第169話「うるわしい山とうるわしい水」

うるわしい山とうるわしい水とを、いくら見ても見たりることがない。私は乗馬のひづめをせきたてて、月明かりの中を今ようやくに帰っていく。私の心はいつものように落ち着かずに波立っている。そのわけを言うことは私にはできない。けれども一つだけ言うことができる。それは私がこの世に生を受けて以来、ただ一度しか知らなかった感情が、ふたたび私の心をとらえたということである。私はこれまでどんなことも、何物にも動かされなかった。だが今こそはっきり言えるのだ。もし私がその人に出会わなければ、あるいはその人が私の前に姿をあらわさなければ、私の一生はまったく違ったものになっていたであろうということを。

しかし、それはまた別の話である。いま私が考えなければならないのは、これからどうするかということだけである。とにかく、私もいつかは死ぬだろう。そのときまで、私はこの世で自分のやるべきことをしなければならないと思う。そして私にできるかぎりのことをするだけのことだ。なぜならば、それが神から与えられた私の使命だからである。

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