第84話「清志さん」

およそ一年中胸は痛むが、とりわけひどく悲しいのは秋だ。

「ああ、今年の紅葉もきれいだったなあ」

窓の外を見ながら呟くと、となりで寝ていた清志さんが身じろぎをした。彼は目を開けると私を見て、「そうだね」と言った。

「もうそんな季節か」

「うん。毎年この時期になると、秋が好きなのか嫌いなのかわからなくなるよ」

「どうして?」

私は布団の中で彼の手を握る。彼の手は温かい。その温もりにほっとする反面、不安にもなる。この人は本当に私のそばにいるのかしら?こうして手を繋いでいる間だけ安心できるような気がするけれど、それは錯覚ではないだろうか。本当は、私のそばには誰もいないのではないか……。そう思うと怖くなる。だから確かめるように、彼にしがみつくのだ。

「あれ?」

気づくとしがみついてたはずの清志さんがいなかった。

清志さん……?

はて、誰だっけ……?

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