第124話「明明たる上天。下土を照臨す。」

明明たる上天。下土を照臨す。明かなる天の神は、常に下界を照らし下界に臨んで、われわれを監視している。人は悪いことをすれば必ず罰せられ、善いことをすれば必ず認められる。とは言うが、現実はどうか。神仏の加護などというものはないのだ。もしあるとすれば、それはただ一つしかない。人の努力である。この世はすべて、人間の力で動いている。その人間が、自らの力によって幸せになり、あるいは不幸になるのだ。自分の力で道を切り拓き、自分ひとりで生きていくほかないのだ。

「お兄ちゃん」

と、妹の声がした。

「何だ?」

「あたし、学校に行きたくないよ」

「どうして行きたくないんだ?」

「だって、学校は嫌いなんだもん」

「そうか……でもなあ、行かないわけにはいかないんだよ」

「どうして? 勉強なんてしなくてもいいじゃない」

「そんなこと言ってると、先生や親父さんに叱られるぞ」

「だったら叱られてもいいから、学校になんか行きたくないもの」

「駄目だよ。勉強しないとお前、大学にも行けなくなるんだぞ」

「大学は行くつもりだけど、今すぐじゃなくていいわ」

「何を言ってるんだ! もう十月も終わりじゃないか。十一月には試験があるんだろう?」

「そうだけど……」

「とにかく、今日は学校に行くんだ」

「嫌!」

「我を張るんじゃない」

「嫌なものは嫌よ」

「わがままを言うなってば」

「わがままじゃないもん」

「じゃあ、どうするんだ?」

「行かなきゃいいじゃん」

「そういうわけにはいかないだろう」

「どうして? 別にどこへ行ったって構わないでしょう?」

「そりゃそうだが……」

「だったら、学校へ行く意味がないと思うんだけど」

「そうかもしれないけどさ……。とにかく、早く支度して学校へ行きなさい」

「絶対に行かない」

「仕方のない奴だなぁ」

兄は溜め息をつくと家を出た。

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