⑥地球周回軌道
「いやぁ、お二人さん、ご無事で何より。
今回はきっちり止めたぜ」
その声は泰彦のものだった。
泰彦は電磁放射装置を構えている。ショゴスの動きを止めたのは泰彦だったのだ。
イエローで揃えたジャケットとボトムズは以前と同じもののはずだが、全体的に
「お前、なんでここに!?」
信介と実隆の疑問が重なっていた。
それに対して、泰彦が答える。
泰彦は彼がぼやいていた通り、あるいは信介が予想したとおり、イタカに攫われていた。
洞窟から脱出して崖を降りた時、地面に着く際に霧の核であるイタカと目が合ったのだ。その瞬間に泰彦の身体は宙を舞い、瞬く間に大気圏を越え、地球周回軌道を巡っていた。
そのまま放置され、どれだけの時間を地球を眺めながら過ごしただろうか。それは何年にも何十年にも思えた。そんな場所で呼吸もせず、食事もとらず、生きていけているのが不思議だった。
やがて、その場所から真っ逆さまに地上へと落ちていった。
大気圏外から落ちていったにも関わらず、摩擦熱で燃えることはなく、一気に地面に叩きつけられたはずなのに、外傷はない。
ただ、全身に熱が漲るような、気怠い熱さを感じている。
落ちてきた場所が丹沢山付近の階段の上であることは、近くにあった看板を見て、すぐに気づいた。
泰彦は丹沢山へと急ぎ、山荘で現在の日時を確認する。そして、イタカに攫われてから少しも時間がたっていないことを知った。
泰彦に希望が生まれる。
山荘のマスターに信介と実隆の捜索届を出すことを依頼すると、自身もすぐに飛び出した。
二次遭難の懸念を考えないではなかったが、怪異が相手の場合、自分以上に役立てるものがいないという確信がある。
泰彦は記憶を手繰ると、洞窟から抜け出て登山道へと合流する予定の場所まで急いだ。
向かっている最中に地震が起きる。泰彦もしばし避難して様子を見るも、止まることはない。そうしている間にも信介と実隆が不測の事態に陥っていないかと不安に駆られた。
地震が止まない中、登山道を進む。そして、森の中にショゴスが現れ、木々を破壊している様子を目の当たりにした。
直感的に信介たちが襲われているのだと気づき、登山道から逸れる。未開拓の山中を滑り落ちるように急ぎ、その全身は傷だらけになっていた。
無我夢中で走り、ついにショゴスが信介と実隆に襲い掛かる場面に出くわした。
咄嗟に電磁放射装置を取り出すと、ショゴスに向けて撃ち出す。
これが泰彦の話した内容であった。
話を聞きながら、信介は激昂する。
「お前はバカか! なんで戻ってきてんだよ!
山小屋で待ってりゃよかったんだ」
しかし、その声はどこか震え、涙ぐんだものになっていた。
「そんなことより、ここから抜け出そう」
三人はショゴスを刺激しないようにゆっくりと歩き始める。
ザザっとショゴスが一瞬震えた。ビクッとして、ショゴスの様子を注視するが、すぐに動きは止まる。
一息つき、再び歩き始めた時だ。
地に伏していていたショゴスが一瞬にして膨れ上がる。その高さは十メートル以上にもなっている。
「走れ!」
誰となく号令をかけ、三人は一斉に走りだした。
ズササササァッ
だが、すぐにショゴスは動く力を失い倒れ込んだ。
再び安堵のため息を吐いた彼らだが、それと同時に何かが倒壊する音が響く。
ルルイエの家を想起させる、緑色の壁がショゴスによって崩されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます