 声を張り上げ、国民を鼓舞して将軍の下へと一直線に突き進む!

 信じる道を、ただひたすらに!



A:やばい。全然見つからないんだけど……。


B:ったく、本当にこの辺りで落としたんだよな?


A:それは……多分。


B:多分だぁ!?それじゃあ最悪無駄骨でしたってオチがつく可能性もあるってこともあるってか?


A:う、嘘嘘。絶対、絶対この辺に落ちているはずだって!


B:じゃあそれを信じるとして……いつ頃落としたんだよ。


A:えーと、配られてからちょっとして……くらいかな?


B:結構時間たっているじゃないか!それだと下手するともう手遅れになっているかもしれないぞ!?


A:それは分かっているよ!だからこうやって焦っているんだよ!?


B:焦ってどうする。見つからなきゃ意味ねーだろ。


C:おーい。何が見つからないって?


A:だから配られたアレを落としたって言っているの!


C:アレっていうのは、私がみんなに配った種のことかい?


B:そうらしいんですよ。このバカ、それを落としたって――え?


A:うわわわっ!?先生!?



「トロン将軍!民衆が大挙して押し寄せてきます!反乱です!」


 部下が大慌てで私の部屋に駆け込んでくる。

 相変わらず想定外のことに弱いヤツだ。何か起こる度に狼狽えていて、そのわたわたする姿はコメディアンのようだ。しかしこれももう見納めなのだろう。


「知っている。それにいつかは起こるなんてこと、分かりきっていたではないか」

「しかし……っ!」

「私がした圧政、その報いといったところか」


 やはり一年そこらであの締め付けは無茶であったようだ。本来であればゆっくりと進めていくものを、王族と交代してすぐにあれだけ物事を変えてしまったのだから当然だろう。


「報いだなんて……。それは何も知らない国民が悪いんですよ!」

「いや、そうではないぞ。伝えなかった私が悪いのだからな」


 真実を伝えれば確実に大混乱が起きる。

 事実、経済発展を成した大国の殆どで暴動が起こり、国が崩壊している。こんな小国なら伝えたその日のうちに潰れているだろう。

 だから私達が汚名を背負ってでも隠し通し、解決までの時間を稼ぐ必要があったのだ。

 だが、もうその必要はなくなった。


「それに、結局私達にはどうすることも出来なかったのだからな。せめて最後の時くらい、彼らの意志を尊重してやろうじゃないか」


 真実を隠し続けて一年。

 私達や諸外国はあらゆる手段を尽くして対処したが、遂にはそれを止めることが不可能という結論に至った。


「さて、国民達の元に向かうとするか」


 殺されるだけだ、と部下が止めに来る。

 だがしかし、国民を騙し束縛してきたことにけじめをつけなくてはならない。


 それに最期くらい、国民それぞれと真っ直ぐ向かい合わなければ。



C:残念ですけど、落とした種はもう芽吹き始めました。


A:えぇ……。ちゃんとした場所にしたかったのに……。


C:ちゃんとした、どころか既に繁栄した場所に落ちましたよ。おかげで旧世代の生態系は完全に死滅してしまいました。


B:それってつまり、落とした種が星を滅ぼしちゃったってことですか?


C:その通りです。おかげで管轄の先生がとっても怒っています。Aはすぐに謝りに行くこと。おそらく今後はそこの管理を任されると思いますので、ちゃんと係の仕事をすることね。


A:分かりました!行ってきます!


C:まったく、返事だけは一人前なんだから。


B:ところで、どこに種を落としちゃったんです?


C:校庭の端っこにある銀河系の……太陽系第三惑星よ。


B:うわぁ、地味。


C:あんまり手入れしていないところだしね~。


B:あいつ、ちゃんと管理出来るのかなぁ?


C:ま、先生は見守ってあげるわ。





 大宇宙神話育成スクール 生物課

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落ちた、落ちた。何が落ちた? 黒糖はるる @5910haruru

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