第163話「君のことを考えると、涙がとめどなく落ち、東に流れる水のようだ」

君のことを考えると、涙がとめどなく落ち、東に流れる水のようだ。花は昔ながらに年々咲いているが、いったいだれのためにだろう。ぼくはもう若くないのだろうか。

「ああ」

そう言って、また花を見た。そして言った。

「しかし、ぼくにはよくわからないなあ」

「何が?」

「つまりね……ぼくも君と同じように、自分のことで頭がいっぱいだったわけだ。君を好きになってしまってからというもの、ほかのことはどうでもよかったんだ。君とつきあうようになってからは、ほかのことは何も考えなかったよ。だから、君の気持ちなんか全然わからなかったんだな。そんなことじゃいけないって、あとで反省したけどさ。でも、今は、君の気持ちがよくわかるようになった。それで、今度はぼく自身のことが心配になったんだよ。これから先、ずっとこんな調子でいいのかなって思ったら、なんだか不安になってしまった」

「そうねえ……」

「君と一緒になったとしても、ぼくはきっと君よりも年下になると思うんだ。それが心配だよ。君はいくつになってもきれいだけど、ぼくのほうが先に老けこんでしまうんじゃないかなあ」

「あら、わたしはそんなこと気にしないわ。あなただってまだ若いんですもの。それに、わたしはあなたより長生きするつもりよ。だから、大丈夫じゃない? ほら、うちのお祖母ちゃんなんて、九十三歳なのに、とても元気でしょう。あんなふうに、わたしたちも頑張ればいいのよ」

「そうだといいんだけどね。とにかく、ぼくは君のそばにいるだけで幸せな気分になれる。その幸せがいつまでも続くようにしたいと思っているんだ。でも、それだけではいけないような気がする。もっとしっかりしなければだめだと自分に言い聞かせているところなんだ」

「あなたらしいわね」

彼女はくすっと笑った。

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