②西園寺泰彦
「一つ言わせてもらいたいんですけどね。俺は山岳調査の専門家になんて、なったつもりはないんですよ。
ミスカトニック大学に従って、たったの一回、調査に付き添っただけです」
信介はどうにか抗弁しようとするが、坊主は信介を促して、客室の奥の席に座らせた。そうして、自分は手前の席に座る。
「まあまあ、呼んだのはこっちなんだから、まずは話を聞いてくれよ」
そう言われて、信介も少し落ち着く。話を聞くのも面倒という気持ちはあるが、呼び出されている以上、聞かないわけにもいかないだろう。
改めて、坊主の顔を眺めてみる。眉毛が太く、目がキラキラと輝いている。柔和で物腰の柔らかい印象の顔つきであり、坊主らしいともいえるが、反面、坊主らしい厳格さは皆無に思えた。
背丈はあまり高くなく、どちらかというと、ずんぐりむっくりしている。がっしりした体型といえば聞こえはいいが、修行でもっと体格が絞られるものではないのかと、少し疑問に感じた。
そして、想像していたより、顔つきから察するにだいぶ若いように感じる。信介と同年代か少し上くらいだろうか。
「自己紹介しておこう。俺は
泰彦と名乗る坊主は初対面だというのに、随分と砕けた物言いで話してくる。しかも、思った通り、そんなに年齢も離れていないようだ。
そうなると、泰彦に対して慣れない敬語で話していたのが馬鹿らしくなってくる。
「それでね、うちの寺に妙な相談が持ち掛けられてくるんだ。それも同じような話が何件も。全部別の人物からだぜ。ちょっと信じられるかい?」
泰彦の話は続いていた。
その問いかけるような言葉に対して、信介は肩をすくめる。今の話だけでは、なんとも判断のしようがない。
「それはさ、夢に関する話なんだ。怪物が出てきたり、得体の知れないものに攫われたり、後味の悪い悪夢なんだとさ。
そして、決まって舞台になる場所があるんだ。それが、どこかわかる?」
信介はギクリとした。
似たような夢は信介も毎晩のように見ていた。奇妙な怪異にさらされ、得体の知れない怪物の影に怯え、そしてどこへともなく連れ去られる。
そして、その山容や山道を思い出して導かれる場所は……。
「……丹沢か」
信介がぼそりと言葉に出した。
それを聞き、泰彦がキョトンとした顔で信介を見る。その笑顔の奥で眼光が光ったかのように見えた。
「まさか、信介。君も同じ夢を見てるの?」
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