第83話「正路の蓁蕪、 聖門の蔽塞」

「正しい道はこれを妨げる雑草が繁茂して荒地となった。同じように今日聖人の門はふさがっておおいかくされている。人心を惑わす学匪を追放する」

総理がこう言って言論弾圧が始まった。その言葉にはどこか、自分が正しいと信じている者の傲慢さが感じられた。

「しかし総理、その学匪とは誰ですか? それは具体的に何者なのです?」

「そんなことは決まっているじゃないか! あの男だよ!」

そう言って指さしたのは、ちょうど総理の隣に座った人物だった。総理と対照的に、背が低くて貧相な顔つきをした人物だ。

「えっ……私か!?」

指をさされた人物は驚いて立ち上がった。そして自分を指さしている総理を見て、慌てて腰を下ろした。

「そうだ。君以外に誰がいるというんだい?」

「そ、そうか……。私が学匪なのか……」

「そうだとも。君は私の言うことに逆らうし、何かと言えば反対ばかりしてくる。こんな奴は学匪で十分だろう?」

総理の言葉に、男は顔を真っ赤にして反論した。

「ま、待ってくれ! 私はただ国のためを思って言っているだけだぞ! それなのにどうして学匪呼ばわりされなければならないんだ!」

「うるさい! とにかく今言った通り、君は学匪だ! もうこの部屋から出ていきなさい!」

「そんな横暴なことがあっていいのか!? 」

「いいんだよ! 出ていけと言っているだろう!」

「くっ……」

総理に追い立てられるようにして、男は会議室から追い出されてしまった。その様子を見ていた他の議員たちは、皆一様に気まずそうな表情を浮かべていた。

「この調子でやるぞ!」

総理は笑みを浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る