第118話「幼い姉妹の庭」
涼しげな月が出ている夏の夜、風が吹くと、茂った夏の木の葉がいっせいに揺れ、月の光を受けてきらきらと輝いている。その庭に面した座敷で、わたしは一人でぼんやりとしていた。先ほどまで、父と母がいたのだが、二人とも忙しそうに出て行った。今夜はお客さんが来るのだそうだ。わたしにはよくわからないけれど、大人の話だから、子供であるわたしは口を挟まない方がいいらしい。それにしても退屈だ。さっきからずっとこうして座っているだけなのだ。でも、仕方がない。今日一日、わたしは大人しくしているように言われている。しかし、そろそろ限界だった。もう我慢できない。わたしは立ち上がった。こっそりと部屋を抜け出すつもりだった。ところが、そのとき誰かが廊下を歩いてくる気配を感じた。まずい。このままでは見つかってしまうかもしれない。
しかし、わたしの心配はすぐに消えた。やって来たのは、妹の亜希子ちゃんだったからだ。彼女はまだ小学生なので、わたしたちのように大人たちと一緒にいる必要がない。遊び相手もいないはずだ。それで、暇を持て余して散歩をしていたのだろう。亜希子ちゃんの方も、こちらに気付いたようだ。彼女は嬉しそうな顔をした。そして、わたしと同じように、縁側に腰掛けた。
わたしたちはしばらく無言のまま一緒にいた。亜希子ちゃんはまだ7歳だが、すでにわたしよりもしっかりしていた。いつも明るくて元気だし、頭もいい。わたしなんかよりよっぽどしっかりしていて頼りになる。だからといって甘えるわけにもいかない。妹なのに姉らしく振舞わなければならない。それがつらかった。せめてこの子がもう少し小さかったらいいのにと思う。そうしたら、二人で仲良く遊んでいられたはずなのだ。不意に亜希子ちゃんが口を開いた。
「ねえ、お姉ちゃん」
わたしは首を傾げた。声を出すことができないから、彼女の言葉を聞くことしかできなかった。亜希子ちゃんは気にせず続ける。
「あのね、あたし知ってるんだよ。お姉ちゃんが病気だってこと」
わたしはどきりとした。まさか亜希子ちゃんにまで気付かれていたなんて……。
わたしは自分の喉を押さえた。今朝までは普通に話すことができたのに、なぜか今は声が出なくなっていた。原因はまったくわからない。医者に行って診察を受けたものの、診断はただの風邪だというだけだった。それなのに突然こんな状態になってしまったのだ。本当に不思議だと思う。でも、そんなことは誰にも言えない。だから黙っていた。もちろん家族にも内緒だ。
「その病気ね。わたしが原因なの」
「え?どういうこと?」
思わず声を出した。
「こういうことだよ!」
亜希子ちゃんは突然大声を上げると巨大な怪人に変化し私をどこかへ連れ去ってしまった……。
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