第160話「君子は交わり絶ゆとも悪声を出さず」

「立派な人は、人と交際を絶つことがあっても、後にその人の悪口は決して言わない。君子は交わり絶ゆとも悪声を出さず。しかし、君はそうではないらしい」

「いや、私も、まさか……」

「嘘をつけ。君は今、私のことを言ったのだぞ」

「そんな、私は……」

「私は何だね?」

「あなたが……」

「私がどうした? はっきり言いたまえ」

「…………」

「黙っていてはわからんではないか」

「…………」

「君は嘘をつくのかね」

「つきません」

「では、正直に言うんだな」

「はい」

「それなら、私の悪口を言え」

「申し訳ありません。それはできません」

「なぜできない?」

「私は、先生のご指導によって、正しい道に進もうとしているのですから」

「ほう、なるほど。それで、君は私を嫌っているのか」

「いいえ、とんでもないことです」

「それなら、どうして私の悪口を言えないのだね」

「だって、私は先生のお世話になっている身ですし……恩人を悪く言えるわけがないじゃありませんか」

「なるほど、なるほど。君の心根はよくわかったよ。君は実に純真で真面目な青年だ。私は君のような弟子を持って大変嬉しい。だがね、もし、この先、私が過ちを犯したり、道を誤ったりしたら、その時こそ遠慮なく言ってもらいたいものだ」

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