第162話「短慮軽率」

よく考えもせず、軽々しく行動すること。軽はずみで思慮が足りないこと。その即断は短慮軽率のそしりを免れないだろう。

「あなたに責任はないわ」

と、亜紀は言った。

「いや、そうじゃないんだ。あれ以来、ずっと考えていた。どうしてあんなことをしたのかってね。おれは馬鹿だったよ。きみのような女性なら、自分の子供を産んでくれるかもしれないと思ったんだ。だが、そんなことはあり得ない。だから、せめてこの手で守ろうと思った……だがそれも間違いだな。おれは、自分が楽になることしか考えていなかった。子供なんかいないほうがいいと思っていた。それが現実になっただけだ」

ラウルはため息をついた。

「でも、あの子はわたしの子供です」

「そうだな。おれが生みたかったわけでもない。ただ、あの子には父親が必要だ」

「それで、あなたはどうするんですか?」

「さあな。またどこかへ行ってしまうかもな」

「わたしと一緒に行きませんか? あなたさえ良ければ」

ラウルは驚いたように顔を上げた。

「一緒に?」

「ええ」

「なぜだ?」

「それは……わかりません」

「わからない?」

「はい。でも、あの子が一人になると思うと心配でたまらないのです。誰かそばについていてあげなくては」

「わかった。行こう」

ラウルは立ち上がった。

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