第82話「若者に対して」
日本人全体の平均年齢は48歳ぐらいだそうだ。だから若者の周りはそれなりに人生経験がある人ばっかりだ。人生は苦しいこと、失敗、悲劇を経験したり見聞きしたりすることが多い。だから若者がこれをしたいと言うとこれは実はこうで~などと言って自分はこの業界の現実を知ってるんだぜと言わんばかりのことを語って若者を脅すのだ。そしてその若者たちは自分がいかに若いかを自覚してないから、そんな大人の忠告に素直に従ってしまう。若者は自分の考えや意見を言うより、大人の意見に従った方が安全だとか楽だと思ってしまっている。それは親世代の常識と、自分の周りの大人たちの言葉を信じてしまっているからだ。でもそういう大人も世間を知らないだけなのだ。本当は若者の方がもっと世の中のことを知っているかもしれない。だけどみんなそれを口にはしない。若者はいつも不安なんだよ。何が正しくて、誰が信用できるのか分からない。何かある度に誰かが自分を責めているような気がする。だからとにかく早く大人になりたいと思っている。テレビをつけた。
「あなたは今19歳ですが、これから20年後は39歳になりますね」
「はい」
「その時にあなたの周りにいる人たちは60代70代の人ばかりでしょう。おじいさんおばあさんばかりですよ」
「はい」
「その時になってみなさんはあなたに色々教えてくれるでしょう。それが本当に正しいかどうかなんて分かりませんよ。だってもうすでにお爺ちゃんですから。あなたはそのお爺ちゃんたちが若い頃に体験したことを同じように体験するんです。それが正しいとか間違ってるとか判断できないんですよ。もし間違った知識を持ってしまったらどうします? 例えばですね……」
「はい?」
「あなたのお父さんお母さんは、今は何をしていると思いますか?」
「えーっと……」
「いいですか? 今あなたは19歳という若さで生きています。今は楽しいかもしれませんけど、そのうち辛いことがいっぱい待ってますよ」
「はい」
「あなたがもしお父さんのように会社勤めをしていたとしましょう。ある日突然会社が倒産してしまったらどうしますか?」
「……」
「お父さんみたいに借金を背負って、生活ができなくなって、仕事も探さなくてはいけなくなるかもしれない」
「はい」
「それでも生きていかなければなりませんよね」
「はい」
「あなたはそんな時どうしますか?」
「……貯金を切り崩しながら生活していくと思います」
「そうですね。では仮にあなたが病気になったとしたらどうでしょうか?……」
テレビを消した。今は若者への恫喝がひとつのエンターテインメントだ。
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