婚約破棄ねぇ……。 えっ、破棄されるの俺なの?

きりんのつばさ

第1話

 今日は魔法学園の卒業パーティー。この学園を卒業したあと、親の跡を継ぐものもいれば、そのまま婚約するものもいて皆別れが悲しいのか楽しそうに話している。この後は国王陛下が参列されて学園での成績優秀者の表彰式。優秀者は国王陛下から直々に表彰される名誉を受けることになる。


「ーーティア・ボルクス!! 貴方との婚約を破棄させていただきます!!」


 皆が楽しく談話をしている中、いきなり響き渡る女性の声。


「はっ?」


 俺ことティア・ボルクスは婚約者であったライナ・アーカドからその様に告げられた、しかも皆の前で。いきなりの告発で皆がこちらを向く。そしてライナの隣には俺ではない別の男子生徒が彼女を守る様に立っていた。確か記憶だと辺境貴族の息子のクリス・イーステンだった気がする。その男は俺からライナを守るかのように前に立つ。姫を守る騎士の気分を味わっているのだろうか。


「はぁ……ライナ、一応さその理由を聞いてもいいか?」


 突然の事で頭が痛くなってきたが、目の前の婚約者の話を聞くことにした。


「貴方、自分が何をしたのか分かってないのかしら!!」


 ライナがそう言うと隣に立っている男子生徒は深く頷く。分かっていたら聞いてねぇよ。


「いいわ、丁度ここには皆がいる。ここで話して証人になってもらうわ。

ーーまずは貴方は私に暴力を振るった!! 自分の思い通りにならないとすぐに手を出して!!」


 と俺が今までしてきた? 悪行を皆の前で声高々に言うライナ。どれもこれも本来なら婚約破棄されても仕方ないぐらいの物だったが、俺にとってはどこ吹く風だった。


(何1つやってないんだからなぁ……)


 そもそもそれを言うならライナこそ自分の思い通りにならないとすぐ癇癪を起すタイプの人間だ。しかも途中から俺の悪行から俺の悪いところに内容がずれていった。

やれ“魔力が弱すぎる”や“性格はお人好し”等々挙句の果てには“顔が平凡”と言われた。確かに辺境貴族の息子よりは顔は劣るだろうがそれをわざわざ言わないで良いと思うのは俺の気のせいか? 隣の男はうんうんと頷いている。俺は馬鹿馬鹿しくなりため息をつきながら口を開く。


「で、話は終わり? 俺まだパーティのメニュー全部食べれてないんだけど」


「私と料理どっちが大事なの!!」


「料理に決まっている」


 俺は迷わず告げた。

 学園の食堂のおばちゃんが作る料理が俺はとても好きだった。その食事とも今日でお別れとなってしまう、ならその前で沢山食べないといけない。


「それに比べてリオン君は優しいし、魔力もあるし、顔も良いし


「お前、彼女の話を聞かないのか!! やっぱりライナの言う事は正しかった!! このクズめ!!」


「俺を悪者にしたいクリス君、口の利き方に気をつけろ。この学園で最低限の礼儀ぐらい学んだろ? 俺の名前はティア・ポルクスだ“お前”ではない」


 と俺が軽く睨むと、さっきまでの勢いはどうしたのやら怯えた表情になった。そう言えば金髪碧眼の一応顔だけは整ったこの男子、それ以外は目も当てられないレベルでの馬鹿だったのを思い出した。俺が睨むと同時にライナは目に涙を浮かべてクリスの後ろに逃げる。


「嘘よぉ!! 優秀な私に嫉妬したんでしょ!! 婚約者の私の方が優秀なのが嫌だったんでしょぉ!!」


 ……うわぁ、来たよ彼女の得意技、嘘泣き。こいつ昔から自分が悪くなるとすぐに嘘泣きをするのである。いい加減見飽きたというかこの女はこれ以外得意技無いのかと思うと呆れてしまう。ライナの嘘泣きを見て、これを好機と思ったのかクリスは震えながらも指を俺に向けた。


「お、お前……男として恥ずかしくないのか!! お、女に手をあげるとは!!」


 君は独自の意見を言えないのかよ。


「人に指を指すなって学園……いやもっと前に習うよな普通、うん」


「お、俺を馬鹿にしているのか!!」


「そうよぉ、貴方よりもクリス君の方が優秀なんだかぁ!!」


“クリス君の方が優秀”

その一言を聞いて思わず失笑してしまう僕。


「優秀ねぇ……今回の成績優秀者、俺なんだけど」


「「へっ?」」


「だ・か・ら成績優秀者は俺なの。

ーーそうですよね先生?」


 いきなり話を振られた先生は少しびくっとしたあと、手元にある成績優秀者の名前を告げる。


「え、えぇこの学年の成績優秀者はティア・ポルクス君です、ライナ・アーカドさんは表彰範囲外です」


 成績優秀者は事前に教師陣から通知をもらっているので自分が表彰されるのを知っている。先生がそう告げるとライナはあり得ないといった表情で叫ぶ。


「う、嘘よ!! だって貴方、自分であまり勉強は出来ない方だって言っていたじゃない!! それに私が範囲外ってそんなのあり得ない!!」


「あぁ俺は天才タイプの人間ではないからね。人の倍、何倍も努力してやっと他の人と同じスタートラインに立てる。それにお前にずっと馬鹿にされてきていい加減頭にきていたのもあってな、お前に隠れて努力し続けたんだよ俺は」


 ライナは俺と会う度にやれ“私の方が優秀”とか“貴方の頭で私の夫が務まるの?”なんて鼻で笑いながら言っていた。俺は表面こそ普通に接していたがずっと内心はらわたが煮えくり返る気持ちであり、寝る間も惜しんで努力し続けた。確かに彼女は優秀だったが、自分の才能にあぐらをかいていた結果、俺に抜かされていたという訳である。呆気に取られている彼女に俺は続ける。


「それにさっき言っていたよな“俺は魔力が弱い”と」


「事実じゃないの!! 隣にいるリオン君の方が強い!! やっちゃってリオン君!!」


「おう!! 頭が良いぐらいで調子に乗りやがーー

ーーうがっ……!!」


「きゃっ!!」


 突如、ライナとリオンは上から何者かに押さえつけられたかのように四つん這いの状態になった。頭を何とか上げたライナは俺の方を睨んでくる。


「な、何よこれ……!! この魔力の圧は……!!」


「俺の魔力だ、最近ようやく自分の魔力をコントロール出来るようになってな、それまで俺はこの腕輪で魔力を抑えないといけなかった」


 と俺はさっきまでつけていた腕輪を見せる。幼い頃から俺は魔力をコントール出来なくて、そのため周りに危害を加える可能性を恐れた両親から渡されたのがこの腕輪である。なので幼いころからこの腕輪をずっとつけていたのだが、最近ようやくというかやっと魔力をコントロール出来るようになったので両親から外すことを許可もらった。まぁ外す機会が無かったのでいままで付けていたのだが、まさかこのタイミングで外すとは思わなかったが。


「ちなみにその腕輪は装着者の魔力を10分の1にまで抑える、今は全魔力の3分の1を出したのけど……まっお前達起き上がれないみたいだがな」


 コントロール出来るようになって自分の魔力を的確にコントロールできるようになったので、目の前で起きていることも出来るようになった。


「な、何よ……!! そんなの聞いてないわよぉ……早くこの魔力の圧をやめさせなさい!!」


「へいへい、分かったよ」


 俺は放出していた魔力の出力を抑えた。するとさっきまで苦しそうにしていた2人は荒い息を吐きながらも立ち上がった。


「--何の騒ぎだ」


 突如、会場に響き渡る凛とした声。会場にいた全員が声のした方を向く。


「ランジュ王女……!?」


 そこに現れたのはこの国の国王の娘である王女・ランジュである。俺達よりも歳こそ下だが威厳のある見た目や立ち姿から年上のように感じる。彼女はゆっくり堂々とした歩みでこちらにきた。


「ランジュ王女、私の許婚が愚かな騒ぎを起こしてしまい申し訳ございません」


「ティア・ポルクス、お前は許そう。お前は何も悪事を働いていない」


「はっ、王女の寛大な処置に感謝致します」


 俺は王女に向かって深々と頭を下げた。王女は俺のその様子を一瞥すると、ライナ達に向けて口を開く。


「ライナ・アーカド、クリス・イーステン、両名には無実の罪で他者を貶めた罪がある。覚悟するがいい。

そしてだな、ライナ・アーカドよ」


「な、何でしょうか……?」


「先ほど裏で聞いていたのだがティア・ポルクスと婚約破棄したそうだな?」


「え、えぇそ、それが何か?」


「ならよし、本日を以て、ティア・ポルクスを我が夫にする。彼は、また私が女王の座についた暁には国王となる者である。

ーーティア・ポルクスよ、異存はないな?」


「はっ、この身全て血の一滴から髪の一本に至るまで貴女とこの国のために捧げましょう」


 と俺は王女から差し出された手を握った。


「ってことだ、本来なら俺から言おうと思っていたので言うか」


 と俺は少し息を吸って、呼吸を整えた。そして……


「ライナ・アーカド、お前との婚約を破棄する」


「み、認めない!! こんなこと認めない!!」


「お前が認めるとか認めないとか興味ないんだが……」


「そこの不届き者を捕獲しなさい」


「い、いや離しなさい!! ティア貴方私の婚約ーー」


「その男は貴方の婚約者だ。今は私の婚約者である。

お前には脅迫罪その他諸々、そして隣の男は女の行動を諌めずむしろ唆した教唆罪。仲良く牢獄で反省せよ

ーーなに時間はたっぷりある、牢で仲良くするがいい」


「ふぅ……終わった」


 ライナと男が兵士達に連れて行かれるのを見て順序こそ違ったが、当初の目的通りに物事が進んでくれてほっと溜息をもらす。卒業パーティーの会場は最初こそライナからの婚約破棄から俺と王女ランジュの婚約報告会に変わった。殆どの人が俺と王女の婚約を祝福してきてくれた、まぁみんな王女に近づくのが恐れ多いのか、大体俺に言ってくる。そんな中王女から手招きをされたので王女の方に向かう。


「何でしょうかランジュ王女」


「ティア・ポルクス。私は先に戻る、お前は学友達との談話を楽しむがよい。だがお前には今回の件で聞きたい事がある、パーティーがあとで別室に来るがよい」


「かしこまりました」


 


 王女の言われた部屋に向かうと、ランジュ王女が座っていた。たださっきの会場での堂々とした態度ではなく、俺が来たと分かった瞬間、顔をパァと輝かせてこちらに向かって早歩きできた。


「テ、ティアお兄ちゃん……わ、私頑張りました」


 俺を“お兄ちゃん”と言うのは先ほどまで王女の威厳を見せていたランジュが物欲しそうにこちらを見てきた。。彼女は俺の事を二人きりの時は“お兄ちゃん”と呼ぶ。


「ありがとうラン」


 そう言いながら俺はランジュ王女ーーランの頭を撫でた。頭を撫でると彼女は気持ちよさそうに目を細める。俺もランと2人の時は呼び方を変える。


「えへへ……」


 実は俺とランの関係はライナよりも付き合いが長い。幼い頃から人見知りが激しかった彼女は自分の親ーー現国王と王妃以外とは話せなかったのだが、何故か俺にはなついた。そのため現国王夫婦から


“娘の婚約者になってくれ頼む!!”


と立場が逆なはずの国王から頭を下げられる俺の両親はかなり困惑したらしい。

なんせ既に俺にはライナという仮だが許婚がいた。最初こそどうやって国王からの頼みを断るのかを考えていたのだがあまりにもライナが俺に対する態度が酷いのと、それを諫めることをしない彼女の家に対して徐々に情を失っていき、直る見込みがないと判断した両親は国王からの誘いを受け入れた、そして今日の件になったのである。


「ライナ達はこれからどうなるんだ?」


「発端の2人はさっき言ったけど牢屋。

2人の実家は2人を止めなかったから領地の削減で済ませようと思ったのですが、両家とも叩けば叩くほど悪事が出てきて、これから本格的な追及が始まります」


 確かに両家ともあまり良い噂を聞かなった家だったので本格的に調べられたら、それはもう凄い事になるだろう。まぁもう俺は関係ないが。


「あらあら、大変だこりゃ

ーーあっ、そう言えばさティラミス食べる? さっきのパーティー会場から取ってきた、他にもいくつか食べ物取ってきた」


 と俺は手に持っていたバケットの中身をランに見せた。そこにはティラミス以外にもラザニアやローストビーフ、サラダ等、俺が食べている中で気に入った料理を入れたのである。中の料理を見たランは目をキラキラと輝かせた。


「美味しそう……食べましょう。お皿は……」


「バケットの中に入っているから大丈夫」


 俺はバケットの中に入っている皿とフォークを見せる。


「ありがとうございます……さぁ食べよう」


「あぁそうしようか」


 と俺達は2人でパーティーの料理を楽しむのであった。


 





 あれからどうなったのかの簡単な結末を話そう。

俺は次期国王としてランと結婚した。ただ現国王はまだ現役なのと俺がまだ未熟なのもあってまず王族としての教育を受けることになった。ただ思いのほか俺が飲み込みが良かったのか当初3年で考えられていた教育も1年で終わる予定とのこと。

“お兄ちゃん優秀……すごい!!”

とランが凄い羨望の目を向けてきた。そんな事もあってか国王からは教育が終わったらすぐにでも継ぐかという打診があったが流石に断った。理由はというと流石にまだ経験が無さすぎるのとランから2人でいる時間が欲しいと言われたのでそれを国王に伝えて、了承を得た。



 そしてライナ達は、一緒の牢で反省を促したつもりだったが、お互いがお互いに罪を擦り付け、最後には掴みあっての殴り合いになったわ。女に手を出したとして非難していた割には自分は手を出すんだと思わず笑ってしまった。そして最終的にはライナは学園から遠く離れた森の修道院に、クリスは国境付近の衛兵に飛ばされることが決まった、今まで見た目で生きてきた彼らがどこまで耐えられるかある意味楽しみである。

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婚約破棄ねぇ……。 えっ、破棄されるの俺なの? きりんのつばさ @53kirintubasa

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