⑦星辰の正しい刻

 ショゴスが倒れた先にあったのは、ルルイエを構成していたと思われる緑色のブロックが積み上がった壁である。

 その巨体が倒れることでブロックはばらばらに崩れていた。

 その並びは一見不規則なもののように感じられるが、信介はなぜかその並びになんらかの意味合いがあるような気がしてならない。


 緑色のブロックはぼんやりとした光を放つようになっていた。

 やがて、それぞれのブロックがそれぞれの光明に反応するように、奇妙な音を奏で始める。その音は金属音のようでいて、それとも違う奇妙なものだった。甲高い音からは耳をつんざくような不快感があり、野太い音からは耳に残り続ける痛ましさがある。


「なんだ、この音は気分が悪くなる!」


 信介は不快気に吠えた。

 それに対し、泰彦と実隆も同意する。


「そうだな、とっとと逃げよう」


 泰彦は早くも後ずさりしていた。


「もう、怪物はいないんだ。ルートはわかっている。急ごう」


 実隆もそう促し、三人は自分たちの足跡を辿り始める。

 そんな中でも、次第にブロックが鳴らす音が大きくなっていた。そしてそれに呼応するように地面の揺れも激しくなっていく。


「これは偶然か? 偶然だよな」


 信介は全身に巡る不穏な予感を振り払うように、声を搾り出していた。

 それに対し、実隆は無言になる。彼もまたなくなった右目がズキズキと痛み、今にもいつともわからない時の中で視力を戻そうとしているのを感じていた。

 泰彦だけは妙に元気が有り余っており、それでも不吉なことをぶつぶつと繰り返す。


「あれは話に聞いたことがある。緑色の得体の知れない石材。ルルイエの家の欠片なんじゃないか。

 それが地面の揺れとも呼応し、光り音を鳴らす。まさか、星辰が正しい時を刻んだとでもいうのか。まさか、まさか……」


 そこから先はさすがに口に出しはしなかったものの、その予想の行きつく果ては丹沢の崩壊。そして、邪神の復活だ。

 荒唐無稽に思えた泰彦の言葉がまさに実現しようとしていた。


 激しく地面が揺れる中、気持ちだけ踏み固められただけの帰り道を歩く。信介、実隆、泰彦の順で進み、どうにかショゴスに襲われた場所まで戻ってきた。

 その先には、泰彦が滑り落ちた場所があり、それをヒントにしつつも、どうにか登っていく。


 へとへとになりながらも、登山道まで戻ってくることができた。

 ここまで来れば一安心。そのはずであったが、もう事情が変わっている。

 揺れはどんどん激しくなり、立っていることすらままならなくなってきた。それでいて、揺れが収まる気配はまるでないのだ。


 三人はその場で身をかがめるが、そんな時、信介を奇妙な感覚が襲った。

 それは覚えのあるものだ。それはテレパシーだった。頭の中でクトゥルーの声が響く。

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