第一章 パーティ結成
①怪僧
知らない人物からだったが、ミスカトニック大学の関係者だというので、断ることもできない。
信介としてはミスカトニック大学にいい感情はなかった。
ミスカトニック大学はマサチューセッツ州アーカムにある教育機関であるが、アメリカ国内はおろか国外でも高い影響力を持つ名門大学である。ミスカトニック大学の研究機関は世界史に大きな足跡を残すほどの成果を上げているし、輩出した人材は政界、実業界を問わず一流揃いだ。
だが、何かと黒い噂の絶えない大学でもあり、陰謀論者や神秘主義者でなくとも眉をひそめたくなるような教育が行われているともいわれる。魔女を育成しているなんて話があるくらいだ。
しかし、信介にはミスカトニック大学との直接的な接点があった。
かつて、ミスカトニック大学の教授が率いる探索隊に現地の案内役として加わり、悲惨な目に遭ったのだ。結果として、教授とその助手は正気を失い、信介自身も思い出したくもないほどに壮絶な経験をした。
ミスカトニック大学からの呼び出しに、いい思いは抱けなかった。
そうは言っても、ミスカトニック大学には権威がある。周囲からの圧力は無視できないほどに強く、信介といえど無碍にすることはできない。
信介は不機嫌さを隠さないまま、大学構内の客室に向かっていた。
信介の目の前に異質な光景が飛び込んできた。あまりのことに、ギョッとする。
客室の前にお坊さんがいた。髪をすべて剃り、黒い衣をまとって、黄色い袈裟を掛けている。その足には草履を履いていた。
周囲の学生たちはチラチラと横目に見ながらも、関りにならないように避けて歩いている。
信介も気持ちは一緒だ。だが、目的地である客室の前に立っている。近くに行かないわけにもいかない。
「やあ、君が信介だろ?」
あろうことか、お坊さんが声をかけてきた。親し気というか、妙に馴れ馴れしい口調だった。
信介はできるだけ表情を出さないように気を遣いつつ、最低限の挨拶をする。
「……ぅす」
か細い声が出た。だが、それで問題なんてないだろう。
そう思い、もはやお坊さんのことは無視して、客室の扉に手を掛けた。
「君を呼んだのは俺だよ。そう、つれなくせんでくれ」
坊主が話しかけてくる。もう逃げられないようだ。
というか、ミスカトニック大学の関係者というのが彼であるというなら、もはや関わらないという選択肢は取れない。
「君が山岳調査の専門家だと聞いてコンタクトを取らせてもらったんだ。
まあ、話だけでも聞いてくれ。さあ、入った入った」
自分で呼び止めておきながら、坊主は信介を客室へと押し込めていった。
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