第159話「どの面下げて」
「どの面下げて、どんな顔つきをして、何の面目があって、よくも恥ずかしくもなく、来たものだな」と、一弥は烈火のごとく怒っていた。
だが、一弥は、さっきからずっと考えていたことがあったのだ。
(そうだ……)
ヴィクトリカに、聞かなければならないことがある。
そのことに思い至り、ヴィクトリカを見下ろした。ヴィクトリカが不思議そうに見上げてきた。
「……あのね、ヴィクトリカ」
「なんだ?」
「ぼくたちが、お昼ご飯を食べているときだよ。君、言っていたじゃないか。『わたしは、君より年上なのだ』って」
「うむ……?」
「あれはどういう意味なのかなって、ずっと気になっていたんだ。だって、君はどう見ても十歳ぐらいにしか見えないし。それに君の年齢を数えてもしょうがないよ。だから、もしよかったら教えてくれないか?」
ヴィクトリカがあきれたようにため息をつく。そしてちいさく肩を落とした。
「……そういうことか。まあ、いいだろう。わたしは確かに、君よりも年上だ。正確に言うなら二百六十五年ほど年上だ」
「……えぇっ!?」
一弥はびっくりして飛び上がった。ヴィクトリカは面倒くさそうな顔をしている。
「そんなに驚くようなことかね? わたしは『死者』だぞ。この世のものではない。ただ、人間の魂というやつは、死ぬときに肉体から抜け出してさまようらしいのだ。そこで肉体と精神の結びつきである脳というものが残るわけで、わたしはその脳がたまたま人間と同じ形をしていただけのことだ。べつに特別な存在ではない。まぁ、少しばかり知識はあるがね」
「そ……そうなんだ」
「ちなみに、肉体から抜け出たわたしの意識というのは、いまは記憶としてしか残っていないが、もともとそれはわたしではなかったのだ。つまり、わたしはわたし自身ではなく、ある男の記憶の一部分だったということになる。男は昔、別の世界で生きていたのだが、あるとき肉体を失い、その記憶だけになってさまよい始めた。そしてこの世界にやってきた。その男が、この世界のどこかにいるはずだ。わたしはその男のことが知りたくて、旅をしているのだ」
「へー……」
一弥は感心した。
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